第四十九話 団体競技だと!?
辺境の村にきてから、それはもう色々あった。
踊ったり、肉体労働したり。ラージラビットと戦ったり、その肉を鍋にして食べたりした。
その中でも今日という日は、特に変な一日であった。
領主の息子が雨宿りにきた。そしてやきゅうの試合をすることになった。
あまりに奇妙で陰謀さえ疑いたくなるが、俺たちをだまして得する人間など存在しない。俺たちは変な職業をもらって王都から追放された身なのだ。
セレシアだけは複雑な身の上だが、干渉するならばこんな奇妙な方法など取らないだろう。もっと直接的に要求を叩きつけるはずだ。
やはり奇跡的な偶然としか思えない。
どうせ奇跡が起こるなら、もっとこちらに都合のよい奇跡が起きて欲しかったぁ。
たとえば何かの間違いで、この村に明日から冒険者ギルドができるとか。
雨は降りやんだが、すでに夕方になっている。
これではもう作業に戻れないだろう。
「変な人たちだったねぇ」
セレシアがつぶやく。
貴族の主従が帰っていった方向をみつめている。
雨に濡れた服は着替えているが、自慢の金髪は濡れたままだ。
「お前がいうな」
ついつい突っ込んでしまう。
お前も十分に変人だぞ。少しは自覚して欲しいものだ。
モンスターを生で食う人間は、世界中を見渡してもこの女だけだろうな。
「ああ、違うよ。私がいいたかったのは、貴族として変だなってことさ」
「貴族として?」
セレシアは一応貴族と生きてきた。
だから貴族と接する機会も多かったに違いない。俺の中の貴族はあくまで想像でしかないが、セレシアは実物を知っているのだ。
「うん。貴族って基本的に嫌な奴ばかりでねぇ。平民のことを人間だとすら思っていない奴が多いのさ」
「テオドールも同じような性格のようだが?」
「あの程度はかわいいものさ。むしろ私には聖人にすらみえるよ」
テオドールの無表情な顔を思い出す。
喧嘩を売ってきたが、それもある意味こちらを人間あつかいしていればこそ……か。貴族のあるべき態度からすれば、失格なのかもしれない。
女騎士がテオドールのことを馬鹿と呼ぶのも、そのあたりの事情があるのだろうか。
しかし、セレシアにすら性格を悪いといわれる貴族。
死ぬまで関わり合いになりたくはないな。
「私が知っているのは王都の貴族だけだからね。辺境はまた違うのかもしれないけど」
セレシアは肩をすくめる。
たぶんその動作は正しい貴族のふるまいではないな。
「それでもエルナとっては、やきゅうができるようになって結果的によかったんじゃないかな。そうだろう? エルナ。……って少しは落ち着きなよ」
よほどやきゅうができることが嬉しかったのか。
エルナは床をゴロゴロと転がっていた。落ち着きがないという次元ではない。
「ボク、この村にきてよかったですーーーー!!」
聞くものの心を揺さぶる魂の叫びである。
これまでの努力がついに報われた……のか? 感動的な場面、なのかはちょっと疑問が残る。
俺は転がるエルナをつかまえて、立たせる。
お前、誕生日にプレゼントを貰った子供だってここまで喜ばんぞ。
「テオドールがやきゅうを好きになってくれるとは限らない。一回試合をするだけだ」
「やきゅうの試合をすることはボクの夢だったんですーーーーーー!!」
駄目だ。完全に舞い上がってやがる。
俺の言葉がちゃんと聞こえているのかも怪しい。会話になってないし。
「やれやれ。しばらく放置しておくしかなさそうだね。それで、アラン。やきゅうの特訓とかするのかい? 以前踊った時のように」
「しない。ぶっつけ本番でいく。俺一人でなんとかしてやる。」
テオドールのとの試合は景品こそ豪華ではあるが、あくまで二人の勝負である。
個人の戦いに村を巻き込むわけにはいかない。作業を休むこともできない。村の開拓の方の優先度が高いのである。
それに以前何度かやきゅうやった範囲では、感触はよかった。
球を打つのも投げるのもそれなりにできた。
テオドールは背も高く、がっちりした体格をしている。運動能力はあるだろう。
だが俺も体力には自信がある。相手もやきゅうの素人だ。素人同士ならば負ける気はしない。
ああ、そうだった。
テオドールの職業を聞いてなかった。
スキルを使われたらどうするかな。やきゅうにスキルを使うのは許容されるのだろうか。
「あっ!!!!!」
いきなりエルナが大声をだした。
木と草で作られた家全体が一瞬震える。
「いきなり大声出すなよ。驚くだろ」
「す、す、すいません。いうのを忘れました!!」
先ほどの舞い上がった態度から一変、青い顔で震えている。
おいおい、いきなりどうした。
よほどまずいことが起こるのか? 嫌な予感がする。
「やきゅうとは九対九の集団戦なのです……」
な、なんだと!?
集団戦……だと!?
そんなこと、今まで一回も説明してなかっただろ。
どうしようか。
勝算がガラガラと崩れていくのを感じる。
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