第六十六話 一日の終わり
周囲が暗くなってきて、今日の分の飛行は終了となった。
熟練の鳥使いたちも暗闇の中を飛ぶようなことはしないようだ。
世界には真夜中でも先がみえるような職業とスキルは存在する。この鳥使いの集団にはその職業を持つ人間が存在しないか、鳥の疲労を考慮したのだろう。
俺のような素人がみるかぎり、鳥たちはまだまだ元気そうではある。目にみえない疲労を鳥使いたちは感じ取れるのだろう。
鳥たちは家族。そういっても過言ではないな。
着地したのは森の中であった。当然だ。見渡す限り森しかないのだから。
一見俺たちの村と同じように感じるが、少しだけ違う。発生するモンスターも微妙に違うはずだ。
縛りつけられていたエルナを解放する。
白目をむいて、気絶している。体を揺らしても意識が戻らない。
……まあ、大丈夫だろう。よく気絶しているからな。
エルナにとっての不幸はもう一日空を飛ばなくてはいけないこと。がんばれ、としかいいようがない。
俺も生まれてはじめて空を飛んだわけだが、それは楽しい経験であった。
空を飛ぶモンスターは多い。それらと戦うために鳥を活用してはどうだろうか。
駄目だな。もし鳥が傷ついて使いものにならなくなったら、完全なる赤字になる。一回のモンスター討伐で稼げる金額などたかがしれている。
「よーし! 飯にするぞ!!」
リーダーの男が叫ぶ。
鳥使いたちはそれぞれの仕事をはじめる。すでに役割は割り振られているらしい。個別に指示がなくても動いていく。
俺も手伝おうとするが、リーダーの男に止められる。
「あんたらは客だ。客に働かせるわけにはいかん」
というわけで。
鳥使いたちが夕食の準備をしているのを、何もせずにみている。暇である。
なんだか、慣れない。あの村で働きまくっていたから、何もしないというのに苦痛を感じる。
エルナはまだ意識を取り戻さない。
朝までこのままなのだろうか。いっそ都市に着くまで気絶していて欲しいな。
「暇だねぇ」
隣にセレシアが座っている。セレシアも客なので何もすることがない。
もっともこいつの場合は作業が嫌いだから、今の状況を喜んでいるに違いない。
「よく統率された集団だね。私たちの村もこれくらいなら今ごろは……」
確かに完璧に統率された働きは美しくさえ感じる。
意外だったのは、鳥使いは鍋や寝床などの道具を一切持っていなかったことだ。全てが現地調達である。
少しでも重さをおさえるためか。一匹の鳥が背負って飛べる重さは、実はそれほどでもないのかもしれない。
セレシアのいっていることは正しい。
それでも、自分の村をけなされると反論したくなる。
「だが、俺たちの村にも良いところはあるぞ」
創意工夫。
元学者が多い村人たちはその美徳を持っている。
失敗は多い。が、いつかは大発明が生まれる期待も同時にあるのだった。
「そうだね。アラン、知っている? あの人たちはすごい学者ばかりなのを」
「そうなのか?」
作業に忙しすぎて、その辺りはあまり聞いていなかった。
普段の村人からは威厳など感じない。作業に疲れて、へばっている印象しかない。
「うん。建築家やスキルの研究家。武器の開発者、新しい物質を発見した人まで。国に引き留められた人も多かったみたい」
それなのにスローライフを求めて辺境にきたわけか。
スローライフというものはそれほどまでに魅力があるのか。
わからん。俺も年をとったらわかる日がくるのか。
「だから今のうちに恩を売っておくといいかも。いつか十倍にして返してくれるはずだよ」
セレシアが笑う。
ちょっとだけ悪い笑みである。
「打算なんてないぞ。村の仲間だから助け合うだけだ」
誰かを助けるということは打算ではない。本能だ。
打算で人を助けるなら、苦労はしていない。
自分でも馬鹿だとは思う。だがやめられない。
人の世話を焼くのが、子供の時からの習性になってしまっている。
「もし俺のことが気にいらないのなら、今すぐパーティーを抜けてもいいぞ」
「まさか」
俺の手にセレシアの手が重ねられる。
「君のそういうところが好きだから、一緒に辺境までついてきたんだ。そもそも君じゃなければ、私の方こそとっくにパーティーを追放されていたよ」
おせっかいな性格が褒められたのは、はじめてだ。
空を飛び、森の中でこんな言葉を聞かされる。
人生で二度とない一日かもしれない。
「セレシア。お前は変な奴だな」
「アラン。君だってそうだ。君ほどのお人よしはこの国に一人か二人だよ。」
大げさすぎる。
お人よしなのは認めるが。
そのおかげで、いらん苦労ばかりするはめになっている。
まあいい。
それが俺という人間だ。
俺は俺なりの方法で、冒険者として成り上がってやるさ。
俺は重ねられた手を持ち上げる。自然と握手している形になる。
「まあ、これからもよろしくな」
「アランにしか私の面倒はみられないのだからね。それを忘れずに」
苦笑せざるを得ない。
なんだその言い草は。普通は逆だろう。
セレシアだけは。
俺がどんなに落ちぶれようとも、最後までついて来てくれるような気がする。
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