第四十一話 うさぎ狩り(複数)
「ラージラビットの巣はこの先にある。近づく人間を無差別に襲ってくるぞ」
さすがのガストンも声に緊張の色が混じっている。
弓の腕が名人級で、森の中で暮らしていても猟師は猟師。モンスターと戦う専門家ではない。
猟師にとってモンスターは避けるもの。戦うべき対象ではない。
「まかせておけ」
有害なモンスターを狩るのは冒険者の仕事だ。
ガストンに案内されて森の中を進んだ。村からはたいぶ距離がある。
だがこの程度ではラージラビットの脅威は減らない。
畑で栽培された植物のにおいをかぎつけて荒らしに来る。村に畑を作ろうとするのなら、あらかじめこの辺りの巣は駆除しておくしかないのだ。
しかも今回だけではない。モンスターはいくらでもわいてくる。今回駆除してもまた巣を作る。
だからこそ冒険者という仕事はなくならないのだが。
「アラン。かっこいいところをみせてよ」
セレシアが笑う。
下手するとガストンよりも余裕を感じる。
精神力の強い女だ。自分がモンスターにやられるなど思いもしないようである。
「お前こそ自分の身は自分で守れよ。それと俺の戦い方をよくみておけ、そのためにわざわざ連れてきたのだから」
「わかってるって」
本当にわかっているのかよ。
若干、いやかなり不安である。
「アニキ! がんばってください!!」
エルナは森に入った時よりも元気になった。この調子なら恐怖で力が出せないこともないだろう。
俺の言葉。ではなく美味い飯を食ったからだな。飯を食えば勇気がでてくる。
下手な言葉より、上手い飯。これは一つの真理といえるな。
「俺としてはお前らの方にがんばって欲しいぞ」
ラージラビットが複数襲ってきても、冒険者学園で勉強した知識があれば対処できる。それだけの経験を積んできたつもりだ。
目標は冒険者としての成り上がりである。ラージラビット程度で苦戦してたまるか。
それに対しセレシアとエルナは素人に近い。まったくの未知数。
はっきり言って、そっちの方が恐ろしい。ガストンがいるから心配はないとは思うが……。
いかん。
娘を心配する父親みたいになってきている。
無駄に面倒見がいい。そういう自分の性格が時々嫌になる。
今はラージラビットと戦うことに集中しなければ。
ラージラビットの巣の方へゆっくりと歩き出す。
すでにこちらの存在は知られているだろう。ラージラビットは音にも敏感。俺には森の中を完全に音を立てずに歩くスキルも技術もない。
一般的に勘違いされがちなことがある。
強いモンスターを倒せるからといって、弱いモンスターを効率的に倒せるとは限らない。
その二つはそもそも戦い方が違う。必要な知識が異なるのだ。
例をあげよう。
こうしてモンスターの巣に近づくと殺気を感じる。冒険者ならば、それでモンスターのいる数や方向がだいたいわかる。
相手が強いモンスターだった場合、殺気を素直に信じてはいけない。知能があるモンスターはそれだけ策略にも長けている。感じた殺気は嘘で、こちらが騙されるおそれがある。
弱いモンスターの場合は違う。こちらを騙すような知能はない。
得られる情報を素直に信じることができる。
モンスターとの戦いにおいて大きすぎる違い。
もっといえばモンスターごとに最適な戦い方がある。
むしろ戦いの強さよりも知識の方が大切だ。
ラージラビットが森の奥から突進してくる。
突進をかわしながら、剣を抜き放つ。ラージラビットの首が飛ぶ。
感じられる殺気は十匹ほど。
ラージラビットの武器はひたいの角だけ。動きが直線的なのは助かる。
十匹が一度に襲ってこれないような場所に走りこむ。剣は一本。一匹ずつ相手にしたい。
戦いの駆け引きなどない。弱いモンスター相手には必要ないのだ。
移動しながらも襲ってきたラージラビットの首をはねていく。
すでに囲まれている。
だがラージラビットの位置がわかれば問題ない。相手は殺気を隠せないのだから。
モンスターとの殺し合い。下手をすれば自分が死ぬ。
それでもどこか解放されたような気分だった。
自分がこれまで練り上げた技術を思う存分振るうのは気分がいい。
生きている実感がある。
セレシア、エルナ。いつかお前らもこの気分がわかるさ。
半分程度、斬り捨てたか。
それでもラージラビットの攻撃は終わらない。
すでにラージラビットに勝ち目はない。人間ならとっくに撤退していただろう。
だが相手はモンスター。
これがモンスターの強さであり、弱さでもある。
だからこそこの世界に冒険者は必要なのだ。
さあ、まだまだ駆除するべき巣は残っている。
さっさと終わらせてしまおうか。
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