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第三十六話 エルナとの共同作業

 世の中には二種類の人間がいる。

 困難にぶつかった時、めげる人間とめげない人間。

 

 この村にはめげない人間が多い。

 特に俺のパーティーの二人といったら、もう。




「アニキは球を投げる方でもすごかったのですね! さすがやきゅうの天才です!!」


 目の前でエルナが目を輝かせている。

 昨日の夜、俺に球をぶつけられたのにめげない猫耳族である。やきゅうに関してだけは最強の精神力を持っている。

 その他のことは、結構打たれ弱いのだが。なんとも起伏の激しい性格をしている。



 エルナは俺のことをやきゅうの天才だとほめまくる。

 が、全然嬉しくない。そもそも比較対象にどれくらいの人数がいるのか。エルナと比べれば、誰でも天才になれる気がする。




「わかったから手を動かせ。お前がのこぎりを引かないと、木を加工できん」


「がんばります!!」


 返事だけは一級品であった。


 エルナが力いっぱいのこぎりを引く。俺が引く。

 またエルナが引く。すでに息が荒い。

 うん。今日も長く持ちそうにないな。




 

 雨が上がり作業が再開されていた。

 とはいえ、いまだに空は厚い雲が覆っている。いつまた雨が降り出してもおかしくはない。


 一点だけ、昨日と違うところがある。

 木を加工すると同時に図書館を組み立て始めたことだ。

 雨が降り始めたことで、図書館の規模が大幅に縮小された。あの規模を維持されていたら、百年かかっても完成しなかっただろう。やはり自然は偉大なのであった。

 


「お前も建物を組み立てる方にいったらどうだ?」


 建物の組み立てならば体力を使わない仕事もある。

 事実セレシアはそっちの仕事へと行ってしまった。要領のいい奴。

 エルナも体力が圧倒的に不足している。そちらの仕事の方がいいのではないか。


「嫌です! ボクは体力をつけて、やきゅうを世界一にするのです!!」



 馬鹿げた夢。であるが本人は大まじめだ。

 正直なところ、俺にはとても実現するとは思えない。そもそもどういう状態になったら世界一といえるのか。世界中の人々が棒を振り回す。そんな世界は嫌だぁ。

 それでもなんだか必死にがんばる姿をみていると、不思議とけなす気にはなれないのであった。

 


「まあ、がんばれ」


「はい!!」


 

 

 しばらくお互いに無言でのこぎりを引いた。

 すでにエルナは汗びっしょりになっている。体力の限界も近そうだ。

 俺の方はまだまだ平気だ。男と女の差以上に鍛え方が違う。

 


「アニキは目標とかあるんですか?」


 荒い息を吐きながら、エルナが聞いてきた。

 そういえば俺のことはあまり話していなかった。


「あるぞ。まずはこの村を発展させる」


「そうですね! この村が発展しないと、やきゅうの聖地にはできませんから!」



 ……。



「それから冒険者ギルドを誘致して、ランクを上げまくる。最終的な目標はSランクだ」


「え!? この村には冒険者ギルドがないのですか!?」


 そりゃ驚くだろうな。

 強い弱いは別にして、世界中でモンスターが暴れている。モンスターのいるところ、冒険者ギルドありだ。

 どんな小さな村にも冒険者ギルドは存在する。

 冒険者ギルドのない村はほぼないといってもいい。この村は例外。これから存続するかすら怪しいからだ。

 もちろん派遣される冒険者も期待されていないものばかり。俺たちのことだが。




 俺はのこぎりを引く手を止める。


 ここからが一番大切なところだ。



「そして冒険者として成り上がった後は、元パーティーに復讐してやるのだ! 奴らに土下座させてやるからな!!」


「うえぇ!?」



 エルナが飛び上がって驚く。



「この職業のおかげで幼なじみのパーティーに追放された。元パーティーに復讐しないと、死んでも死に切れん!」


「はぁ。アニキのような何でもきる人でも追放されるんですね……」



 何でもできるわけではないぞ。

 どちらかといえば、お前らができないことが多すぎるのだ。


 エルナの様子。もしかして。



「お前もパーティーを追放されたのか?」


 「やきゅう選手」という変な職業に加えて、この弱さである。

 こいつもパーティー追放を経験してもおかしくない。



 エルナががっくりと肩を落とす。


「ボクは冒険者学園の劣等生でしたから……。そもそもパーティーを組んでくれる人がいませんでした」



 それはまた。悲しいな。

 もしかしたら、いつもの元気な姿も無理をしているのかもしれない。


「ではこうしようか。俺の復讐が終わったら、ついでにお前を馬鹿にした連中を見返しに行こうか」



 その頃にはエルナだって一流の冒険者になっているだろう。

 今の姿からでは想像もつかないが。



「はい!!」


 いい返事だ。

 エルナと笑い合う。


 その時、はじめてエルナと少しだけ心が通じたような気がした。

 気がしただけで、俺の一方的な錯覚だったのかもしれないが。

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