第六十一話 冒険者ギルドからの手紙
俺はただの新米冒険者だ。
変な職業を神から与えられて、辺境に追放された。生まれも普通。冒険者学園での成績も上位ではあったが、トップではない。貴族や王族、大金持ちの商人とも縁がない。
この場面で名前を呼ばれる筋合いなど、一切ない。
それなのに。
「おお、あんたが冒険者のアランか」
リーダーの男が近づいてくる。周囲の住民たちが俺に視線を向けていた。これではわからない方がおかしい。住人たちの視線には尊敬の感情が混じっている気がする。
わざわざ大金を使って、使者が送られてくるような人間だとでも思われているか。
いや、誤解だぞ。それは。
リーダーの男は手に持った紙を差し出してきた。
「ほらよ。冒険者ギルドからの手紙だ」
「冒険者ギルドからだと!?」
信じられん。
辺境に追放したのに、今さらどんな用事があるというのだ。
存在を忘れ去られているとさえ思っていたのに。
男から手紙を受け取り、開く。
手紙を読むだけで緊張するのは、はじめての経験だ。
「どれどれ」
セレシアとエルナもうしろから手紙をのぞき込む。
エルナの背が低いので、少し手紙の位置を下げてやる。
「ほう。冒険者のくせに優しいな。気に入ったぞ」
「あんたにほめられる筋合いはないな」
「ハハッ。確かにそうだ」
この男が運んできたのは限りなく面倒ごとの可能性が高い。この村にくるのに豪邸が立つほどの大金が動いている。どう考えても、ただごとではない。
もし違ったら、そのニヤついている顔にキスしてやるよ。
手紙の内容は驚くほど短かった。
要約するとこうだ。
四人目の仲間を迎えにこい。
これだけ。
……四人目の仲間か。
これでようやくパーティーが全員そろう。
俺たちにとっては大事なことではある。パーティーが全員そろえば、冒険者としての活動が本格的に始まるのだ。
が、他の人間にとってはどうでもいいこと。それは冒険者ギルドにとっても同じだろう。大金を使う理由などあるはずもない。
俺は顔を上げ、中年の男をみる。
「本当にこの手紙を届けるためだけに、この村にきたのか?」
「手紙の内容など知らんよ。運ぶ人間が内容をみるわけにはいかんだろう?」
む。
確かにそうだ。
途中で中身をみるようでは、依頼主の信頼は得られない。この鳥の群れを率いるリーダーは商売人である。金をもらって運ぶだけ。その他のことはまったく干渉しない。
「ただ、お前たちを指定の都市まで運ぶことも依頼されている」
事態がよく飲み込めん。
大金を使って、俺たちを都市に運んで誰にどんな得があるというのか。
都市で四人目の仲間が待っているのだろうか。だがパーティーに合流するつもりなのなら、この村までくればいい。冒険者として活動するはこの場所なのだから。
「これは四人目の仲間とやらが、特別な人なのかもね。権力があるとか、大金持ちとか」
セレシアはそう推測するが、それも変だ。
そんな力を持っている人間がわざわざ冒険者になろうとするだろうか。しかも辺境、最低のFランクでスタートするのに。
それほどの権力と金があれば、冒険者ギルドの決定すらも変えられそうだが。
「ねぇ。あなたの依頼主は誰だい? 冒険者ギルドではないよね?」
「ハッ。勘のいいお嬢さんだ! だがそれもいえないなぁ。都市に着いてからのお楽しみだ」
中年の男は大きく両手を広げる。
ふざけた野郎だ。
鳥に乗るということは毎日命がけ。そういった日々を繰り返すと、こんな性格になるのか。
他の人間は黙ったまま、大きな鳥の世話をしている。
こちらには関心はないようだ。そのかわり鳥の方が警戒するように鳴き声を上げている。
「まあ、とりあえず乗れよ。お前らを送って今回の仕事は終わりだ。なんだったら、都市でいい酒場を紹介してやるぜ?」
「待て。いきなりいわれて、はいそうですかと移動できるか」
この村には俺たちしか冒険者がいないのだ。モンスターとの戦いも心配だし、作業中の事故も心配だ。
俺たちがいなくなったら、この村がどうなるか。
今のところ深刻なモンスターによる被害は起きていない。心配すぎなのはわかっている。だがこれまでのことを思うとなぁ…。
「はっ!? これだから地上の奴らは」
優柔不断といいたいのか。
だがこの男にも、辺境に住んだ経験はないだろう。
約千人しかいない村では、代わりになる人間など存在しない。一人一人が大切な戦力なのだ。支え合いという意味では空を飛ぶ集団にだって負けてはいない。
「その地上の奴らに金で雇われているのは誰だ?」
「小僧のくせにいうじゃないか」
中年の男は背を向け、鳥の群れに戻っていく。
歩きながら右手を振る。
「あまり長くは待てないぞ。さっさと決断しろや」
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