第六十七話 草の調理方法
セレシアと話しているうちに、鳥使いたちが夕食を作り終えていた。
速いな。一時間もかかってないのではないか。
客である俺たちにも夕食が配られてくる。
しかし、なんだこれ?
草を丸めたようにしかみえない。
こぶしと同じくらいの大きさだ。火で焼かれているようだが、臭いをかいでも草の臭いしかしない。
この草のかたまりを食えというのか。本当に?
「食べられるよ。美味しくはないけどね」
すでにセレシアは草のかたまりにかじりついている。
セレシアの職業は『偏食家』である。何でも食べられるし、毒の有無も味でわかるようだ。
「本当か?」
何でも食べられるわけだから、でたらめをいうこともできる。
こいつ時々俺をからかって遊ぶからな。油断できん。
「本当だよ。私が君を傷つけるはずがない。未来の旦那様なのだから」
むう。
また遊ばれているのか。よくわからん。
くそっ。
こうなったら食ってみるしかないな。
まさか生死に関することまで嘘はつくまい。それくらいの信頼はある。
鳥使いたちも平気で食べているからな。
……いや、微妙につらそうな表情だ。やっぱり不味いのか。
意を決して、一口かじってみる。
……。
うん。これはただの焼いた草のかたまりだ。
味付けもない、草そのままの味。かんでいる内に口の中を乾いてくる。
鳥使いたちは黙ったまま草のかたまりを食べている。
笑顔はない。食べて慣れているだろう連中でもこれだ。美味いと思う人間は存在しないのではないか。
鳥だけはわき目もふらず、大量の草を平らげている。
ということは、これは鳥の大好物なのか?
美味い食事には人を笑顔にする力がある。
俺たちの村の食事風景をみれば、それがよくわかる。
夕食がこれでは、明日への力が出ないだろ。
「もしかして太らないために、草しか食べないのかな?」
なるほど。
そういう可能性もあるか。
食事が貧しいのは、それだけ空を飛ぶことに誇りを持っているということか。
俺たちが食事の内容を改善しようとするのは、かえって失礼にあたるだろう。
人間にはまずい食事をする権利もある。
また一つ、新たな価値観に気がついた。
今日のところは、草のかたまりを食べるしかなさそうだ。
やれやれ。
もう一口、かたまりをかじろうとして気がついた。
これ。
毒のある草も混じっている。
「おい、セレシア。草をよくみてみろ」
「あ。毒のある草だ。でも確かにかたまりには毒はなかったよ」
もし毒の草は食べたのなら。
熱を加えようとも、体中に激痛がはしる。一か月は苦しむことになるだろう。
冒険者学園では絶対に食べてはいけない植物として教えられた。
それなのに、普通に食べることができている。
不思議だ。鳥使いたちの独特の知恵だろうか。
「面白いね。リーダーに聞いてみようか」
「いいだろう。俺も興味がある」
これが本当なら教科書が書き換わる。
俺としても飢えをしのぐ手段が一つ増えるのは歓迎だ。
「教えるはずがないだろ。調理法をみつけるのに、どれだけの時間がかかったと思っている」
あっさりとリーダーの男は俺たちの頼みを断った。
先ほどまでと違って、不機嫌である。きっと不味い飯を食べているからだろう。
まあ不味いといっても、セレシアが作った料理ほどではないのだが。
おれは食いものですらないからなぁ。
「いいじゃないか。減るものじゃないし」
なおもセレシアがつめ寄るが、リーダーの男は首をたてに振らない。
「あのなぁ。この草は世界中のどこでもある。皆が毒だと思っているから手を出さないんだ。調理法が伝わって、簡単にとれる食料がなくなっては困る」
リーダーの男がいっていることは、商売人としてはもっともだ。
この情報には莫大な価値がある。簡単に教えられないのも無理はない。
こちらに交渉材料がない以上、聞き出すのは不可能だ。。
が、それで納得するセレシアではない。
モンスター食を極めようとしている女である。この程度であきらめるはずもなかった。
「アラン。この料理に使われている草を集めてくれないかい? もちろん毒の草も含めてね」
「……今からか?」
すでに夜もふけている。
今から草を集めるとなると、朝までかかる可能性がある。
「当然だよ。アランは悔しくはないのかい? 謎は謎のままでさ」
「別にそれほど悔しくはないが?」
俺にはセレシアほど食への情熱はない。
確かに料理法に興味はあるが、森には他に食べられるものがいくらでもある。
「駄目だねぇ。それじゃあ、元パーティーに復讐できないよ?」
「やってやる」
元パーティーのことをいわれたら、絶対に引き下がれん。
たとえセレシアの挑発だとわかっていようともな。
単純だって? 知るか。
「やっとわかったよ、アラン。この草さ。毒のある草と混ぜれば毒が中和されるのだね。いやぁ、面白い。これで私の料理への知識がまた一つ増えたよ」
すでに朝になっていた。
鳥使いたちが朝ごはんの用意をしている。
一晩中、草を集めてはたき火で焼いていた。その草をセレシアが片っ端から食べる。
その結果、鳥使いの料理法が判明したのだ。
疲れた。けど。
セレシアは嬉しそうに笑っている。
まあ、それで十分な気もしてきた。
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