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第六十五話 辺境の上空にて

 俺たちの住んでいる辺境の村。

 空から見下ろすと、ひどく小さくみえる。村だけではない、見上げるほどの高さを誇った木々もまるで子供のおもちゃのよう。


 風が強い。


 見渡す限り森が広がっている。地上は緑一色である。

 森こそ、辺境で住む人間に生きる糧を与える。それと同時に、住民を閉じ込めておく檻の役目をはたす。

 ここで生きるということは、森と共に生きるということなのだ。



 柄にもなく、あれこれと考えてしまう。

 それほどまでに空からみる光景は衝撃的であった。

 

 空を飛んだのは、はじめての経験。とても先ほどまで暮らしてきた世界と同じとは思えない。この風景を毎日みられるのなら、命をかける価値があるのかもしれない。




 鳥たちは陣形を組んで飛んでいる。

 いつモンスターが襲ってきても対応できるような陣形だ。


 俺たちは客なので陣形の中央で守られている。

 冒険者といえども、鳥の背に乗ったまま戦うのは難しい。特別な訓練が必要になる。




「アラン! かめら貸してよ!!」


 近くで飛んでいたセレシアが叫んだ。

 風が強くて叫ばなければ、声が届かない。


 かめらって、あれか。

 俺の職業『ゆーちゅーばー』のかめらか。

 今は空を飛んでいるのだ。遊んでいる場合ではない。


「貸せないな!! 大人しくしていろ!」



 空から落ちたら死ぬのだぞ。

 しっかりと鳥の胴体にしがみついていろ。



「いいじゃないか! この風景をかめらで撮ったら、どれくらい稼げるのか実験してみたいのさ!!」


 こいつ。

 恐怖というものが存在しないのか?

 エルナのように過剰に怖がるのも問題だが、まったく恐れないのも問題だ。この二人を足して、半分に割ったくらいがちょうどいい。

 どうしてこう、俺のパーティーには極端な奴しかしないのか。



 だが。

確かに興味はある。めったにみることができない風景だ。ひょっとしたら大金が稼げるかもしれない。

ヴィクトリアちゃんと一緒に踊った時とどちらがより稼げるだろうか。




 ふむ。

 やってみるか。


 『ゆーちゅーばー』のスキルを発動する。

 手の中にかめらが現れる。エルナの『やきゅう選手』と同じように、何もない空間からかめらを取り出せるのだ。



「あー! ズルいな! 私がやろうと思っていたのに!!」


 そもそも……だ。

どうやってかめらをセレシアのところまで届けるのだ。まさか投げるわけにもいかない。

 仮に投げたとしても、セレシアの運動能力では受け止められない違いない。


 かめら自体は一定の距離を離れると、手元に戻ってくる。

 それでも自分の職業を乱暴にあつかう気にはなれん。




 かめらで風景をとる。


 青い空。緑の森。それ以外には何もない。




 チャリン。チャリン。


 五十ゴールド硬貨が落ちてきた。

 む。こんなものか。期待よりもかなり下だ。

 やはり風景では金にならないな。それも止まることなく五十ゴールド硬貨が落ちてくる。都市での昼飯代くらいにはなるだろうか。


 そういえば無一文だったのを忘れていた。

 辺境で暮らすと金を使う機会がなくなる。文明から遠ざかってしまうのだった。




「おい! 面白そうなことをやっているな!! なんだそれは!?」


「俺の職業だ! これで風景をとると金が稼げる!」



 手に持ったかめらをリーダーの男の方へ突き出してやる。



「ハハッ! 変な職業だな! 聞いたこともないぞ!!」


 リーダーの男が豪快に笑う。

 そうだろうな。こんな職業は前代未聞である。

 都市の中では自分の職業をいわない方がいいかもしれない。リーダーの男に悪意はないが、都市の人々が笑ってすませてくれるとは限らない。



 先ほどからリーダーの男は地図もみずに空を飛んでいる。

 空と森。現在の場所がわかる目印は存在しない。

 おそらくリーダーの男は、進むべき方向がわかるスキルを持っている職業なのだろう。



 試しにリーダーの男をかめらでとってみる。



 チャリン。


 五ゴールド硬貨一枚。



 まあ、そんなものか。

 なぜか俺の『ゆーちゅーばー』は男には厳しい。これがセレシアのような美女なら、もうちょっと稼げるのだが。

 エルナはどうだろうな? あいつもみた目はいいから、それなりに稼げそうである。




「だが、その辺でやめた方がいいぜ! 硬貨は重い。墜落しちまうぞ!!」


 おとぎ話にそんなものがあったな。

 欲を出しすぎた人間がしっぺ返しをくらう。まさに今の状況だ。

 ただ、俺は金が欲しいわけでもない。大人しくかめらを消す。



「ハッ! それでいい!! 地面に足がついたら、いくらでも稼いでくれ! なんだったらこの集団を丸ごと雇ってくれてもいいぜ!」


「あんたたちを雇うのに、どれくらいの金が必要なのだ!?」


「そうだな! 一日当たり、一千万ゴールドからだな!!」



 高いなんてもんじゃないな。

 さすが一回の移動で豪邸が立つといわれていることだけある。

 


 俺の『ゆーちゅーばー』でそれほどの大金が稼げるのだろうか。

 

 どうだろうな。わからない。

 肉体労働ばかりではなく、もっと職業の研究もするべきなのかもしれないな。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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