第三十一話 図書館を建てよう
セレシアがエルナに話しかける。
「草の上で寝るのは辛かっただろう? 今日は仕事にならないね」
「え!? ボクは野宿に慣れているんで別に……」
「いやいや、無理はしない方がいい。休むのが賢い選択さ。肉体労働なんてしている場合では……」
俺はセレシアの着ている服を引っ張る。
体重が軽いから、簡単にひきずられる。
「そこまでだ」
「なんだいアラン。私はエルナを心配しているんだよ? 邪魔しないでくれないかな」
「嘘をつけ。自分が仕事をしたくないだけだろうが」
どうせ看病とか何とか理由をつけてサボるつもりだろ。
その手にはもう乗らん。
過去何度もやられれば、俺だって学習する。
「だいたいさぁ。なんで私も労働に参加いなくちゃいけないの?」
この場にはこの二人を除けば男しかいない。
力仕事は男の役目と暗黙の了解があるのだ。
女性陣は森で食料の調達や、家事などをしている。
「それはお前が冒険者だからだ」
ゴブリンやラージラビットが相手ならば、俺一人でもセレシアたちを守ることができる。
だが将来強いモンスターと戦おうとするなら、それは不可能だ。最終的には自分の身は自分で守らなくてはならない。
俺も。セレシアも。それが冒険者の鉄則。
「私はあんまり自分のことを冒険者だとは思ってないけどね」
「他にどんな生きる道があるというのだ?」
「そういわれると、きついねぇ」
言葉とは裏腹にセレシアは微笑んでいる。
貴族の子供としての利用価値を見切られて、辺境へ捨てられたのだ。
セレシアには帰る場所がない。他の仕事をしようにも、授けられた変な職業が足を引っ張る。それに加えいっそ褒めたくなるくらいの世間知らずでもある。
冒険者として辺境で生きていくしか道はないのだ。
もちろん俺が冒険者として成り上がる時にはセレシアも一緒だ。
セレシアの将来の夢はわからないが、成り上がれば人並み以上の生活は約束されている。
王都にいる頃、Sランク冒険者の住んでいる家をみたことがある。ものすごい豪邸であった。貴族の家かと見間違うほどに。
俺自身は元パーティーに復讐するのが目的であり、豪邸に住みたいわけでもないが。
「ねえ、アラン。エルナをあのままにしてもいいの?」
「え!?」
振り返ると、エルナが村人たちに叫んでいた。
「一緒にやきゅうをしませんかーーー!!」
俺は走った。
急いでエルナのところまで行き、服を引っ張って帰ってくる。
「何をしている、お前は。これから一緒に仕事するのに、喧嘩を売ってどうする」
「いくらアニキのいうことでも、こればっかりは聞けません! やきゅうを世界一にすることはボクの使命ですから!!」
エルナが手足をばたばたさせる。
まだ仕事もはじまっていないのにすごく疲れる。
セレシアでさえ手に余っているのに、エルナまで面倒みろというのか。
「世界一もなにも、やきゅうしているのはお前だけだろ」
「昨日まではボク一人でしたけど、今はアニキがいます!」
ねーよ。
そりゃ、昨日はちょっとだけ面白いと思ってしまったけどな。
しかしやきゅうを広めるのを手伝う気などない。他にやることが山ほどあるのだ。
そんなことに付き合っている暇はない。
「わかったわかった。今度村長のカストロに相談してみるよ。そこで許可が取れれば、やきゅうを宣伝しても住民に避けられることはなくなるだろうよ」
「本当ですか! さすがアニキ!!」
エルナが飛び上がらんばかりに喜ぶ。
なんという純粋な笑顔。こいつ本当に俺たちと同じ年だよな。
「君たち。何イチャイチャしてるんだい? アランは私のものなのだよ」
セレシアがエルナを俺から遠ざけようとする。
あーもう。収集がつかん。
仲間が増えたことで、このパーティーの混乱具合も二倍になってしまった。
全然作業に取り掛かれないじゃないか。
「おい! お前らあれをみろ!! 今日の仕事だ!」
山積みされた木材を指さす。
苦労して森から切りだしてきたものである。
これを運び終わるのに数週間もの時間が必要であった。あわやけが人が出そうになる場面も多数あった。
「今から村の全員でこの木を四角に加工するぞ!」
積まれた木は丸太のまま。家の材料にするには四角加工しなければならない。
この村には建築関係のスキルを持った人間はいない。知識はあれど、実践する人間が存在しないのだ。
全ては手作業。もちろん苦労は目にみえている。
ようやく二人が取っ組み合いをやめる。
エルナが耳を立てながら、不安そうに山積みの木を見上げる。
「で、できるのでしょうか? こんなにたくさんの木を……」
「できる、できないではない。やるしかないぞ。これが終わらなければ俺たちの家も建てられん」
はっとしたようにエルナが俺をみる。
我ながら、ちょっと良いこと言ったかもしれん。
「それにしてもあれだね。自分たちの家よりも図書館を先に建てるとはね」
「そうだな。なんともこの村らしい」
この場所にきてから、そうれなりの時間がたった。
当然、村の住民たちが持ち込んだ本も傷んできている。野ざらしに積んであるだけ。量が多ければなおさらである。
それが一番の大問題になっているのだった。
自分たちが雨に濡れるのは我慢できても、本が濡れるのは我慢できない。
なんともまあ。
ヴィクトリア村らしいではないか。
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