ープロローグー
別サイトで掲載していたものを少し改稿しています。
今回と次回の少しだけは三人称です。
時刻は深夜二時。
ここは一般人が簡単に入ることが許されていない、とある無人島。
無人島と言えど一世紀前の昔は沢山の人で栄えており、廃墟と化した現在とは比べ物にならない大きな商業施設が所狭しに顕在していた。
今は無断で入島することは出来ないが申請さえすれば一年の決まられた時期にだけは訪れることが出来る。
無人島の古びた廃墟のひとつへと一人の少女が入っていく。
本国からは何万キロも離れているだけでなく、この島は常に国の監視下にある。
それなのに少女がいるのだ。
まだ夜は肌寒く、北国ならば雪が降っているにも関わらず夏服のセーラー服を着ていて、どうやら少女は寒くないのか冷え切った二の腕も手のひらも触ることなく平然と散策している。
本人は寒さも監視があるのすら気にする様子は一切伺えない。
朧気な表情を浮かべ、少女は幽霊なのではないかと思えてしまうほどだ。
廃墟は何年も使われた形跡もなく、窓ガラスは雨風によって完全に割れ木枠しか残っておらず大きな屋敷であったであろう建物は、ボロボロに朽ち果ててしまい、階段を上がるだけでも一苦労に見える。
「もう少し……」
そんなことは我関せずと言わんばかりに少女は月夜の明かりだけを頼りに階段を兎のようにピョンピョンと飛び跳ねて難なく上がり一番奥の部屋へと向かうと、その場で一度立ち止まる。
誰も居る訳がないのに律儀にもドアを二回ノックをしたのだ。
それはまるで普段から”ドアの前ではちゃんとノックをするように”と教育を受けてきたようにも見える動作。
二回ノックするのは空室かどうかの確認、当然人が住んでいないここでは内側からノックは帰ってこない。
返事がないことを確認すると、少女は中へ入っていく。
入室してからは辺りを見渡し、部屋に残されていた肘掛け椅子に座り一息つくと、自分の唯一持っていた持ち物であるカバンから何かを取り出す。
肘掛け椅子は劣化していてボロボロになっているが昔ならば相当な価値のある代物だったに違いない。
だが少女は学校の教室にある生徒が座る備え付けの椅子程度にしか思っていないだろう。
少女はそれよりも大事なことがあったからだ。
「手始めは即効性のある抗うつ剤、デュロキセチン配合。鬱じゃないから鬱病を粧って手に入れたけど、とてもとても苦労した……いま思い出しただけで鬱になりそう……」
殆ど抑揚もなく、ただ淡々と手に入れるまでを思い出したのか、溜め息混じりで薬に向かって話しかけていた。
少女がカバンから取り出したのは沢山の錠剤だった。
それを一錠だけ取り出すのではなく、左手に乗せれるだけ乗せるとカバンから水筒を取り出し、躊躇わずに薬だけを全て飲み干した。
水筒はあくまでも喉が詰まった時だけに使うようで、今のところ開けることはない。
「うん、少しフラフラしてきたかな? もう少し頑張る……」
首を傾げた少女は自分の体調を一瞬だけ目を瞑って確認すると、空になったPTP包装シートを床へ投げ捨てまた新しく錠剤を飲んでは捨ててを繰り替え始めた。
普通の人が見ているのであれば、その光景は異様で、おぞましくも見える。
けれど少女は自分の夢のために必死になっていた。
何度か繰り返した後に錠剤は一種類だけになる。
そしてその残された青くて綺麗な錠剤に手を取った。
「さようなら、世界」
にっこりと笑い、長く白い髪が月夜に光る。
それは即効性のある睡眠薬だ。
大の大人でもそれを飲めば数分と経たずに夢の世界へと誘われてしまう強力な物だ。
そんな強力な薬をまるでビールの一気飲みをするかのように大量に飲み干した。
すると、たちまち少女はピクリとも動かなくなってしまう。