第二十六話 新たな仲間
冒険者学園の先生から手紙が届いた。
こんな辺境まで手紙を届けるには、かなりの金額が必要になる。
家族を除けば、これほど俺を気にかけてくれる人がいるだろうか。おそらく存在しない。
元パーティーはおろか、学園の同級生など一人たりとも思い浮かばない。世の中そんなものだといわれれば、そうかもしれないが。
内容はというと、三人目のパーティーのメンバーことであった。
もうすぐこの村に到着するとのこと。
正直、パーティーのメンバーのことなどすっかり忘れていた。
俺たちのパーティーは四人。今回来るらしい冒険者は一人。
来るのが遅くないだろうか。よっぽど遠い場所に住んでいたのか。辺境から辺境へ。俺たちよりも自然の生活には慣れている可能性もある。
それと最後の一人は何をしているのだ。パーティーを組む気があるのか?
「ちょっと私にも読ませてよ」
セレシアが横から手紙を奪い取った。
俺たちが住んでいる場所は狭い。雨をしのげる程度の機能しかない。
自然と体が密着している形になる。
ちゃんとした家を建てられている住民はまだ一人もいないから、文句もいえない。
「なるほどなるほど。……ん? あれ? この手紙はおかしいね」
一瞬で読み終えたセリシアが手紙を返してくる。
手紙のおかしい箇所。俺にも理解できる。
新しくパーティーに入るメンバーについて、まったく触れられていないのだ。職業はおろか、名前さえ書かれていない。ただよろしくやってくれと、手紙の最後に結ばれている。
ここまで徹底的に書かれていないのは、わざとでしかあり得ない。
よっぽどヤバい奴なのかな。
勘弁してくれよ。
こっちはセレシアの面倒をみるだけで精一杯。
これ以上、ややこしい人間を増やさないでくれ。
「わかんないよ。性格じゃなくて、行為。犯罪者っぽい冒険者が来るかもよ」
「そんな奴はパーティーから叩き出す」
とかく冒険者は悪人に見られがちだ。モンスターを倒す技術は、容易に人間に向けることができる。実際に元冒険者の犯罪者は多い。
弱くてもいい。少々頭がおかしくてもいい。だが犯罪者はダメである。
「厳しいね」
「厳しい? 俺ほど優しい人間はいないぞ」
優しすぎて、あらゆる村の仕事を押し付けられまくっている。
この前なんて五歳の女の子と一緒に踊ったんだぞ。強い冒険者はいくらでもいるが、そんな冒険者はこの世界に一人もいないに違いない。
手紙をかかげる。
「先生によると、すでに仲間の冒険者が村にきている可能性がある。それを確認にいくぞ」
「えー。せっかくの昼休みが」
「あとで俺たちが出迎えていないと知ったら、信頼は得られない。こういうことに手を抜くべきじゃない」
できるならば、もう二度とパーティーを追放されたくはない。それと同時にメンバーを追放したくもない。
願わくば、まともな仲間であって欲しい。
ぜいたくはいわない。一般常識だけでいいから。
ヴィクトリア村の昼どきである。
今日も晴れている。太陽な光が温かく、歩いているだけで気持ちが良い
「やあ、アラン君。今日はいい天気だね」
「君に相談したいことがあるのだが」
「今度、新しい発明を発表しようと思うのだが。君も参加してくれないかな」
すれ違う住民が声をかけてくる。
辺境の村にきてから、それなりの時間がたった。もともと約千人しかいないのだ。顔見知りになるのにそう時間は必要としない。
特に村の危機を経験してからは、さらに団結が深まったように感じる。
道端には切られた木が丸太のまま積まれている。
村の男が総出で運んできたのだ。当然俺も参加した。というかまとめ役として任命された。
木を切り倒すのはともかく、村まで運ぶのは苦労の連続であった。村の住民は学者ばかりで肉体労働は慣れていない。
いつ事故が起きてもおかしくなかった。危なっかしくてみていられない。
結局は先頭をきって働くことになる。
一日中重い木を引っ張っていれば、さすがに冒険者でも疲れる。
そのおかげで体が鍛えられたのだけは救いだ。なんの救いかは、よくわからんが。
「あっ」
セレシアが前方を指さした。
「珍しいな。猫耳族がいるよ」
指さした方向に顔を向ける。
確かに人ごみの中に猫耳族の女の子がいた。
猫耳族とわかるのは、その頭についた耳のせいだ。
世界にはいろいろな種族がいる。それでも頭に猫の耳が生えているのは、猫耳族しかいない。
背は低く、体つきも細い。
ぱっと見では少年にもみえる。
それでも女だとわかるのはわずかに胸がふくらんでいるからだ。
俺の知っているかぎり、この村には人間しかいない。
となると。
あの猫耳族が新しいパーティーのメンバーだろうか?
猫耳族は道行く人々に声をかけている。
「一緒にやきゅうをしませんかーーー!!」
……。
え?
何言っての? あの猫耳族。
当然人々からは無視される。
いくらこの村の住民が優しくとも、さすがに他人のわけのわからない言葉に反応しない。
あるいはあいまいな笑みを浮かべて通り過ぎていく。
それでも猫耳族は気を悪くした風もなく続ける。
「一緒にやきゅうをしませんかーーー!!」
あれが新しいパーティーのメンバーになる?
嘘だろ。
どうか俺の間違いであってくれ。
「うーん。私がいうのもなんだけど、あの子はヤバイね。犯罪者ではなさそうだけど」
セレシアも変人である。
その変人がいうのならば、相当だ。
あれじゃありませんように。
あれじゃありませんように。
あれじゃありませんように。
猫耳族がこっちに振り向く。
ばっちりと目があう。パッと笑顔になる。
セレシアとは違う、子供っぽさを残しているような笑顔。
「あっ! もしかしてあなた、冒険者のアランですか!?」
……。
あれだった。
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