復讐決行、これすなわち賢行に非ずなれど我は愚を行かんとす
街に来たがどうするか。
考えてみると荷物に準備は大体ある。
少し気持ちが早まってたか?
そこで俺はこれからの予定を考えた。
俺はあいつ等を殺すつもりだ。方法は考えてある。
そのとき奴隷が一人解放されていたとなれば怪しまれるかもしれない。バレる危険性すら無くすために魔物と共鳴して襲うという手もある。でも、やっぱり復讐は自分の手を汚すものだと思う。
使わなきゃ勝てる見込みなんてないので使うわけではないが。止めは自分の手で刺したい。見られる可能性もあるかもしれない。無駄な危険を冒すことになる。
でも、それでいい誰かの無念を晴らすわけでもない、これは清算だ。俺が自由になるための。
「何したいんだろうな」
自由になって。どうしたいのだろう。
この街には居たくないな。
旅でもするのが良いかもしれない。
奴隷に当たりが強いこともあるかもしれないが。
ここまでにしておこう。
捕らぬ狸の皮算用か何かだ。
俺は元々背負っていたカバンの中から要らないものを捨て。
少し小さめのカバンに要るものを移した。
それと少しの食糧を買う。
頭痛がした。四回目。
これで鼓鳥との共鳴は切れた。
俺が共鳴していた鼓鳥を見ようと空を見ると鼓鳥は落ちていた。
走って落下地点まで向かい受け止める。
多分共鳴は共鳴先の相手にも負荷がかかるのだろう。
申し訳ないな。
俺は意識を取り戻した鼓鳥に餌をやった。
嘴でつまみ食べる。
不思議な感覚だった、誰かに何かを施すというのは。
罪滅ぼしのようなものなのだから施すなんて傲慢だが。
初めてだった。
夜まで俺は少し休憩をした。
チッチッ。
「ん...。は!」
マズイ、寝ていた。
流石に疲労がたまっていたのか。
もう、夕暮れだ。
荷物は取られていないよな?
位置もほとんど変わってないし人が来た形跡もないし大丈夫だろうけど。
カバンの中身を確認してみる。
「フードが!、って来てるんだった。よし、全部ある」
訓練をしているわけでもないただの奴隷だった俺には近くに何かがきたら起きるなんてことはできない。
抜けてる。
「はぁ、生きていく上で絶望的じゃないか」
一旦ため息と弱音を吐いて切り替える。
そろそろアイツらの動向を探るか。
丁度良く、近くに鼓鳥がいるし。
ってこれさっき。寝てたから結構時間たってるけど。
共鳴してた奴じゃないか?
うーん、情なんて湧いてない。
近くにいたお前が悪いそういうことにしてくれ。
「共鳴」
街にもいる鳥だから使えるな。
人には出来ない動きをしたり、ない器官を動かせるのか謎だったか共鳴してみると体は案外簡単に動かせる。体が覚えているというか、共鳴した体が動かしてくれてるというか。
どうしてかは分からないが出来るものは出来るということで今は良いだろう。
少し集中するか。
本体、というか俺の体の方の目を閉じて鼓鳥の方に意識を向ける。
鳥の視界って面白いな。何か光が強く当たってるような感じで。
あと視界が広い。
俺の近くに人がいないことを確認してからまずは宿に行く。
窓から覗いたが居ない。
もう一度自分の周りを見てからギルドに向かう。
もしかしてアルゲンティエルフの捜索に付いていったのか?
いや、無いだろ。
アイツにもう一度会いたいなんて思うか?
もう少し空から見よう。
あ、居た。グラム。
思った以上に感情は揺さぶられないな。
当たり前のことだったから憎むも何も無かった。
アルゲンティエルフはある意味靄を払い正常な視界を取り戻してくれた。
殺そう、それはもう、凄惨に!
思い知らせてやろう。
赦しはしない。
「っは、はぁはぁ」
熱くなり過ぎた。
入り込み過ぎたかもしれない。
これからご飯を食べる感じか?
窓から中を覗くとミーシャ、カーナ、サラシア達もいた。
夜ここから宿までの帰り道の何処かを狙おう。
「道の封鎖は厳しいよな」
確か、見回りの騎士がダンジョンの方に何人か行っていた気がする。人通りの少ないところに誘導できると良いのだが。難しいだろう。見つかる可能性はある。
でも騎士団の数が少ないなら見つかっても逃げれる可能性が少し上がるだろう。
鼓鳥で見張りをしたまま俺はカバンから食料を取り出し。それを頬張った。
「ちゃんとご飯食べてる。自分で」
不思議だ。
嬉しいような、気もする。
感情の名前も機微もまだ俺には難しい。
その内だ、手に入れてやる。
しばらくしてグラム達が出てきた。
復讐を清算を俺を縛るものを、マイナスを、戻そう。
始めよう。
「久しぶり、というほどでもないな。復讐しにきた」
「あ?誰だ?」
「何だ?もう忘れたのか。ラグナですよ、グラムさん」
そう言って下げていた頭を上げる。
「ラグナ?!お前、生きて?いや、そんなわけない。とても生き残れる状況じゃなかったろ。でも、その顔と隷属の首輪も付けてる。運良く見逃してもらえたのか?」
混乱した様子のグラム。
後ろで話していた。他の3人もグラムの様子を不審に思いこっちを見る。
そして同じように驚愕の表情を浮かべていた。
「ラグナ!?」
「そんな、本物?」
「どうやったかは分からないけど。帰って来てくれたのね。ワンちゃん」
呑気に、少し嬉しそうな笑みを浮かべて近づいてくるサラシア。
その加虐的な目を隠してくれていれば嬉しかったのかもしれない。
「待て、サラシア。おい、ラグナ。今、何て言った?」
「ラグナですよ、グラムさんって言ったんですよ」
「違う、その前だ。お前復讐に来たとか言ってなかったか?あ?運よく生き残れたらしいけどな、その首輪がある限りお前は俺に逆らえないんだぞ?危害を加えようとした時点で死ぬの分かってないのか?」
「分かってるよ」
「っち、よっぽど死にたいようだな」
グラムが剣を抜く。
奴隷如きが、そんな言葉が聞こえてきそうだった。
「ちょ、グラム。おい、ラグナ謝れ!そして許しを乞え。そうすればグラムも落ち着いてまた、奴隷として使ってやれるぞ?」
許し?乞うのは俺じゃないだろ。
お前らの方だ!俺を、殺そうとして!
