第三十八話 ラージラビットを狩りに行くぞ!
朝から俺はこれ以上ないほど、はりきっていた。
この村にきてから一番やる気のある状態である。
なぜかって?
簡単だ。これからモンスターを討伐に行くのだ。
最後にモンスターと戦ったのはいつだったか。はるか昔に思える。
自分が冒険者であるという意識はあれど、実際にやっているのは肉体労働だけだったからなぁ。
そこにモンスター退治の依頼がくればやる気にならざるを得ない。ようやく冒険者らしいことができる。
「えー。私たちも行くの? 戦力にならないよ?」
「アニキ、ボクはやきゅうは大の得意なのです。でもモンスターと戦うのはちょっと……」
冒険者のはずなのにモンスター討伐に乗り気ではないのが、約二名。
もちろんセレシアとエルナである。こいつらは冒険者なのにモンスターと戦うが嫌いなのであった。
「戦えとはいわん。まずはモンスターから自分の守ること、そして俺が戦うところを見学しろ」
以前は俺一人で戦っていた。しかしそれではこの二人の成長はない。
強いモンスターと戦わずともよい。それでも弱いモンスターを倒せるぐらいの実力は欲しい。
この村には冒険者は俺たちだけだからいいが、他の街に行ったら笑われるだけではすまないぞ。下手をすれば冒険者でいられなくなる。
だって弱いモンスターすら倒せないのでは冒険者でいる意味がないからな。
「相手はラージラビットでしょう? 危ないよ」
セレシアが身をすくめる。
いつもふざけているから、恐怖を示すしぐさでも本気にはみえない。あるいは今回も表面だけで、本当は怖がっていないのかもしれないが。
それよりも。
そう、今回の討伐対象もラージラビットなのである。
この村の周辺には圧倒的にラージラビットが多い。他のモンスターはまだ確認されていない。まったく存在しないということはないだろうが。
「お前らが自分の身を守るために盾を用意した。ほら、一つずつ持て」
ラージラビットの攻撃は突進のみ。直線的な攻撃である。盾で防ぐにはうってつけの相手である。
さらにひたいの角はするどいものの体重は軽いため、盾の材質が木でも十分防げる。
木を加工した経験を生かして、わざわざ作ってやったのだ感謝しろよ。
「重い」
盾を受け取ったセレシアが不平をもらす。
木の盾だぞ。ちゃんと乾燥もしている。
どれだけ腕の力がないんだよ。
「アニキ! ボクは不安です!!」
こっちのおびえは本物である。
エルナの感情は非常にわかりやすい。これほどわかりやすい奴もなかなかいないだろう。
「まあ、そうだろうな」
どれだけ対策を立てても、モンスター退治は命がけである。
こちらも命を奪おうとするのだ。モンスターだって死ぬ気でこちらを殺しにくる。
そもそもおびえること自体は悪いことではない。
むしろエルナのようにおびえている間は逆に安全だ。油断することが少なくてすむ。
それを忘れ、慢心した時がもっとも危険となる。
それでもエルナの現状はおびえすぎて実力を発揮できない状態。
さすがにこれは良くない。
「もう一つだけ対策を立ててある。俺についてこい」
朝の村は朝食を準備する住民たちで慌ただしい。朝食を準備する仕事は女性が多い。
時間によって、村は表情を変える。村というものは生きものなのだ。それがよくわかる。
こんなこと王都に暮らしている時は、意識したことさえなかった。
「しかしあれだね。女性陣は現実的だねぇ」
歩きながらセレシアがつぶやく。
そう、ラージラビットの討伐を依頼したのはこの村の女性陣なのである。
新しく畑を作りたいという話であった。
ラージラビットは人間を襲うよりも、畑を荒らす被害の方が大きいモンスター。
畑を作りたいのならば、その周辺のラージラビットの巣を消しておかなければならないのだ。
正直、今まで誰も畑を作ろうとしなかったのが不思議なくらいだ。村を開拓するならば、最初に畑を作るべきだった。
畑のない村など、この国を見渡しても存在しないだろう。作物が取れれば食料の供給がより安定するし、交易に出して金と交換することもできる。
どう考えても、図書館よりも畑を作る方が先。とはいえ、俺もまったく思いつかなかったのだから偉そうなことは言えない。
「男は夢を追い、女は生活の中に生きる」
なんだ、こいつ。
いきなり舞台の女優のようなことを言い出したぞ。
「だが心配しないでくれ、アラン。私は現実的な男より、夢を追う男の方が好きだよ」
「誰も心配してないぞ」
セレシアは目を細め、嬉しそうな表情になる。
空に手をかかげ、大きく伸びをする。
そもそもの容姿が美しいので、その姿は一枚の絵のようにみえる。
神々しくさえある。
性格は変人の中の変人ではあるけどな。
あと、やっぱり神々しいは少々いいすぎた。
「うん? 冒険者ではないか」
猟師ガストンは獣を解体している手を止めた。
周囲には毛皮が積まれている。その全てが狩りの獲物だ。
「ガストン、あんたに頼みがある」
「ふむ。獣の肉ならもうほとんどないぞ。村人たちが持って行ってしまった」
ガストンは毎朝、同じ場所で狩猟した獲物の肉をくばっている。
だからここにくれば、ガストンと会えることがわかっていた。
「いや、肉は必要ない。これから俺はラージラビットを討伐する。その間、この二人を守っていてくれないか?」
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




