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ウィズアウト  作者: 宮本 冠也
入校祭編
6/7

もう一つの出会い

騒ぎの様子を見に来た時にはすでに、二人の子供を囲む人だかりができていた。


「ですから、そちらは希少品ですのでもう在庫がないんです!」


「さっきの客は買ってたじゃない!」


「あれで最後だったんだよ!」


イーブ君の敬語も崩れはじめ、貧乏ゆすりと喧嘩腰の口調から、相当イラついていることが分かる。


 一方の彼女はどうだろう。長い髪を両側で結い垂らし、くっきりした目鼻立ち、一見すると普通の可愛らしい女の子だ。しかし違うのだ。今の彼女はその可愛らしさを、凌駕するほどの殺気で威嚇している。その姿はまさに猛獣そのものだ。


両者一歩も譲らない。

口論は続き、そしてついに


「あのな、いい加減にs」


彼の怒りが爆発しかけた瞬間、二人の大人が止めに入る。


ズガンッ‼

パチーン‼


「痛っ‼」

二つの音が響く。

一つはおじさんの強烈な拳骨。イーブ君は思わず頭を押さえうずくまる。

もう一つは、


「やめんかアホ!」

「辞めなさい、こんな公共の場で!」


 180㎝は優に超える長身、女の子とよく似たくっきりした目鼻立ち。年齢は僕の父さんと同じ位だろうか。しかし、赤の他人が小さい女の子をいきなり平手打ちするのは、流石にまずい気がする。もしかしたら、父親なのかもしれない。

ぶたれた頬は赤くなり、女の子の目には涙が溜まる。


「申し訳ございません。うちの娘が粗相を働いたようで」


よかった。やっぱり彼女の父親らしい。平手打ちにも納得できる。


「いえいえ、こいつの説明不足ですわ。お嬢ちゃん、また今度在庫が有る時に来てくれんか、サービスするで。ほれ、お詫びにお菓子どうや。」


お菓子を和解材料に使うつもりらしい。

女の子の反応は、


「嫌だ‼もう絶対来ないから」


 そう叫んで彼女は泣きながら走りだした。が、ちゃっかりお菓子だけはもらっている。女の子らしい一面もあるみたいだ。


「本当にすいません。まだまだ我が儘な子で」


「なーに、子供はあれぐらいの元気さが一番ですわ。」


「そうですかね。っと、すいません。そろそろ追いかけないと、またあの子を見失ってしまうので失礼しますね。」


 そう言い残して父親も彼女の後を追いかけた。二人の名前は分からずじまいだけど、言葉遣いや服装にも品があったし、高い身分の家柄かもしれない。



「あんな闘牛みたいな奴いるんだな、怖いわ。アルスターもそう思うだろ?」


「……はい。」


――― 喧嘩の流れ的に君にも非があるのでは?


 彼女も同じ制服を着ていたということは、入学後再び鉢合わせるかもしれない。また喧嘩にならないと良いけど。


「はいはいこの話は終わりや!閉店まで後1時間半。もう一働きや。」


 無事?喧嘩も丸く収まり、再びそれぞれの持ち場に戻る。その後1時間半、客の勢いは止まることなく大盛況だった。トラブルこそあったもの売れ行きは上々、出店用の商品はほとんど売り切れてしまい、閉店時間を早めることになった。商品補充を担当した僕は、何十往復も出店と倉庫を行き来するはめになり、体はもうくたくただった。


「お疲れ様や!イブも坊主も本当によう働いてくれた。まあ、イブは及第点ってところやけどな。同級生の女の子を泣かせたんやからな。」


「いや、泣かせたのはあの女の父親だろ。」


「間接的にはイブが原因だったやろ。学校内で会えたら謝っとけ」


「嫌だ」


「あ や ま れ」


「……分かった」


しぶしぶイーブ君は頷く。

――― ああ、拳骨が嫌だから無理矢理従ってるのか。


「まあとにかく、良く働いた坊主には報酬をやらんとな。しかし、普通に金銭を渡しても親御さんが心配するだろうしな、何か希望あるか?」


「いえ、好きでやったことですし、何も要らないです。」


「いかん、それは許さん。報酬の無い労働などワシが許さん。」


「でしたら、またいつか来ますので、その時までに考えておきます。」


「なら許す!子供が遠慮なんかすんな」


そういっておじさんは愉快に笑いながら、僕の肩をぺシぺシ叩く。


 正直大変な仕事ではあったが、それ以上に面白い経験を積めたので、個人的に満足していた。見せてもらったおじさんのフリーエンも本当に綺麗だった。だから、報酬はいらないというのは本心だったのだが、遠慮してると思われたらしい。


――― 本当に、いらないんだけどなー


 結果的に良心に甘える形で報酬の件は終わり、今馬車停に向かえば丁度良い時間であることに気づく。入校祭ももう終盤だ。


「あの、そろそろ帰りますね。」


「おう!本当に今日は助かったわ。またいつでも来てくれや。ほれ、お前もなんか言っとけ。」


「まあ助かったわ。学校で会えたら宜しくな。」


「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


――― やったよ!僕やったよお母さん。この人が友達かどうかは分かんないけど、


でも、嬉しかった。


【学校で会えたら宜しくな。】

読み方によっては、会えなきゃ宜しくしないという意味かもしれない。それでも彼となら、イブ・フレーヴァングとならやっていける気がする。


――― この先どんなことがあったとしても。


根拠は何も無い。今日出会ったばかりで、仲が深いわけでもない。

それでも、今僕は彼との出会いに奇跡的な何かを感じていた。





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