「共鳴」
グラムと目を合わせスキルを発動する。
意識を吸い込まれるような感覚と頭痛がし無事に共鳴は成功した。
最初にグラムと共鳴したのはコイツが俺と主従契約をしているからだ。
コイツの口から契約破棄を命じれば首輪は外れるはずだ。
「ラグナとの主従契約をここに解消する。今、隷属の契約は破棄された」
俺に向かって手を翳し、契約破棄を命じる。
これで俺は解放された。
もう、俺はグラム達の奴隷ではない。
「ちょ、グラム?何やってるの!?」
近づてきたミーシャを持っていた剣で切る。
「!!!っはぁ。ぐ、らむ何で?」
浅かったか。まぁいい。
剣に炎を纏わせる。
これで切ったら火傷でいたいだろうな。
火傷がどんな風に痛いのかもう俺には分からなくなってしまったが。
サラシアがミーシャに回復を施す。
「スキル?ラグナが?二人共左目が光ってる。操る類のスキル...」
「ナイトエイジ」
影から俺に向かって刃が飛んでくる。
カーナの技だ。
この状態だと頭痛はするが頭は澄み渡る。
それに良く見える。
視点が二つあるから場面把握もしやすい。
ナイトエイジを軽く躱して。グラムの体と俺でカーナを襲いに行った。
「っく」
一太刀ほど交えた後で不利を悟って回復したミーシャさんに援護してもらいながら後ろに引く。
「動きは少し硬いね。あんまり難しい動きは出来ないんじゃないかな。ラグナの方を殺せば問題ないはず。でも気を付けてね。ラグナじゃない偽物かもしれない」
「うん」
「はい」
カーナが前線を張りサラシアとミーシャで後衛。
俺が動かしてるグラムならカーナでも戦えるっていう判断か。
グラムを右回りで突進させる。
その裏で俺はナイフを持ち左から回っていく。
グラムをカーナとサラシアが抑え込む。
そして俺にはミーシャが牽制。
風の矢を寸前で避ける。
速いな、危なかった。
雷の矢と風の矢を展開するミーシャ。
流石にこれは避け切れない。
仲間の近くに俺が行ったら援護が難しくなる。
近づけたくないはずだ。
注意するよね。
だからこそ注視する。
そして何か術を使えるのかも知れない、怪しく光る目。
あぁ、目が合った。
「共鳴」
グラムとの共鳴を解除しミーシャと共鳴する。
グラムが手を止め。カーナとサラシアの動きも止まったところに展開していた矢を放った。
「ぐはぁ」
グラムの腹にまともに矢が入った。
「ミーシャ!あ、目...。マズイ、ミーシャも」
「いや、俺は戻った。多分操れるのは一度に一人だ」
「グラム、意識戻ったのですね」
「あぁ、サラシア、回復頼む。くそあの野郎!!おい!ラグナ!謝るなら今のうちだぞ!そしたら半殺しで許してやる!」
許す、か。
勝利が確実なわけでもない、俺が許すというのも立場が違う。
「覚悟してやってきたし、俺はこの行動を間違いだとは思ってない。許されたいわけでもない」
「おもちゃの分際で、奴隷の分際でうるさいのよ!」
もうだめだ。
「俺、別に恨んではいても憎んではいなかったんだと思う...」
俺の常識は塗り替えられていてほとんど何も見えていなかったから。
「でも今は違うんだ。身を焼くほどにお前たちが憎い」
ミーシャの意識を操り魔法を放つ。
あまり目立たないで相手の行動を阻害するような。
「サージングボルト」
電気が地面を走り三人の動きを阻害する。
風の矢を飛ばし牽制しながら俺も近づく。
「エンチャント:ブレイズ」
ナイフに火属性を付与して近づく。
狙うはカーナ。
ナイフを顔の位置に持ちながら踏み込むと同時に後ろに隠していた手をだし一瞬気を逸らす。
そのうちに魔法のように一瞬にしてナイフを手の甲と手首の裏に隠す。
目を、合わせろ。
カーナの目を覗き込む。
一瞬目が合った隙に
「共鳴」
と小さく呟く。
サラシアとグラムからはカーナの体で死角が出来て俺は見えない。
隠していたナイフを出しカーナのわきの腹を指すように突き出す。
そして突き出した手をカーナの意識を乗っ取り掴む。
俺は手を放しカーナの体の方は掴む。そして勢いそのままに半回転しながらナイフをグラムに突き刺す。
俺は逆にカーナが右手に持っていたナイフを取り。カーナの背後からサラシアから見えないような位置取りで飛び出し。グラムの喉を掻き切った。
「ヵハッ」
声にならない声で何か言おうとするグラム。
それは結局言葉とまではならず口パクのようにして終わった。
「グラム!!」