第二十九話 リーダー決定
手に握った球を観察する。この手触り。
動物の皮でできているのだろうか。二本の縫い目がある。
軽さからして、中は空っぽに違いない。
エルナが振った棒が球を飛ばしてきた。が、さすがにわざと飛ばしたとは考えていない。
数時間前に会ったばかりが、悪いやつではない。
この場で俺たちを攻撃する理由も特に思い当たらない。そもそも陰謀をめぐらすような知能があるとも……。
「わーーーー!! す、す、すいません! すいません!」
ほら、エルナの方がはるかに慌てている。
俺のところまで走ってきて、ペコペコと頭を下げる。
「わ、わ、わざとじゃないんです! これは事故なのです!」
「いや、そこまで謝らなくとも……」
一般人ならば危ないかもしれないが、冒険者にはこの程度は問題ない。
エルナも冒険者である。それがわからないはずもないが。
あるいは飛んできた球を避けられないほど、運動神経がにぶいのだろうか?
冒険者学園の成績はぶっちぎりの最下位っていっていたし。
「大丈夫。これくらいで私のアランは、ビクともしないよ」
セレシアは心配した風もなく、笑っている。
それなりに長い付き合いになので、俺の身体能力のことをよく知っているのだ。
「お前のではないけどな」
もしも球が飛んできた方向がセレシアだったなら。
間違いなく直撃しただろうな。冒険者のはずなのにセレシアの運動能力は一般人以下だ。
「またまた、照れちゃって。かわいいねぇ」
その様子をみていたエルナが首をかしげる。
「お二人は恋人同士なのですか?」
「そうだよ」
「違う!!」
俺はエルナに顔を近づける。
絶対に誤解されるわけにはいかない。
「いいか! 俺とセレシアはただのパーティーの仲間だからな。一緒に暮らしているのも村が完成するまでだぞ」
「わ、わかりました」
エルナの表情が固まる。若干のおびえの表情が浮かんでいる。
頼むぞ。ただでさえ村人に噂されているのだから。
「まっ、そういうことにしてあげるよ。今のところはね」
セレシアは余裕の態度で腕を組む。
くそっ。いつもこうだ。どうすればここから反撃できるのか。
学生時代に恋愛について、もっと勉強しておくべきだった。
「ねぇ、エルナ。やきゅうってこれで終わりなの? 球が飛んできて棒を振るだけ? さすがにつまらないなぁ。他になんかないの?」
「本来は球を遠くまで弾き飛ばすのです。でもボクは転がすのが精一杯……」
え? 俺がみた限り、球を打ち返すのはそう難しくない。
投げられた球のスピードもそれほど速くはないし、棒自体も重くはなさそうだ。
よほどエルナの運動能力が低いとしか思えん。
運動系の職業で、運動能力がゼロというのは悲しいものがある。運動を補助するスキルもなさそうだし。
「やきゅうというものは、簡単に極められるものではありません! 棒で球を打つだけで十年もの修業が…」
「嘘だろ。よくもまあ、そんなありさまで勝負を挑んできたな」
エルナの耳がピンとはねる。
大きく感情が動くと、耳にでるのか。なんともわかりやすい奴。
ぷるぷると震えている。
どうやら怒っているようだ。
だがな、俺だって午後の仕事をキャンセルしたのだ。
パーティーの仲を深めるのは大切だが、お遊びに付き合っている暇はない。
しかし、あれだな。こんなに感情が表情に出る奴をはじめてみた。くるくると表情が変わって、なんだか小動物を連想させる。
エレナが俺に向かって木の棒を突き出す。
「では! あなたが球を打ってみてください! 打てたのなら、パーティーのリーダーと認めます!!」
「あ?」
まだ勝負にこだわっていたのか。
こちらは最初から勝負をするつもりなどそれほどなかった。
パーティーのリーダーは勝負で決まるものではないからだ。たとえ戦いに強くとも、知恵がなければパーティーを危険にさらす。総合的な力が要求されるのだ。
だが冒険者として、勝負にこだわる姿勢自体は悪くない。
負けず嫌いだからこそ、強くなろうする。今は弱くとも将来には期待できる。
セレシアにも見習って欲しいものだ。
「うん。いいじゃないか。アランのかっこいいところがみたいなぁ」
エルナ、おぼえておけ。
こうなったら冒険者として先がないぞ。
セレシアはもっと向上心を持て。
今度無理やりにでもモンスター退治に連れていくか。
エルナから棒を受け取る。
これ以上付き合うのが時間の無駄に思えてきた。
変にごねるよりも、さっさと終わらせてしまおう。
「へんっ! ずっとボクが練習しても打てなかったのに、あなたが打てるはずもありません!」
なんという。
典型的な小物ムーブ。
「他に球を打とうとする奴はいなかったのか?」
「そ、それは。誰もやきゅうを試してくれなくて……」
どこまでも、悲しい奴だな。
夕飯でもおごってやりたくなる。
俺はエルナが球を打っていた場所に立つ。
確かこう、横に棒を振っていたな。
素振りをしてみる。
感触はいい。剣を振るのとほぼ同じ。
なるほど。この棒は横に振りやすいように加工してあるのか。
「いいぞ。球を投げろ」
エルナに向かって合図を送る。
黒い影が球を投げる。それに合わせて棒を振る。
投げられた球を棒でとらえる。
カキーーーーン。
打たれた球は青空の向こうへ消えていった。
手には球を捕えた時の感触が残っている。
こ、これは。
なんという爽快さ。
エルナが目を丸くして驚いている。
セレシアは満面の笑顔で拍手している。
うーむ。
やきゅう。
悪くないかもしれん。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




