第六十九話 宿屋に泊まるという贅沢
宿賃というものは、高いものから安いものまで様々にある。小さな村では選択の余地もないことも多いが、都市ともなればたくさんの宿屋がある。
正規の宿屋は専用のギルドに加入しているため、看板を下げている。宿賃の方はだいたい建物の豪華さに比例している。
「ここにするか」
俺は中くらいの豪華さの宿屋を選んだ。
この建物の大きさだと、一度に三十人くらいは泊まれるだろう。この国の標準的な宿屋である。
高級すぎれば金が足りないだろうし、貧祖ならば犯罪が心配だ。
「やれやれ。これほど小さな宿に泊まる客ははじめてかもしれん」
リーダーの男が呆れたように首を振る。
鳥使いの客は貴族や大金持ちばかり。泊まるとしたら、必然的に都市一番の宿屋ということになる。
そもそも俺たちは客なのか? 金を出して鳥使いたちを雇ったわけじゃないぞ。
「あんたらも金持ちそうにはみえないが?」
「ふんっ。いってくれるじゃないか」
リーダーの男が着ているのは、平民と同じ。
セレシアとエルナを運んでいる女性たちの服も。その他身に着けているものも安ものばかりだ。
とても高給をもらっている身分とは思えない。
「一匹の鳥を調教するのに、どれだけの金が必要だと思っている? 豪邸どころか城が建てられるぞ」
この男のことだから、話半分に聞かなければならないだろう。
それでも野生の動物を調教するのは大変なことに違いない。どうやって調教するのか想像すらできない。
「あんたの……『ゆーちゅーばー』だったかな。いくらでも金が稼げる人間に、商売人の苦労など理解できないだろうよ」
「簡単に金が稼げるはずもない。こちらも苦労ばかりだ」
俺の『ゆーちゅーばー』はかめらでとる風景によって稼げる金額が変わる。
高額を狙うなら、それなりの工夫が必要だ。例えばヴィクトリアちゃんと一緒に踊ったりと。
いわば根本的には仕事と変わらないのだ。上手くやれば元手なして効率よく稼げるだけで。
まだまだ『ゆーちゅーばー』にもわかっていないことは多い。本当は少しずつでもスキルの開発をするべきなのだろう。村の開発で忙しすぎて暇がないのだが。
リーダーの男は俺の職業をそれなりに評価してくれるようだ。
面白い。冒険者ギルドでは、まるで評価はされなかった。場所が変われば、評価の基準も変わる。金を直接あつかう商売人からは高い評価をされるとは思わなかった。
「へっ! つまらんな。楽して稼げると思ったのになぁ。あんたが良ければ、いつでも鳥使いに入ってもいいぞ。歓迎する。修業はとてつもなく厳しいがな」
俺が鳥使い?
体重が重すぎで無理なのではないかな。少しだけ興味はあるが。
宿屋に入ると、若い女性の従業員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいま……ええ!?」
いくなり驚かれた。まあ、無理もない。
セレシアとエルナ。美女二人を両肩に抱えている。
鳥使いたちはあっさりと帰ってしまった。どうせなら部屋まで運んでくれればよかったのに。
酒場に行くのが待ちきれなかったようだ。
食事は草しか食べなくとも、酒はいいのか。
鳥使いにも謎は多い。
別に解き明かす必要もないが。
「俺たちは怪しいものではない。冒険者だ。しばらく宿を借りたい」
「は、はぁ。それなら……。一泊三百ゴールドになりますがよろしいですか?」
最悪門前払いになるとかと予想していたが、泊めてはくれるようだ。
冒険者は変人が多い。この都市には冒険者ギルドがある。冒険者を泊めるのに慣れているかもしれない。
あるいは、犯罪者だろうが関係なく泊めてくれるのか。
いずれにしても俺には助かった。
三百ゴールドというのは、それほど高くは感じない。
一般的な食事、六食分。中級の宿屋なら悪くない値段だ。
ん? まてよ。
この値段では一部屋しか確保できないだろう。
パーティーの仲間とはいえ、若い女性と同じ部屋でいいのだろうか。
……。今さらか。
辺境の村では普通に同じ家で暮らしているからな。
金を払い。部屋に案内される。
俺に担がれてけっこう揺れているのに、二人とも起きる気配がない。
今日のことだけでなく、日ごろの疲れが溜まっていたのかもしれない。
都市で四人目の仲間を迎えたら、数日の休暇を取るべきだろうか。
二人とも無邪気な寝顔である。
十八歳という年齢よりも、幼くみえる。
「この部屋です。あの……。くれぐれも面倒を起こさないでくださいね」
若い従業員はしどろもどろだ。
そんなに俺の顔は凶悪そうにみえたのか。
俺ほど安全な男は、この国に五人もいない自負があるのだが。
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