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クロイス  作者: あさり
第二章 五月
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これが私の実力です!

 俺はまた夢を見ている。

 どうしてそれが分かるかというと小さい頃の俺が目の前にいて美里とあかりの三人で楽しく遊んでいるからだ。

 小さい頃と言っても前よりは大きく小学二、三年といったところだろう。

 それに周りには所々、モヤが掛かっているので小さい頃の俺が登場せずとも夢だと分かる。


「カエデ! バナナはおやつに入ると思う?」


 美里は間抜けた声で俺に訊ねている。

 俺と言っても小さい頃の俺だがな。


 今日は遠足なのか三人ともリュックを背負ってニコニコ笑顔で楽しそうだ。

 時間的には朝のようできっと今から学校に登校するのだろう。


「んー、おやつの時以外にバナナを食べるならおやつじゃないんじゃないか?」


 腕を組んで眉間にシワを寄せてから答えを出す。

 何ともまあ俺らしい適当な答えだ。


「そっか! ご飯の時に四人で食べようね〜」


 四人って誰のことだ?


 これは夢なので昔の記憶ではなく、ただ俺たちが小さい頃をモチーフに作り出された物語りなのかな。


 三人は仲良く手を繋いだりして学校に向かっていった。

 

「そういや昔は手繋いで行ってたんだっけ」


 小学生の高学年になっていくに連れ、お互いを異性だと認識するあまり、恥ずかしくなってどちらかが手を繋ぐのを止めようと言う前わけもなく自然と手を繋がなくなっていった。


 そこで俺は目が覚める。


「不思議な夢だった。バナナに何か意味があるのか?」


 気になった俺はすぐに「バナナ 夢」とスマホで検索した。

 バナナは「エネルギー」「運気の上昇」「直感力」「経済的な豊かさ」「恋愛成就」「幸運」の象徴か。

 今の俺にはどれもハマらない。

 まあこれからそうなっていくんだろうな。


「お兄ちゃん」


 部屋の外からあかりの声がする。

 いつもならば部屋へ普通に入ってくるのだが何かあったのだろうか。

 最近は自分の部屋に居ることが少なかったので俺が自分の部屋で色々していると思われてても困るぞ。


「ん、どうした?」


 なので俺はすぐに立ち上がり部屋のドアを開けた。


「なっ!?」


 そして、俺は驚愕する。


 あろうことか妹のあかりがメイド服を着ていたのだ。

 サイズもぴったりでどうやら陽先輩はあかり用にも買っていたのか。

 いつもはポニテをしているのだが今回はツインテールにしていて最初から猫耳を装着している。


 猫耳ツインテ妹メイド……ははっ、俺の負けだ。


「よーちゃんに無理矢理着せられたんだけど、どうかな?」


 陽先輩のことをよーちゃんと呼んでスカートの裾を掴み俺と目線を合わせずに相当恥ずかしそうにしていた。

 その仕草が更に俺の心を掴んだ。


「うん、可愛いぞ! うちの妹がこんなに可愛い訳がない訳がない!」


 俺は天を見上げてガッツポーズをする。


「お兄ちゃん何言ってるの?」

「コホン、気にするな。わざわざ俺に見せるために来てくれたのか?」


 咳払いをした後にあかりへ訊ねる。


「よーちゃんがお兄ちゃんに見せてきなさいって」


 モジモジと恥ずかしそうにしながら答える。

 陽先輩は美里の所にいてあのリングで何かをしているので邪魔をされるのは困るのであかりを俺の元に押し付けたんだな。


「折角だからボドゲでもしていかないか」

「ボドゲ?」


 もう少しメイド服姿のあかりを見ていたい俺はあかりにそう提案する。

 どうやらボドゲという略をしないのだろうか不思議がっていた。


「ボードゲームの略だ。今のメイドカフェはそういうゲームを嗜むと聞いたことあがある。後生だ、メイド服を着た妹とゲームをするのは今後この先一生訪れることはないだろう。頼む、俺を男にさせてくれ!」


