表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/70

第四十九話 団体競技だと!?

 辺境の村にきてから、それはもう色々あった。

 踊ったり、肉体労働したり。ラージラビットと戦ったり、その肉を鍋にして食べたりした。

 その中でも今日という日は、特に変な一日であった。



 領主の息子が雨宿りにきた。そしてやきゅうの試合をすることになった。



 あまりに奇妙で陰謀さえ疑いたくなるが、俺たちをだまして得する人間など存在しない。俺たちは変な職業をもらって王都から追放された身なのだ。

 セレシアだけは複雑な身の上だが、干渉するならばこんな奇妙な方法など取らないだろう。もっと直接的に要求を叩きつけるはずだ。


 

 やはり奇跡的な偶然としか思えない。


 どうせ奇跡が起こるなら、もっとこちらに都合のよい奇跡が起きて欲しかったぁ。

 たとえば何かの間違いで、この村に明日から冒険者ギルドができるとか。




 雨は降りやんだが、すでに夕方になっている。

 これではもう作業に戻れないだろう。



「変な人たちだったねぇ」


 セレシアがつぶやく。

 貴族の主従が帰っていった方向をみつめている。

 雨に濡れた服は着替えているが、自慢の金髪は濡れたままだ。



「お前がいうな」


 ついつい突っ込んでしまう。

 お前も十分に変人だぞ。少しは自覚して欲しいものだ。

 モンスターを生で食う人間は、世界中を見渡してもこの女だけだろうな。



「ああ、違うよ。私がいいたかったのは、貴族として変だなってことさ」


「貴族として?」


 セレシアは一応貴族と生きてきた。

 だから貴族と接する機会も多かったに違いない。俺の中の貴族はあくまで想像でしかないが、セレシアは実物を知っているのだ。


「うん。貴族って基本的に嫌な奴ばかりでねぇ。平民のことを人間だとすら思っていない奴が多いのさ」


「テオドールも同じような性格のようだが?」


「あの程度はかわいいものさ。むしろ私には聖人にすらみえるよ」



 テオドールの無表情な顔を思い出す。

 喧嘩を売ってきたが、それもある意味こちらを人間あつかいしていればこそ……か。貴族のあるべき態度からすれば、失格なのかもしれない。

 女騎士がテオドールのことを馬鹿と呼ぶのも、そのあたりの事情があるのだろうか。



 しかし、セレシアにすら性格を悪いといわれる貴族。

 死ぬまで関わり合いになりたくはないな。




「私が知っているのは王都の貴族だけだからね。辺境はまた違うのかもしれないけど」


 セレシアは肩をすくめる。

 たぶんその動作は正しい貴族のふるまいではないな。



「それでもエルナとっては、やきゅうができるようになって結果的によかったんじゃないかな。そうだろう? エルナ。……って少しは落ち着きなよ」




 よほどやきゅうができることが嬉しかったのか。

 エルナは床をゴロゴロと転がっていた。落ち着きがないという次元ではない。

 



「ボク、この村にきてよかったですーーーー!!」


 聞くものの心を揺さぶる魂の叫びである。

 これまでの努力がついに報われた……のか? 感動的な場面、なのかはちょっと疑問が残る。


 俺は転がるエルナをつかまえて、立たせる。

 お前、誕生日にプレゼントを貰った子供だってここまで喜ばんぞ。



「テオドールがやきゅうを好きになってくれるとは限らない。一回試合をするだけだ」


「やきゅうの試合をすることはボクの夢だったんですーーーーーー!!」


 駄目だ。完全に舞い上がってやがる。

 俺の言葉がちゃんと聞こえているのかも怪しい。会話になってないし。




「やれやれ。しばらく放置しておくしかなさそうだね。それで、アラン。やきゅうの特訓とかするのかい? 以前踊った時のように」


「しない。ぶっつけ本番でいく。俺一人でなんとかしてやる。」


 テオドールのとの試合は景品こそ豪華ではあるが、あくまで二人の勝負である。

 個人の戦いに村を巻き込むわけにはいかない。作業を休むこともできない。村の開拓の方の優先度が高いのである。

 

 それに以前何度かやきゅうやった範囲では、感触はよかった。


 球を打つのも投げるのもそれなりにできた。

 テオドールは背も高く、がっちりした体格をしている。運動能力はあるだろう。

 だが俺も体力には自信がある。相手もやきゅうの素人だ。素人同士ならば負ける気はしない。



 ああ、そうだった。

 テオドールの職業を聞いてなかった。

 スキルを使われたらどうするかな。やきゅうにスキルを使うのは許容されるのだろうか。




「あっ!!!!!」


 いきなりエルナが大声をだした。

 木と草で作られた家全体が一瞬震える。




「いきなり大声出すなよ。驚くだろ」


「す、す、すいません。いうのを忘れました!!」


 先ほどの舞い上がった態度から一変、青い顔で震えている。

 

 おいおい、いきなりどうした。

 よほどまずいことが起こるのか? 嫌な予感がする。




「やきゅうとは九対九の集団戦なのです……」




 な、なんだと!?

 集団戦……だと!? 

 そんなこと、今まで一回も説明してなかっただろ。



 どうしようか。

 勝算がガラガラと崩れていくのを感じる。

ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