第三話 役に立たない職業は辺境へ
大切なことなのでもう一度繰り返す。
間違いなく、セレシアとは初対面である。
噂だけは色々と聞いていた。
全ての授業を免除されているとか。図書館にこもったまま出てこないだとか。
それに加えてこれだけの美人である。半ば伝説のような存在になっていた。
「私は君のことを愛しているのか?」
意味不明すぎる言葉。
この一言だけ理解する。噂に勝る変人ぶりだ。
しかもなぜか堂々とした態度で胸をはっている。恥じるものなど何もないといった表情である。
答えようがない質問をしやがって。
この女が俺を愛しているかなど、知るわけない。
というか、こいつの感情はこいつが一番よく知っているはず。
どうして初対面の俺に聞くのか。
そもそもいきなり愛の告白とは。頭が狂っているのか。
「んー?」
セレシアが顔を近づけてくる。
なんなんだろう。美女に言い寄られているはずなのに、これっぽっちも嬉しくない。
「やめろ、近づくな。いきなりの愛の告白とは何のつもりだ!?」
自分でも声が震えているのがわかる。
情けないが、こんな状況で動揺しない人間はいない。
「ふむ。さすがに急ぎすぎたかな。失礼、気持ちが抑えきれなくて」
一方、セレシアは余裕である。
恥ずかしくないのか。この女は。
「君がスキルの鍛錬をしているのを、いつも図書館の窓から眺めていてね。いつの間にかその一生懸命な君が好きになっていたのだ。好きなのは確実だが、愛なのかは自信がなくてね。そうだ。なんだったら今からでも……」
「セレシア君。そこまでにしてくれないか?」
先生が割って入る。
「あくまで君を呼んだのはアラン君と引き合わせるためだ。恋愛は自由だが、後にして欲しい」
「ふむ。どうやらこれ以上押しても、アランの印象が悪くなるばかりのようだ。私とて馬鹿ではない。引き際は知っているつもりさ」
いや、どう考えても馬鹿だろ。
それが、頭がおかしいか。どっちかだ。
先生が俺の方を向く。
「アラン君、結論から言おう。君が冒険者を続けたければ、彼女とパーティーを組むしかない」
そうだ。あまりの事態に忘れていた。
セレシアも俺と同じ変な職業を授かった一人なのであった。
冒険者ギルドは役立たずたちを一つのパーティーとしてまとめる。
まとめて、辺境に捨てる気なのだ。
断ることもできる。
しかし断ったら、冒険者ギルドから脱退しなければならない。冒険者の夢は絶たれてしまう。
ヒューイを見返すこともできなくなる。一生負け犬のまま生きねばならない。
冗談じゃない。
先生が俺の肩をたたく。
「辺境に行くのも悪いことではないよ。王都には腕利きの冒険者がたくさんいる。辺境なら劣等感を抱かずにすむだろう」
俺達への同情から発した言葉だったのだろう。
それでも素直に受け入れられるものではない。ずっと底辺の冒険者で満足しろといっているようなものだからだ。
「お言葉ですが、まだ『ゆーちゅーばー』が役立たずと決まったわけではありません!」
俺に残された道は『ゆーちゅーばー』という職業を磨くしかないのだ。
例え限りなく細い道だろうと、突き抜けていくしかない。
俺の言葉を受けて、先生は悲しげに顔を振る。
「学園では毎年数人、君のような職業を授けられる生徒がいる。いまだかつてそれらの生徒が冒険者として成功したことはない。それは君も知っているはずだ」
冒険者ギルドが俺達を冷遇するのにも理由はあるのだ。
Sランクが冒険者としての成功の目安であるが、変な職業を授かった人間で到達したものは存在しない。
冒険者をやめてしまったか、もしくは今も底辺をさまよっている。
それだけ職業というのは、冒険者にとって大切なのだ。
ほとんど将来が職業で決まってしまうほどに。
「大丈夫。私とアランならば成功するさ」
セレシアが俺に抱き着こうする。
顔を掴み、阻止する。
「根拠はあるのか?」
「まったくない。だが根拠がなくとも、希望を持つことはできる。人間とはそういうものさ。さあ、私と一緒に踊らないか?」
なんなのだ、この女は。わけがわからん。
いままでこんな人間には会ったことがない。
「先生。この女はどうなっているのですか? こんな性格でまともに生活が送れるのですか?」
「うん。彼女にはいろいろと深刻な事情があってね。少しばかり性格が歪んでしまうのも仕方がない面がある。私たちも手を焼いたものだが、しかし……」
先生は困った顔をしながらも、どこか嬉しそうだった。
「アラン君に惚れているなら、それはそれでとても素晴らしいことだ。相性を心配していたが、むしろ君にしかセレシア君をあつかえないかもしれない。パーティーを組めそうじゃないか」
他人事である。
完全に問題児を押し付けられた格好だ。
「こんな嬉しそうなセレシア君は初めてみたよ」
え? ちょっと待って。
話が終わろうとしているのか? 嘘だろ?
良い話として終わりつつある?
「私とパーティー組もうじゃないか? アラン」
セレシアがすり寄ってくる。
現状は悪い要素ばかりなのに、どうしてこんなに楽しそうなのだ。
「うぐっ……」
選択肢がないのはわかっている。答えも決まっている。
この女とパーティーを組まなければ、冒険者になれない。
夢は叶えられないし、ヒューイに復讐もできない。
わかってはいる。
わかってはいるのだが。
さすがの俺も将来に不安をおぼえてしまう。
くそっ!
「ああ、やってやるさ! お前とパーティーと組んでやる!! よろしく!!」
俺は叫んだ。
半ばやけくその発言であった。
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