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第三十四話 作業再開

 手持ちの剣で木を斬ってみることにした。

 転がっている丸太に一度だけ。それ以上は剣が痛む。

 本当は我慢するべきだとわかっていたが、腕試しをしたい誘惑には勝てなかった。


「はぁ!!」



 全力を込めて剣を振り下ろす。


 

 冒険者が使う剣は太くはない。太くしすぎると重くなって、持ち運びに不便だからだ。

 素人が木を斬ろうとするなら、簡単に折れてしまうに違いない。

 訓練を積み、剣を振る速度が上がると折れにくくはなる。冒険者学園を卒業するくらいの腕ならば、モンスターの首を切断するくらいでは決して剣は折れない。


 もちろん使い手のスキルや腕にも依存する。

 最高の使い手ならば、切断できないものないとさえいわれている。


 

 俺はといえば。

 折れはしないが、剣は丸太の中ほどで止まっていた。



 こんなものか。今の俺の腕は。


 

 両断できるならば、作業の助けになるかと思った。だがこれでは無理だ。

 以前のように、地道にのこぎりで削っていくしかなさそうだ。




「アラン。なに遊んでいるの?」


 いつの間にかセレシアが隣に立っていた。

 剣が突き刺さった木を興味深そうにながめている。


 遊んでいたわけではないぞ。

 自分の腕を試したかったし、もしかしたら作業の助けになるかもと思っただけだ。

 まあ結果的にはダメだったわけだが。


「遊んでいる場合じゃないよ。向こうで面白いことがおきている」


「面白いことだと」


 セレシアのいう面白いことなんて、ろくでもないことに決まっている。

 この前なんてあれだぞ。エルナが夕飯を食べすぎて動けなくなっているのを面白がっていた。鬼か。

 同じパーティーなのだから、もっと優しくしてやれ。介抱するとか。



「そう。村人たちが図書館のことで議論している」


「またか」


 またもめているのか。

 つくづく議論の好きな村だなぁ。

 しかも俺からすれば、どうでもいい議論をしている。未だに学者のこだわりはよくわからん。



 冒険者学園の教官は、有能な人間ほど自己主張は激しいと教えてくれた。

 この村もそういうことなのだろうか。わからん。

 我ながら断言できないところがちょっと悲しい。





「このままでは駄目だと言っている! 規模の縮小が必要だ!!」


「王都の図書館に負けない建物を作るのだ!!」


「想定よりも作業が遅れているのだ! その計画では図書館がたつまでに何年かかると思っている!」



 村人たちがわいわいと議論している。



 うん。

 もうこれが村の名物でいいじゃないかな?



「そういえばエルナはどうしている?」


 一緒に家から出たから、近くにいるはずなのだが。

 周囲を見渡しても姿がみえない。


「ん? あそこにいるじゃないか」


 セレシアは人ごみの中を指さした。


 確かにちらちらと猫耳がみえる。背が低いから完全に埋もれてしまっている。

 なにをやっているのだ、あいつ。わからんが何の役にも立ってないことは間違いない。

 そもそもこの状況で、エルナに役に立てというほうが無理難題か。他人を仕切るとか一番苦手そうだしな。



 あいつは放置しておこう。



 かといって……だ。

 俺も仕切るのが得意なわけでもないが。

 俺たちは冒険者であり、それ以上ではない。学園で習ったのはモンスターとの戦いかたが中心だ。人の仕切り方や村の開発の方法など知るはずもない。



「あ! アランさん! この図面をみてください!!」


 ある村人が一枚の紙を突き出してきた。

 セレシアと一緒に紙をのぞき込む。



 うん。

 わからん。



 たぶん図書館の設計図なのだろう。

 しかし俺では読み取れない。書かれている文字は読めるがそれだけだ。記号とか線が意味しているのかさっぱり。


「ふーん。これはすごいね。王都の図書館よりも豪華だ」


 セレシアが感心したようにつぶやく。



「お前、図面も読めるのか」


「一応ね。冒険者学園にいるときは本ばかり読んでいたからね。とはいえ専門家には遠くおよばないよ」


 ちょっとだけセレシアを見直した。

 やはり頭脳では、セレシアがパーティー内では頭一つ抜けている。


 

 王都の図書館を思い浮かべる。

 この国最大の図書館で、一日で千人をこえる人々が訪れる。

 知識の象徴。あるいはこの国の学者の誇りそのもの。


 

 それ以上の建物をこの村に?



「さすがに不可能ではないですか? 資材も本の量も訪れる人も足りませんよ」


「だが!! この図書館を建てるのが私の夢なのだ! こればかりは譲れん!!」


 すごい熱意である。

 学者の情熱ここにありといった感じ。



「確かに革新的な図書館だね。完成したら歴史に残るかも」


 楽しそうにセレシアが評価する。

 そんなにすごいのか。

 俺には建物の良し悪しは理解できん。住めればそれで十分だろ。



 

 突然、議論がおさまった。

 村の住民たちが俺を見つめていた。視線には期待の感情が込められている。

 


 え? まさか。

 俺に決めろというのか?



「村長のカストロはどうした? これはカストロの役目だろう」


「カストロさんは領主に呼ばれて不在です」


 図面を渡してくれた男が答えた。

 


 だからって俺が決断を下すなんてあり得ないだろ。

 この村にきてから俺への過大評価が多すぎる。

 俺だって協力できるところはしたい。が、建築なんて冒険者の知識の範囲外だ。



「ヴィ……」


 ヴィクトリアちゃんと言おうとしてやめた。

 さすがに五歳の女の子に頼りまくるのは駄目だ。こっちは十八歳の男である。



 じゃあどうするか。

 困ったな。どうしよう。


 セレシアがニヤニヤしているのがイラっとくる。

 ここはお前の出番じゃないのか?



 その時、ポツポツと水滴が顔に当たった。

 雨が降り出したのだ。気がつくと空は曇っていた。

 

 どんどん雨は強くなり、ザーという音が周囲に響く。


 俺への期待はどこへやら。

 村の住民がいっせいに雨宿りするために散っていく。



「フフッ。さすがの学者の情熱も自然の前には勝てず……か」


 セレシアが笑う。

 雨に濡れることを気にするそぶりもない。



 なるほど。

 図面に書いてある建物を作るのは非常に時間がかかる。その分今ある本の損傷はひどくなる。

 雨が降ったのならなおさらだ。



 雨はさらに強くなってきている。

 今日はもう作業はできないだろう。



 現実をみせられては、壮大な夢も一時中断せねばなるまい。

 とりあえずは小さな図書館を作るしかない。


 

 時として自然こそが人間の決断をうながす。

 なるほど。勉強になった。


 やはり自然は偉大であったのだ。

ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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