表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/70

第六十話 最速の乗り物

 移動方法の話をしよう。


 一番安くて確実な移動手段は自分の足だ。

 冒険者をはじめほとんどの平民は移動に乗りものなど使わない。徒歩での移動で十分なのだ。

 金もかかないし、途中で故障もしない。が、そのかわりに移動に時間がかかる。


 俺たちの場合、王都からヴィクトリア村まで2か月ほどかかった。



 次に馬車。

 テオドールのように貴族なら、移動は馬車になるだろう。

 もちろん徒歩よりも速く移動できる。


 おそらく王都からこの村まで、二週間くらいでたどり着ける。

 徒歩での移動の三倍くらい速度である。


 しかし馬車を維持するにはそれなりの金がかかる。

 馬を操縦する人が。馬の健康を維持する人が。馬車本体の修理をする人が。それぞれに必要となる。

 平民には馬車を持つことなどできないし、その必要もない。




 では、この世界におけるもっとも速い乗りものとはなにか。



 それは大きな鳥。

 なんと空を飛んで移動するのだ。


 この移動手段ならば、王都から三日で辺境に到着することができるだろう。

 とてつもなく速い。だがいくら金持ちだろうと、常識のある人間ならまず利用しようとすらしない。狂気に近い移動手段なのだ。


 まず、とてつもなく危険である。地上とは違い、空中ではモンスターから逃げようがない。空を飛ぶモンスターも数が多いのだ。万が一戦いに苦戦して空から落ちたら死ぬことになる。


 そのために移動には護衛の鳥も必要なる。一回の移動で数十匹もの鳥が用いられる。いつどこでモンスターが襲ってくるのかわからないのだ。移動そのものが命がけだ。


 そして金。

 鳥に乗るのも、人を乗せられるような鳥を調教するのも特殊技能。世界でも数千人しか存在しない。そいつらを雇うのは恐ろしい程の金がかかる。

 一回の移動で豪邸が立つほどの金が飛ぶとなると、多少の時間短縮など馬鹿らしくなる。


 テオドールのような辺境の領主程度では、とても維持できない。

 王族か。それともよほどの金持ちしか持てない乗りものなのだ。





 どうして今こんな話をするのかって?

 簡単だ。


 その狂気の移動手段。数十匹の大きな鳥がヴィクトリア村に降り立ったからである。



 

「自分の目でみたものが信じられないね。こんな辺境の村に何の用だろう?」


 さすがのセレシアも驚いている。

 それほどにあり得ない事態なのだった。



「アニキ! あれはなんですか!? モンスターに人が乗っていますよ!?」


 エルナにいたっては存在自体を知らなかったようだ。

 無知……といいきることはできない。こんな知識がなくても、困ることなど何もない。



 あの鳥はモンスターではないらしい。

 みた目は恐ろしいが、普通の動物である。普通の動物といえども、人を乗せるまでには恐ろしいほどの手間がかかっている。


 まれに王都では空に飛んでいるのをみかけた。

 だからこそ俺も知っているのだ。この国最大の都市でもあまりみかけない。もし田舎に住んでいたら、知らないままに一生を終えていただろう。



 数十匹の鳥の群れが村の中央に降りてくる。現実味のない光景だ。

 あの鳥の名前は忘れてしまった。

 長ったらしい、やたら発音しづらい名前だったような気がするが。



 村人たちが中央に集まっている。

 俺たちもそこへ向かう。作業は中断だ。



「セレシア。もしかしてお前に用があってきたのではないか?」


 というか、他に思い浮かばない。

 セレシアは名もしれぬ貴族の子供である。呼び戻されるようなことが王都であったのかもしれない。

 


「天地がひっくり返ってもあり得ないね。私は捨てられて辺境にきている。王都で何があろうとも呼びだされるなんてことはないよ。まして大金を使ってさ」



 ふーむ。では……。

 駄目だ。思いつかん。





 村の中央にほとんど全ての住民が集合していた。

 皆、首をかしげている。村人たちも鳥がこの村にくる理由が思い当たらないのだろう。それでもあれこれと議論しているのが、いかにもこの村らしい。



 大きな鳥たちが地面に着地する。

 巨体に似合わない静かな着地であった。


 

 近くでみると迫力がある。

 体は小屋くらいに大きく。首が長い。鋭いくちばしはモンスターとも戦えそうだ。


 それが数十匹である。

 ちょっとした軍隊のようにさえみえる。子供が泣き出してもおかしくはない。


 

 俺があの鳥と戦うとしたらどうだろう。

 負けはしないが、苦戦はするだろうな。空を飛ぶモンスターの戦い方が通用するかどうか。

 人が操縦するのだから通用しないか。ならば。


 いかん。馬鹿なこと考えている。

 これも冒険者の習性だ。




 大きな鳥の群れから。一人の男が出てきた。



 中年の男。

 他の人間も鳥もおとなしくしている。この男への信頼を感じられる。

 おそらく群れのリーダーだ。代表としてこの村にきた理由を説明するのだろう。

 

 手には白い紙を持っている。

 手紙のようにみえるが、違うかもしれない。



 中年の男が大声をあげる。


「冒険者のアランさんはいるか!?」



 ……。

 用があるのは俺かよ。

 これっぽっちも心当たりがないぞ。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