第四十話 料理人になりたかった猟師
「どうしてアランは妻の目の前で、他の女をくどいちゃうかなぁ」
「お前は妻ではないし、エルナをくどいてもいない。ただ、ちょっと元気づけるのに言葉を間違えただけだ」
パーティーのリーダーとして、落ち込んでいるエルナをはげまそうとした。
しかし言葉の選択を間違えた。結果として、くどいているようにみえた。
言葉にすれば簡単だが、かなりの失敗である。
先ほどからパーティー内に変な空気が流れてしまっている。
セレシアの行動はさておいては、俺自身はパーティーに恋愛など持ち込みたくはない。
それが原因で解散するパーティーをいくつもみてきたから。冒険者に恋愛など不要。結婚するのは冒険者を引退してからでいい。
そう思うのだが。
主張したところでこの場はおさまりそうにない。
エルナは真っ赤になって、黙り込んでしまっている。
ああ。慣れないことをするものじゃなかった。
パーティーのリーダーとして俺はまだまだ未熟である。それを再確認させられた。
どうしよう。
いや、本当に。
「着いたぞ。朝飯作るから少し待っていろ」
先を歩いていた猟師ガストンが振り返る。
俺たちのいざこざに介入するつもりはなさそうだ。
ガストンは初老。若造の恋愛問題などどうでもいいのだろう。
「まあ、アランを責めるのはあとにしようか。今日のところはモンスター食が先だね」
セレシアが地面に座る。その隣にエルナもちょこんと座る。
やれやれ……だ。
今度からは言葉の使い方には慎重になろう。
一度の失言でパーティー内での力の順位が逆転してしまう。先ほどまでは冒険者としての俺が強かったが、今はもう見る影もない。
ガストンはたき火を起こそうと準備している。
その無関心な態度。今は助かる。
しかし、この場所には鍋にナイフ、簡素な道具しかない。
雨を避ける仕組みさえない。ここで生活などできないだろう。
「何か手伝おうか?」
「いや、結構だ」
ガストンはこの不便な場所に住んでいるのだろうか。
もしかして、このような場所が森の中に複数あるのかもしれない。それならば納得がいく。
この森全体がガストンの家なのだ。
ガストンが地面から食材を掘り出し、手際よく調理していく。さすがに手馴れている。
しばらくすると、食欲を誘うにおいが周囲に漂い出した。
「ほら、お前らも食え」
ガストンがお椀を突き出してきた。
野菜と肉のスープだ。外見からでは特別な食材は見当たらない。
「心配するな。モンスターの肉は入っていない」
ガストンは目だけで笑いかける。
あまり腹は減っていないが、ここで食べないのは失礼にあたるだろう。
一口食べてみて。
驚いた。
とんでもなく美味い。
間違いなくこの村にきてから食べた料理の中でもっとも美味い。
「なにこれ。ちょっと美味しいすぎだろう?」
「うまっ! うまいですよ、これ!」
セレシアとエルナも驚いている。
俺の味覚が狂ったわけでもなさそうだ。
「これは……」
「特別な食材など何も入ってはいない。客人に無断で変なものを食わすほど、常識知らずではないつもりだ。ただ適切な調理方法を用いて料理しただけ」
確かにお椀の中には、見たことのある食材ばかりだ。
同じ食材でも料理の腕で味が左右するのも理解はできる。
だがしかし。
これは。こんな。
ガストンが遠い目をして言う。
「儂は若いころ料理人を目指していた。遠い昔のことだ」
「え!?」
意外だった。
職業「猟師」を与えられ、今も猟師をしている。てっきり最初から猟師を目指していたのかと。
「だが神から与えられたのは「猟師」だった。料理人を目指すのをやめて猟師になることにした。料理人のスキルを持った連中には勝てないと思ったからだ」
それは。
俺たちの状況と似ている。
いや、あるいは職業を神から授かるこの国の人間。全員が持つようなありふれた悩みなのかもしれない。
「猟師になって数年、儂は気がついてしまった。スキルのあるなしなど言いわけにすぎなかったと。現にスキルなしでも有名な料理人になった人間もいる」
ガストンの目には俺たちに対する同情など浮かんでいなかった。
ただ淡々と過去の事実を口に出している。
「最初の十年は料理人にならなかったことを後悔していた。次の十年は猟師の腕を磨こうと必死になり、ある程度それは成功した。最後の十年で……」
自分で作ったスープを一口飲み、静かに頷いた。
俺にもわかる。この味は長年の研究が生み出した味である。ガストンだからこそ、この味にたどり着けた。
「猟師でしかできない味を求めてこの国をさすらった。いまさら料理人にはなれぬのなら、儂にしか表現できない味を求めよう考えた。モンスター食を求めるのもその一環でしかない」
モンスター食を追求するのは、間違いなく変態の行為である。
だがそれでも、人に歴史ありだ。
変態の行為だからといって、何もかも否定するべきではないと思わされた。
「なぜ俺たちにそんな話を?」
ここでガストンの過去を話す理由などないはずだ。
話すこと自体が好きなタイプにもみえない。
「うむ。料理の腕をみせることで、これから作るモンスター食の味も期待させることができる。どうだ? モンスターを食べたくなっただろう?」
……。
いや、ならんぞ。
それとこれとは別だ。
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