第五十話 やきゅう仲間が集まらない!!
次の日の朝。
俺は沈んだ気分であった。
さわやかな朝の空気もなぐさめてはくれない。
「どうしてもっと早く教えてくれなかったのだ」
つい、愚痴が出てしまう。
せめてテオドールとの試合決まる前に知ることができていれば。
まさかやきゅうが九対九の団体競技だったとは思いもしなかった。
一対一の勝負じゃなかったのか。
セレシアまで含めても三名。残り六名をどうしようか。
「そ、それは簡単なルールから教えようと思って……。やきゅうのルールは複雑なのです」
エルナは完全にしおれてしまっている。
わかっている。
いまさらエルナを責めてもどうにもならない。
俺たちの方からルールを聞いていれば、こんな事態にならなかったのだ。
ちゃんと最初から、やきゅうと向き合っていれば。
いや、それは無理だったな。
「まあまあ、これから仲間を集めればいいじゃないか」
セレシアはあくまでも明るい将来を信じている。
が、俺はそうは思えない。
だってそうだろ。
これまでやきゅうをしてきた村人は一人も存在しない。
それなのに都合よく六人も集まるのだろうか。
この村の住人は学者が多い。景品の剣と鎧にどれほどの価値をみてくれるだろうか。
今までの傾向を考えると、村人たちは景品を欲しがらない可能性が高い。冒険者とか騎士にとっては、多大な価値があるのだが……。
「とりあえず、やきゅうで戦力になりそうな人に頼み行くか」
考えてばかりいてもしかたがない。
行動こそ冒険者。まずは現状を確認する必要がある。
しかし、あれだな。
まさか俺自身がやきゅうの勧誘をする日がくることになるとは。
昨日までは、やきゅうの勧誘するエルナにあきれていたのに。
人生何があるのかわからないものである。
「ガストン。頼みがある」
いつもの場所で今日もガストンは獲物の肉を配っていた。
猟師ガストンは初老であるが、弓の腕前は一流。
やきゅうでも素晴らしい球を投げるに違いない。やや強引な予想ではあるが、他に運動神経のいい人間はほとんどいない。
今さらだが。
この村は、全体的に体力が不足している。
……本当に今さらだな。
「なんだ?」
「俺たちとやきゅうをしてくれないか?」
「はぁ…!?」
まあ、そういう反応になるわなぁ。
はじめてエルナと会った時と同じ反応である。
テオドールとやきゅうの試合をすることになったことを話す。
さらにやきゅうのルールやどういう運動であるかを説明する。
ガストンは笑わずに最後まで聞いてくれた。
これまでの信頼があってこその話だったに違いない。普通の人間なら途中で投げ出すだろう。
「一つだけ聞かせてくれ」
説明を聞き終わったガストンは俺に向かって質問する。
「領主の息子とやきゅうすることは、村の危機なのか?」
「……違うな」
そもそも勝負に負けても、こちらに罰はない。勝てば剣と鎧を貰えるが、それだけだ。
以前の踊りのように、失敗したら村が滅びるようなことない。
ここで剣と鎧が手に入らなければ、将来的に困ることがあるかもしれない。ただそれはあくまで将来の話である。現時点では剣と鎧の使い道はあまりない。
「では、やらん」
「なぜだ? 協力してくれれば、こちらにもお返しに協力できることがあるはずだ」
ガストンはモンスター食にこだわっている。
俺たちのさらなる協力は魅力的なはずだ。
やきゅうは面倒かもしれないが、危険性はないに等しい。
「以前お主らが踊った時のことをおぼえているか? 儂は村の危機を救おうと弓の芸を披露した。だがお主の職業「ゆーちゅーばー」の評価は……」
あの時のことか。
はりきって弓の芸を披露したが、「ゆーちゅーばー」の評価は五十ゴールド。
会場から去るガストンの背中には悲哀が漂っていた。
「やきゅうの試合をするなら、人前に出なくてはならないのだろう? 儂はもう嫌じゃ。あの日のことが今でも夢に出てくるのだ」
かける言葉がみつからなかった。
普段森の中で暮らしているガストンが舞台に立ったのは、決死の覚悟だったのだろう。
完全にトラウマになってしまっている。
そんな状態の人間に誰がやきゅうをしろと要求できるだろか。
できるはずもない。
「わかった。他を探す」
「すまん。これを持っていけ。儂が新しく開発したラージラビットの干物だ」
俺は干物を受け取る。
ラージラビットの耳がそのまま残っていて、食欲がわかない。
今夜の夕食になるに違いない。嬉しそうなのはセレシアだけであった。
それから。
木を切断する作業をしながら、村人たちにも声をかけてみた。
結果は惨敗。
そもそも村人たちには、作業のあとにやきゅうをする体力など残っていないのだ。
一本の大きな木を切り倒すだけで疲れてしまっては、やきゅうどころではない。
村長のカストロは不在。
カストロならば、剣と鎧の価値を評価してくれる可能性があったのだが。
一瞬だけヴィクトリアちゃんに頼ろうとも思ったが、頭の中で否定する。
いかに知恵と勇気があろうとも、五歳の女の子。
体力勝負のやきゅうで、頼ろうとすること自体が間違っている。
結局、成果はゼロ。
一人もやきゅうに勧誘することができなかった。
正直薄々そんな気はしていたが、実際に成果ゼロはこたえる。
今日の作業が終わり、家に帰ろうとしていた。
エルナは当たり前のことく、疲れて寝ている。今日だけは背負ったエルナの体も重く感じる。
「セレシア。三人だけでテオドールたちに勝てると思うか?」
「無理じゃないのかな。私とエルナは戦力にならないし」
「だよな」
その時、俺たちの家の前に人だかりができているのがみえた。
遠目からでもわかるほどの人数だ。
あれは。
この村の女性陣?
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