 頭を下げて更には手と手を合わせてあかりに懇願する。

 こんなことを言ってしまう兄はどこの世界線を探しても三次元ならば俺だけだろうな。


「終始訳が分からなかったけど断ったらずっと言ってきそうだし、こんな恥ずかしい格好二度としたくないから良いよ。でもルールとか分からないから教えてね?」


 苦笑いを浮かべた後にあかりも遊びたかったのか前のめりになって了承する。


「ふふふ、安心しろ妹よ。今回は誰でも分かるお馴染みのゲームをやろうと思う!」


 そう言って俺はタンスから誰もが知っているであろう人生を模して遊ぶボドゲを取り出した。

 上手くいけば社長になり、子沢山に恵まれ幸せな人生を送ることが出来るが、失敗すると結婚も出来ず借金まみれな悲惨な生活に追い込まれる。


「あ、懐かしいね。昔みんなでやってたよね。でもそれならよーちゃんも呼んでこようかな?」

「待つんだ。俺はあかりと二人きりでゲームがしたい」


 肩を掴んで部屋を出て陽先輩を呼びに行こうとするあかりを止める。

 二人きりでやりたいということは何かしらの意味があるとあかりは理解した。


「何を賭けるの?」

「そうだな。勝った方は負けた方の言うことを一回聞く。どうだ?」

「乗った」


 そうして兄妹の意地とプライドを掛けた真剣勝負がベッドの上で始まったのである。


「あ、また子供産まれちゃったよ〜」

「すごーい! 大統領だって!」

「ねぇ〜お兄ちゃん、ゴールまだぁ?」


 妹の人生は順風満帆そのものであった。

 会社は大成功して大企業になり、買える物件は全て買い漁り、挙句の果て大統領へと成り上がった。

 そして、あっという間にゴールをしてしまい今はルーレットの出た数×1000円を毎ターンごとに得ている。


 俺はというと幾度となく借金を背負い、経営していた会社も潰れ結婚していた奥さんにも逃げられ、終いにはゴール手前でスタートに戻され、借金地獄から抜け出せずに終わりを迎えた。

 

 何故終わりを迎えたかと言うと借金の紙切れが尽きたことと、お金の紙切れも尽きたからだ。

 どう足掻いても俺はあかりに勝てないのは誰が見ても明白だった。


「お兄ちゃんが借金まみれにならないように今から教育しないといけないね」

「これはゲームだからな……本当の人生はこんなルーレットごときで決まらないんだぜ……」


 俺は真っ白に燃え尽きたボクサーの如く俯いた。

 ここまでボロ負けするとは思っていたなかったので精神的ダメージが大きい。


「それじゃ一つだけ言うことを聞いてもらえるんだよね?」

「武士に二言はない」


 あかりは容赦なく俺に要求する。


「そうだなぁ……それなら頭を撫でて欲しい……かな?」

「頭をか?」


 最近は撫でていなかったが、その程度の願いならいつだって叶えてやれる。


「ダメかな?」


 顔を紅潮させながら上目遣いで俺を見る。

 こんなの何がなんでも断れない。


「お易い御用だ」


 我が妹ながら可愛過ぎて抱きしめたくなるが我慢をしてポーカーフェイスで肯定する。


「ふんふふんふーん〜」


 あかりは鼻歌なのかよく分からない音を発して猫耳を外す。

 いつでも撫でられてもいい体制をとった。

 なので俺もあかりの頭を撫でる。


 あかりの頭を撫でるのも先月ぶりか?


 柔らかな髪の感触が俺の掌に伝わると、あかりは嬉しそうに目を閉じて喜んでいた。

 最近は美里のことばかり考えてしまっていたので少しばかり寂しい思いをさせてしまってたんだな。


「ごめんな、あかりに構えなくって」


 気付けば俺はそんなことを口にしていた。


「ううん、今は仕方ないよ。私だってお兄ちゃんを構ってあげられてないし、そうやって気遣えるようになっただけでも妹として大変嬉しく思っております」


 何故か敬礼をして笑っている。


「もう高校生になったことだしな。気遣える人間にならないと」

「後ほんの少しだけ日常生活にも気を遣えると良いんだけどね。朝なんて中々起きないし」

「それは無理な要件だ。朝は五分でも寝ていたいものだし」


 時は金なり、朝の時間は一分一秒でも長く寝ていたい。

 どうしてそんなに早い時間に起きて学校へ行かなければいけないのか未だに理解出来ん。

 朝が弱い人だって沢山いるのにな。


「あー! あーちゃんったらご主人様とゲームしてる! 抜け駆けなんてずるいですよっ」


 俺たちの話を遮るかのようによーちゃんこと陽先輩がノックもせずに俺の部屋へと入ってきては騒いでいる。

 

