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第五十七話 テオドールとの真剣勝負

 バシィ!!


 女騎士のかまえた道具が球を受け止め、大きな音が響いた。

 軽く投げた時とは、音からして違う。


 体の調子は絶好調。全力で球を投げられる。

 やきゅうのルールからはみ出しているが、男と男の勝負がはじまる。



「この球の速度で、この制御。なかなかにやりますね」


 女騎士が球を投げ返してきた。

 エルナとは安心感が違う。どんな速い球を投げようが受け止めてくれるだろう。

いつかはあいつも女騎士さんのようになって欲しいものだ。

 


 次の球はさらに力を込めて投げる。

 気持ちがいいな。全力を出せることは。


 

 バシィ!!



「なにせ俺はやきゅうの天才らしいからな」


 その称号を口に出すのはたった一名しか存在しないが、もう勝負がはじまっている。

 わずかでも相手をビビらせたら勝つチャンスが増える。


 たとえ茶番だろうが、負けたくはない。




「そうか。それでも勝つのは私だが」


 テオドールに動揺はない。

 貴族としては馬鹿かもしれんが、対戦相手としては手強い。


 棒を振る。

 振りが鋭い。

 これは。全力で投げようとも、下手すれば打たれる。




 その時、向こうで女性たちの歓声が上がった。

 俺たちの勝負をみて、ではなく弁当箱が開かれたらしい。

 敵味方もなく、わいわいとおしゃべりをしている。わずかな時間で仲良くなってしまったらしい。


「ちょっと待て」


 

 女性陣の方へ歩き出す。

 到着すると、パンに齧りついているエルナの服を掴んだ。そのまま引きずって戻ってくる。


「ちょ、アニキ!? 何すんですか!?」


「これから一対一でテオドールと決着をつける。お前だけは見学していろ」


「えーーーーーー!?」


 エルナの体を適当に放り投げる。

 受け身もとれずに草の上をゴロゴロと転がる。


 草原だから怪我はしないが、受け身くらいは取れよ。

 子供でもとれる。猫耳族の名が泣くぞ。


 エルナはしばらく転がったのち、驚いた表情のまま顔をあげる。



「や、やきゅうはどうなるのですか!? 一対一での勝負はやきゅうのルールにはありません!!」


「やきゅうでは夕方まで戦っても、勝負はつかん。ついたとしてもお互いに納得できるものではない。俺が投げる、テオドールが打つ。これならはっきりと決着がつく」


「うっ……」



 エルナといえども現在の状態は理解しているようだ。

 無言になり、瞳を揺らした。

 両手を握りしめる。



「わかりました! ボクはアニキを応援します!!」


「いいのか?」


 これは俺のわがままだぞ。

 お前が夢にまでみたやきゅうの試合が終わってしまうのだ。


「いいのです!! アニキのおかげで試合が決まったのですから!」


 俺のおかげではないけどな。

 どちらかといえば、テオドールの考えなしのおかげだ。


「それにアニキと一緒なら、また試合できますから!」



 いい笑顔だ。


 そうだな。エルナとパーティーを組んでいるかぎり、やきゅうをやるはめになりそうだ。



「次はもっと体を鍛えてからだな」


「はい!! ボクはアニキが大好きです!!」


「なにいってやがる。やめろ」




「やっぱり彼女じゃないか。なんだ? 私への当てつけか?」


 女騎士が両手をあげる。

 あきれた、という意思を体の動きで示す。



「だから、彼女ではないといっている」


 こいつは彼女ではなくパーティーの仲間である。

 あとでセレシアに嫌味をいわれるに違いない。かんべんしてくれ。





「いつまで茶番を続ける気だ。さっさと勝負をはじめるぞ」


 テオドールが女騎士の前に立つ。

 棒をかまえる。いつでも棒を振れる姿勢だ。



「ああ、待たせたな」


 エルナから距離をとり、球を握りしめる。


「三回空振りを取ったら俺の勝ち。お前が球を打って、前に飛ばせたらお前の勝ち。それでいいな」


「いいだろう」


 テオドールはまっすぐに俺の目をみている。



 この感覚。久しぶりだ。

 体が熱くなる。強敵との戦い。負ける可能性があるときの感覚。真剣勝負。



 実際は負けても何もない。勝てば剣と鎧を貰える。

 一方的にこちらに有利な条件であった。

 はたからみれば、この勝負は茶番に他ならない。


 だがそれでも。

 この男には真剣勝負をしたくなるような魅力がある。

 ならば、やるしかないだろ。


 茶番だろうが、男と男の勝負は成立する。

 自分でも滅茶苦茶いっているとは思うが、成立するものは成立するのだ。


 時に自分の心が自分でもわからなくなる。

 理屈に合わない。


 しかし。



 だからこそ。

 生きるということは面白いのだ。




 大きく腕を振りかぶり、最初の一球を投げる。

 全力の中の全力だ。今までの球とは速度と威力が違う。


 冒険者の全力投球。

 普通の人間なら打てるはずがない。




 だが、テオドールの振った棒が球をかすめた。

 球の軌道がそれ、女騎士の後方へと消えていく。


 前には飛ばなかったが、空振りでもない。

 勝負は持ち越し。




「やるじゃないか。テオドール」


 思わず、言葉が口からもれた。


 さあ、次だ。

 次こそ全力をこえる球を投げてやる。


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どうかよろしくお願いします。

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