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第三十五話 雨の日はやきゅうの練習をしよう

 先ほどから雨が降り続いている。

 木を加工する作業は中止となった。

 万が一、風邪でも引いて悪化したら治しようがないからだ。

 この村には薬がない、専用スキルを持った人間も存在しない。


 セレシアを含め、基本の回復スキルを持つ人間ならいる。

 ただ、基本スキルでは軽い怪我や病気しか治せない。それ以上は職業「医者」など専門家の領域。

 いずれはこの村も専門家を迎えねばなるまい。


 不足しているものが多すぎるな。普通の村になるのはまだまだ先のことだ。




 とはいえ、今日はもうできることは存在しない。家で休むしかない。

 おそらく村にきてから本格的な雨となる。雨はまるでやむ気配はない。

 雨をながめていると、しんみりとした気持ちになってしまう。




 そんな俺の気持ちなど知らず、無邪気にはしゃいでいる二人組がいる。



「アラン。せっかく休みになったのだし、一緒に遊ぼうよ」


「そうですよ。アニキ! やきゅうしませんか?」


 もちろんセレシアとエルナである。

 よっぽど今日が休みになったことが嬉しいらしい。子供か?



「しねぇよ。だいたいここは仮の家だ。棒なんて振り回したら壊れてしまう。絶対にするなよ」


 いまだに俺たちにはきちんとした家はない。というか村の住民誰一人持っていない。

 俺たちが雨をしのいでいるのは、あくまで仮の家である。


 屋根は枝を組み合わせたもので、葉っぱで隙間を埋めてある。床も同様。

 当然、部屋割りなんてものはなく、全体的に狭い。仮の家全体でも普通の家の一部屋分でしかない。

 先ほどから、ポタリポタリと雨漏りがしている。作りが甘い。素人が適当に作ったものだからだ。

 むしろこの程度ですんでいるのは、幸運といえるだろう。



 それなのにエルナが暴れるなど論外である。



「これから俺は屋根の補修をするからな。お前らだって雨漏りがする中で寝るのは嫌だろう?」


「フッフッフ。アニキは甘いですね! やきゅうが棒を振り回すだけのものだと?」



 いやいや、そういう話はしていないから。

 人の話を聞け。このやきゅう馬鹿。



「へぇ。やきゅうにはまだ私たちが知らないことがあるんだね。ぜひ聞かせて欲しいな」


 セレシアがあおる。この女の場合、完全にわざとである。

 俺をからかってそんなに面白いのか。



「お任せください!!」


 エルナが胸を張る。

 この上なく嬉しそうだ。心なしか背が低い体も大きくみえる。




「ああ、もう。勝手にしろ!」


 セレシアに対して口で勝てる気がしない。

 立ち上がり、屋根の補修に取り掛かる。

 夜までに枝や葉をさらに張り巡らして、雨漏りを止めなければ。




「説明します! やきゅう領域展開!!」


 嬉しそうにエルナがやきゅうの説明をはじめる。

 こいつはやきゅうとなると、本当に我を忘れるな。


 声が届かないところまで逃げたいところだが、家は狭い。

 背中越しに説明を聞くことになるのだった。ちくしょう。



「まずですね! この白い球を投げるんですよ!」


 エルナが何もない空間から球を取り出す。

 職業「やきゅう選手」にはその力があるのだ。


「ほほぅ。球を棒で打つだけでなく、投げたりもするのだね」


「そうです! 打つのと同じくらい投げるのも大事なのです! 今日は球を投げ合って、やきゅうの練習をしましょう!!」


 エルナが球を軽く投げる。ふわっとした軌道である。

 パシッという音と共にセレシアがそれをつかむ。


 この程度の速度なら、運動能力が低いセレシアにも対応できるらしい。



「ふむ。素手で球をつかむのかい? 速度が上がると怖いのだけど」


「いえいえ、そのための道具も出せますよ! でも今日は軽く投げて練習をしましょう!」



 エルナとセレシアがそれぞれ家の隅っこに立ち、球の投げ合いが始まる。

 球の速度が遅いので、とても体を鍛えるには適さない。まさしく子供が遊んでいるよう。



「なかなか面白いね。これなら女でもできそうだ」


「もちろんできますよ! やきゅうは世界一の運動ですから!」



 背後でパシパシ音がするのが、うっとおしい。

 うっとおしいが、まだ我慢できる。屋根を補修するのを邪魔されるよりはずっとましだ。



 セレシアとエルナが遊んでいるうちに、さっさと終わらしてしまおう。




「よーし! もっと球の速度を上げますよ! 頑張って取ってくださいね!!」


「あっ!? エルナ!?」



 その直後、後頭部に衝撃が走った。

 思わず前のめりに倒れそうになる。なんとか耐えて、床をみると球が転がっていた。

 それほど痛くはない。痛くはないが……。


 エルナの奴。

 俺に球をぶつけやがったな。



「あーあ。運動能力がないのに無理するからだよ」


「あわ!? あわわ!? わ、わとじゃないのです!」



 俺は球を拾い上げる。

 エルナの顔をみる。


 エルナ。

 お前は調子に乗りすぎだ。お仕置きが必要だな。



「ゆ、許してください!」


「かまえろ」


「え!?」



 大好きなやきゅうでお仕置きされるのだから悔いはあるまい。




「今から球を投げる、ちゃんとつかめよ」


「ひえ!?」


 エルナが両手を前に突き出す。格好の的である。



 容赦なく俺は球を投げた。


 もちろん全力じゃない半分程度の力だ。

 これくらいならば手を痛めることもないだろう。


 球がエルナの手に当たった。

 バシンッと大きな音が響く。



「あひぇーーー!?」



 なぜかエルナが家の外まで吹っ飛んでいった。

 ん? 球は軽いし、全力では投げなかった。それほどの威力があるとは思えないが。

 


 ああ、なるほど。自ら衝撃を逃がすために後ろに飛んだのか。

 その動きは戦いでも役に立ちそうだな。



 たぶん無意識だろうが、なかなかやるじゃないか。


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どうかよろしくお願いします。

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