 あかりだからあーちゃんね……。

 てかまたご主人様設定に戻ったんだな。


「お兄ちゃんから言ってきたから抜け駆けじゃありません〜」

「むむむ、ご主人様。私とも遊んでください!」


 陽先輩は俺に近寄り抱きついてきた。

 そうして小声で呟く。


「呪いの解き方が分かりました」


 俺の鼓動がドクンと脈打つのが聞こえた。

 先輩の一言に驚いてしまったのだ。

 けれどあかりの前で驚いてはいけないから小声で迫ってきたのだろう。


 俺は平然を装い話し始める。


「仕方ないですね。一回だけですよ?」

「やったー! ご主人様、大好きです」


 陽先輩は更に俺に密着して離さない。

 演技だろうが抱きつかれ慣れていないのでとても恥ずかしい。


「あはは、私はお邪魔みたいなのでお先に退散しますね。よーちゃん、お兄ちゃんをよろしくお願いします」


 ニッコリとまるで親戚のおばあちゃんのように不敵に微笑むとあかりは部屋を出ていく。

 時間的にご飯を作らないといけないからな。


「私の生き様をあかりさんにも見せてもらいたかったんですけどね。カエデくんは弱そうなのでババ抜きでもやりましょうか」


 崩れ落ちるほど酷く落胆すると胸元からトランプを取り出していた。

 何もツッコまないからな。


「それでどうしてあかりには教えてやらなかったんですか?」

「これを見てください。あかりさんの部屋から見つけました」


 スマホを胸元から取り出して俺に見せる。

 それはあかりの部屋の写真で机の上にはノートが広げられている。

 

「心霊現象でも写ってたんですか?」

「カエデくんはそんな物を信じているのには驚きましたが重要なのはノートの内容です。ズームしますね」


 それは俺が一度見てしまったあかりのノートで、内容は連鎖強盗についてのことだった。

 今だから何となく分かる。


「この話してる二人って美里と陽先輩ですか?」

「その通りです」

「でもあかりの筆跡だよな」

「それも間違いではありません。次のページを見てください」


 スワイプさせると次のページになる。

 それは俺たちが旧荻野邸に行っていた時のやり取りが事細かに記されていた。


「どういうことですか?」


 訳が分からない俺はそのまま陽先輩に訊ねる。


「考えられるの可能性としては三つあります。一つは美里さんとカエデくんに盗聴器が仕掛けられていた。これなら話している内容を把握出来ます。もう一つは月の不死身のように未来予知的な力を持っている。ドッペルゲンガーなんて分身を作り出せる能力が使える人が陸上部単位で居るのならば未来予知を持っていてもおかしくありません。現に世界で活躍するマジシャンなども何らかの超能力を持っていますからね」


 喋りがらもババ抜きは続けている。

 そうして陽先輩はわざとなのかババを引いて俺に見せる。


「そして最後に厄介なのが自分の思い通りに未来を変えられる力。もしこれなら美里さんが目覚めるも目覚めないもあかりさん次第、ということになります」

「ババ抜きがびっくりする程弱いのもあかりが先輩にそうなるよう思い描いたんですかね?」


 ババを見せていたので俺は反対側のカードを引いてあがった。

 喋りに集中していたからか自分の持っているカードをよく見ていなかったようだ。


「これは私の実力です!」


 彼女はキメ顔でそう言い放つ。

 ボードゲームは知らないけれどカードゲームは弱いらしい。

 月先輩と違って陽先輩は表情が豊かだからな。


「でもその三つのどれかが本当なら今こうして話しているのもバレているんじゃないんですか?」


「バレても良いからこうやって喋っているんですよ。未来を変えられるのなら永遠に目覚めない美里さんを見て幼馴染であるカエデくんが悲しむ姿を妹のあかりさんが楽しんでいる、そんなことを彼女に出来るかどうか分かりませんけどね」


 どうやらあかりを試しているらしい。


「それでどうやったら解けるんですか?」

「もし、最後の一つならあかりさんに解いてもらおうって話です」

「んな他人任せな」

 

 俺がツッコミを入れると陽先輩は立ち上がり部屋のドアを開けた。


「あわ、あわわ!?」


 どうやらあかりはドアに張り付いていたようで体制を崩し倒れてしまう。


「えへへ〜」


 自分の後頭部を撫でて居づらそうにしていた。


 これもあかりが考えた結末なのか?

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