第四十三話 実食!!!
「い、嫌だぞ。俺はモンスターなんぞ食わんぞ」
自分でも声がうわずっているのがわかる。ヤバい。この流れは予想してなかった。
猟師ガストンとセレシアがモンスターを食って終わり。
そうだろう? なんだこの展開は。
「同じパーティーじゃないか。苦しみも楽しみも共有しなくちゃ」
「モンスター共有するべき楽しみではないぞ」
「いいかい? この鍋の食材はアランが倒したもの。私たちは感謝を込めて鍋を作ったのだよ。フフッ。私のアランなら食べてくれるはずさ」
言葉はしおらしいが、セレシアはニヤニヤと笑っている。
この女。楽しんでやがる。
すでにラージラビット鍋は煮えているようだ。
悔しいが、食欲を誘うよいにおいが周囲に漂っている。
「大丈夫だ。儂の腕を信じろ。食えない料理を出す気はない」
ガストンもモンスター食を進めてくる。
先ほどガストンの腕は身を持って体験した。もしかしたらこの村で一番料理が上手いのかもしれない。
それに加えゴブリン鍋の時は、適当にぶつ切りにして鍋にした。
今回はわざわざ食べられる部位を選んで鍋にした。ちゃんと食える可能性は高い。
理屈はわかっている。
わかっているが。
「嫌なものは嫌だ」
こういうのは理屈ではない。
本能がモンスター食を拒絶しているのだ。ラージラビットの耳なんて食えるか。
俺は王都で普通の家庭の子供として生まれた。
普通じゃない食べものは体が受け付けないのだ。
「もうアランはしかたがないなぁ。私が味見してあげるよ」
セレシアが鍋からスープをすくって口に入れる。
もぐもぐと口を動かしている。しばらくして飲み込む。
「うん。おいしい」
「お前は「偏食家」で何でも食べられるからだろ。騙されんぞ」
ラージラビットを生のまま食えるのだ。
騙されんぞ。
そういえば、セレシアが食事をして不味いというところをみたことがない。
それも「偏食家」の効果なのか。何を食っても美味いとは、ちょっとだけうらやましい。
その時、俺に右手に何かが触れる感触。
視線を向けると、エルナが両手でつかんでいた。
「大丈夫です! アニキならできます!!」
いや、そういう問題じゃないから。
そんなキラキラした目で俺をみないでくれ。
「モンスターを倒したアニキなら、どんなことでも耐えられます!!」
「あのな、それとこれとでは話が……」
まったく違う。
モンスターとの戦いは命がかかっている。モンスター食はただの趣味。
そりゃあ死ぬほど飢えていれば食べるしかないだろうが、この村は食料だけは豊富にある。
そもそも今日倒したモンスターはラージラビット。
ほとんどの冒険者ならば苦も無く倒せる。尊敬される理由など存在しない。
それを説明してエルナにわかってもらうか。
いや、ここでエルナに弱いところをみせるのはまずいかもしれん。
さっき偉そうにエルナの戦いでの健闘を褒めたからなぁ。
せっかくエルナに芽生えた向上心がなくなってしまうのも困る。
パーティーのリーダーが逃げるところをみせるわけには。
でもこれは趣味の領域で、個人の自由の範囲ではないか。
うーむ。
どうするべきか。
セレシアが俺の左手をつかんだ。
そして両手で包み込む。
温かい。セレシアの体温が伝わってくる。
「エルナ。私たちのリーダーは無敵だから。この程度の困難には負けはしないさ」
「そうです! アニキは無敵です!!」
両手をパーティーのメンバーにつかまれ、動けなくなった。
俺が無敵? そんなわけないだろ。
だが、しかし……。ああ、くそっ。
なんだ、この包囲網は。
「あーもう! わかった。食えばいいんだろ食えば!」
俺が主導権を持つ分野がある。
セレシアとエルナが主導権を持つ分野もある。
ごちゃまぜの領域もある。
そうだった。パーティーを追放されてから忘れていた。
仲間ってそういうものだった。
意を決してラージラビット鍋に向き合う。
この場の全員が俺に注目している。
注目するな。勝手に鍋を食っていればいいだろうが。
はぁ。まったくどうしてこうなったんだか。
ラージラビットの肉を口に入れる。
淡白な肉のうまみが口いっぱいに広がる。
美味い。
が、これは。
「これは普通のうさぎと似ている味だ」
「確かにそうだな。普通の人間ならうさぎといわれても、わからないだろう」
ガストンもうなる。
熟練の猟師にとっても予想外なことだったらしい。
見た目は似ているが獣とモンスター。まったく違う種である。
それが味も似ているとなると。
「どうだい? モンスター食もいいものだろう? おかわりもあるよ」
セレシアがスプーンを向けてくる。
「偶然かもしれないだろ」
ラージラビットが美味かったからといって、他のモンスターが美味いとは限らない。
俺はモンスター食愛好家になるつもりはないからな。
「まだまだラージラビットの調理ははじまったばかり。これから儂がもっと適した料理法を研究する」
ガストンはやる気に満ちている。
モンスター食が村の名物になる。
冗談じゃなく、いつか実現する日がくるかもしれない。
「いやぁ。美味しいねぇ。仕事のあとの食事は格別だね」
「もっともっと食べて体を大きくしましょう!」
無邪気に肉をほおばる二人。
なぜか。
その姿をみていると、これはこれでいいような気がしてくるのだった。
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