表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/70

第四十四話 領主の息子登場

 ラージラビット討伐から数日。

 俺たちは日常に戻っていた。


 冒険者にとっての日常とはモンスターの退治である。

 が、俺たちには逆。モンスター退治が特別なイベントで肉体労働が日常。不条理な話ではあるが、もうすっかり慣れてしまった。



 そんなわけで。

 今日も畑を作るための木を切り倒していたのだが。


 作業の途中で突然雨が降り出してきた。視界が悪くなるほどの激しい雨。

 当然作業は中止。雨がやみそうにないため、急いで家に帰ることとなった。




 家まではかなりの距離がある。

 激しい雨の中、俺たちは走ることになった。


 雨をふせぐ道具など持っていない。この村は開拓中なのである。

 家に到着するころには、すでに全身びしょぬれになってしまっていた。

 幸いにも寒くはない。寒さを感じるような季節ではないからだ。


 いやそれは体の大きい俺だからで、体の細いセレシアとエルナは寒いのかもしれない。



「いやぁ、濡れたねぇ。下着までびっしょりだよ」


 セレシアが楽しそうに笑う。

 その様子では寒さは感じてはいなそうだ。


 普通の人間なら雨に濡れたら不機嫌になる。

 それを楽しめるのはセレシアの強さなのかもしれない。あるいは変人の変人たる理由かも。



「エルナ。新しい服に着替えようか。このままでは風邪を引きそうだ」


「はい! やきゅうは体が資本ですからね!」


 家にはセレシアたちの服が干してある。最近天気がくもりばかりで乾きが遅い。

 王都では無人の家に服を干すなど考えられない。一日持たずに盗まれてしまうだろう。が、ここは辺境の村。顔見知りばかりである。

 仮に誰かが服を盗んだとしてもすぐにわかる。



 セレシアが上着に手をかける。

 

 あわててその手をつかんだ。



「馬鹿。俺の前で着替える気か」


 いくらパーティーの仲間といえども男と女である。

 目の前で着替えるなど論外。パーティー内の最低限の規律は保たねばならない。



「いいじゃないか。いずれは夫婦になるのだから」


「夫婦にはならんし、仲間でもダメだ」


 セレシアとはそれなりの付き合いの長さになった。

 こんなふざけたことをいっておいて、少し時間がたてばけろりとしているのだ。

 いつでもふざけているわけではない。普段はちゃんとみえない場所で着替えている。ここぞというところでからかってくるから、たちが悪い。



「そ、そ、そうですよ! 男性の前で裸になるなどあり得ません!!」


 そのからかいに慣れていない猫耳族が約一名。

 エルナは恋愛やエロに関して異常に潔癖だ。これは猫耳族の習慣だと思われる。学生時代そんなことを聞いたことがある。

 昔の記憶なので、違うかもしれないが。

 

 しかし、なんというかこの猫耳族。

 すぐに赤くなったり、青くなったり。やきゅうに関しては必要以上にはりきったり。

 体が小さいのもあって、小動物のようでみていて笑える。失礼なのはわかっているけれど、そう思えるのだからしかたがない。



「誰も裸になるとはいっていないけど? エルナは裸になるつもりだったの?」


「ええ!? そ、それは……」


 二人でわーわー言い合っている。

 この家における日常の光景であった。




「これから俺は壁の補修をするからな。邪魔するなよ」


 以前屋根の補修をしたおかげで、雨漏りはしていない。

 ただ壁は心配である。今日は雨だけではなく、風もある。家の中にいても雨と風の音が聞こえてくるくらいだ。もし壁が吹き飛んでしまったらこの家にはいられなくなる。

 もっと頑丈になるように補修しなければ。



「アニキ! やきゅうしてもいいですか!」


 こいつらには補修を手伝う気など、さらさらないらしい。

 まあ下手に手伝われて、逆に壁を壊すよりずっといい。セレシアもエルナも不器用で、こういった仕事にはまるで向いてない。



「いいぞ。ただし俺に球をぶつけたらお仕置きな」


「ひえぇぇ」


 エルナがおおげさな仕草でおびえる。

 まあ勝手にすればいいさ。そもそも俺に断るようなことではないさ。



 補修用の木を取り出し、壁の方へ歩き出す。

 外をながめる。

 雨はまだまだやみそうにない。今夜いっぱいは降り続きそうだ。





 ふと、雨の向こうに気配を感じた。



 雨と風の環境で人の気配など感じることなどできるはずもない。

 では、冒険者の勘か。本能が危険をつげているのか。

 


「セレシア、エルナ。下がっていろ」


「ん? どうしたんだいアラン」


 セレシアには気配は感じられないらしい。

 無理もない。この二人は限りなく非戦闘員に近い。




 バシャバシャと小さな音がしてきた。雨の中を走る足音。

 勘は当たっていたようだ。この音からして相手は二人。



「誰かきたのですか?」


 エルナが外に向けて目を細める。

 また相手の姿はみえない。



「わからん」


 本当は警戒する必要などないかもれない。

 ただの村人かもしれない。


 しかしこれは自分の意思とは無関係な、いわば習慣である。

 冒険者学園で叩きこまれた習慣は死ぬまで抜けないだろう。




 まず男が一人、雨の中から姿をあらわした。


 

 一目みてわかった。

 この男はこの村人の人間ではない。




 貴族だ。




 村人がこれほど上等な服を着ているはずがない。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