親父とオヤジ
満天の星空が美しいカラカラの大地に一人の男が居る。
ここは暑いのか男はカーキ色のチノパン、白のTシャツとラフな格好をしていて誰かと電話をしていたようだ。
髭も無造作に生やし、ここ数年は髪も切ったことがないのかボサボサで前髪を後ろに流している。
「カエデは元気そうだ。母さん」
ポケットに入っていたタバコを取り出し、空を見上げて一服をする。
彼にとってタバコを吸うのは至福の時間ではなく、恒例の動作になっていた。
「次はジジイか……耳が遠くなったのか声が煩くて苦手なんだよな」
男は頭を押さえて痛そうにしている。
それでも覚悟を決めたのか数回しか吸っていないタバコを地面に落とし、靴底で火を消すとジジイと呼んでいた人に電話を掛ける。
「俺だ。あぁ。予定通りに……二人も元気そうだ──ハァ!? 帰ってやれだと? 俺が今忙しいのを知ってて言ってんのか?」
電話を掛けたかと思うと、相手の人に何かを言われたらしく男は酷く驚く。
「本当にボケるのも大概にしてくれよ……冗談? 本気にしか聞こえなかったんだが」
肩が脱力する。
それだけ彼にとって冗談だと思えなかったよう。
それもそのはず、ジジイと呼ばれた相手は冗談を言うような人間ではなかったからだ。
「まぁいい。アイツも恭子さんに似たんだろうな。着々と──」
言い終わる前にガガガガと言う音が男には聞こえた。
「悪い。別件だ。またなジジイ」
電話を切ると、彼の前には一台の軍用車が停まる。
男は気にする様子もなく自然とその軍用車に乗ると何処かに向かって消えてしまう。
☆
「全く。やっと連絡してきたと思えば途中で切りおって」
ここは、とある老人養護施設の廊下にある突き当たり。
真夜中なので廊下には老人一人しか居ない。
彼は車椅子に乗り、誰かと電話をしていたようでスマホを持っていた震える左手を右手で鎮めていた。
「でもそうか、今度は上手くやれるといいのじゃがな」
老人は顎に生えた立派な髭を擦りながら誰に言うのでもなく呟く。
「ワシの生きている間に終わらせてくれよ、カエデ」
再び誰に言うのでもなく、ぽつりと呟くと車椅子を走らせ自分の部屋に戻っていった。




