第二十五話 村の名前決定!!
「なに!? 村の名前をアラン村にするだと!?」
思わず俺は村長であるカストロに詰め寄った。
カストロといえば、俺が何を怒っているのかわからないという風に首をかしげた。
「アラン君の「ゆーちゅーばー」のおかげで、村は救われた。それなのに、僕たちには返せるものがない。だからせめて恩人の名を使おうと……」
おいおい。
ふざけんなよ。
ヴィクトリアちゃんと街の住民の踊りは大成功だった。
「ゆーちゅーばー」で約六十万ゴールドほどを稼ぐことができた。
これならば領主への税金を払って、なお十万ゴールドあまる。
辺境なので食料については自給自足がほとんどである。
生活費はあまりかからない。金を使うのは緊急に場合に限られる。
十万ゴールドあれば、しばらくは持つだろう。
領主への税金が払えずにこの場所を追い出されるという危機は去った。
全員が納得する良い形で。ハッピーエンドに他ならない。
それなのに、なんだ?
次から次へと問題が出てくる。辺境の村を開拓するってこういうことか?
「絶対に受けませんからね!」
どうも最近、頼めばなんでもする男と思われているふしがある。
森で生きるための知識を授けるならともかく、五歳の女の子と踊ってしまったからなぁ。
ここらで俺は都合のいい男ではないと、ガツンと言わねばならん。
「どうしてだ!? 村の名前になるなど、この上ない名誉ではないか!」
カストロは学者だから、その辺の微妙さがわからないらしい。
よく考えてみろ、俺はまだ駆け出しの冒険者である。
それがいきなり村の名前になったらどうなるか。
間違いなく笑いものになるだろう。
まず実力があって、名誉がある。逆になると大変なことになるのだった。
「アラン村か。いい響きじゃないか」
またセレシアが適当なことを言う。
本当はセレシアだって、俺の名前を村につけるのは良くないと思っているはず。
いつものように俺をからかっているのである。
こうなったら。
「ではセレシア村はどうでしょう? 踊りで金を稼ぐアイデアを出したのはセレシアですから」
「ふぅむ。それも悪くないな」
カストロは無邪気にうなずく。
恩人の名前を村につけられれば、誰でもいいのだ。そうでなければまた村人同士での議論が巻き起こる。もともと村から金がなくなったのも、それが原因だ。
ちらりとセレシアをみる。
だがセレシアは余裕の表情。
「本当にいいのかい? 私の親は王族かもしれないのだよ? 村の名前にしたら国への独立とみなされるかもしれないね。そうなったら……」
「そ、それはまずい。 セレシア村はだめだ」
カストロが慌てる。
完全にセレシアの勝ちであった。
実際に独立とみなされる可能性は限りなく低くとも、村長としては受け入れられない。
くそっ。
一生この女に口で勝てる気がしないぞ。
その時、遠くに歩いているヴィクトリアちゃんがみえた。
手に本を持って、どこかへ行く途中のようだ。
この村は子供の教育環境だけは完璧である。なにせ村人が学者ばかりなのだ。
ヴィクトリアちゃんも他の子ども一緒に、勉強にでも行く途中なのだろう。
しかし、五歳で文字が読めるとは本当にすごい。
さすが学者の娘。
二十年後に村を背負うのは、間違いなくヴィクトリアちゃんだろう。
その時まで村が残っていればの話だが。
ああ、そうだ。
この手はどうだ?
「セレシア村がダメなら、ヴィクトリア村でどうでしょうか?」
「え!? それは……」
いくらなんでも自分の子供を村の名前にしないだろう。
それがたとえ村の救世主だろうと。
当てつけである。
これをきっかけに俺の名前を諦めてくれれば。
「素晴らしいアイデアだ!」
あれ? 絶賛!?
「アラン。君はたまに思いがけないアイデアを出すから侮れないな」
セレシアまで。
どういうことだよ。
「ヴィクトリアというのは女神の名前でもあるからね。村の名前としては、むしろ普通だ。それに加えてヴィクトリアちゃんの名前もかけるとは。なかなか考えたね」
「お、おう……」
知らなかった。
何の女神なのだろうか。有名なものは俺だって知っている。
よほど珍しい女神なのか。それとも異教の女神だろうか。
とはいえ、自分から提案して聞くのも不可能である。
今さら偶然だなんていえない。
「いや、しかしヴィクトリアちゃんが承諾するか」
「大丈夫です。僕の娘ですから」
カストロが胸をはる。
親ばかの表情。
うーん。
本当にヴィクトリア村でいいのだろうか。
アラン村に決まるよりもずっといいのは事実。
ヴィクトリアちゃんの働きも村の全員が認めるところである。
でも、しかしなぁ……。
その夜。
ヴィクトリアちゃんは村の名前にあることをあっさりと受け入れた。
それどころか将来この村を国一番の都市にすると宣言したらしい。
なんというか。
器が違う。天才か?
そして次の日。
村人の全会一致で、村の名前が決まった。
ヴィクトリア村。
それがこの辺境の村の名前になった。
将来、この村を訪れる旅人はこの名前をどう思うだろうか。
女神から名付けられたと、奇妙には思わないのかもしれない。
しかし俺を含め、村の住民だけは知っている。
五歳だった女の子の名前から。
村の名前がきていたことを。
黒歴史になるか、誇りある歴史になるか。
全てはこれからの話である。
俺個人としては、すでに黒歴史なんじゃないかと思うんだが……。
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