第二十四話 本番の朝
ついに、決戦の朝がきた。
広い草原に全ての街の住人が集まっている。
隣にはヴィクトリアちゃんがいる。
後ろにはカストロと約千人の村の住民たち。
目の前にはセレシアがかめらをかまえている。
これから五十万ゴールドを得るための踊りがはじまる。
珍しく村に緊張感が満ちている。当然だ。村の存続がかかっているのだから。
奇妙な気分だった。
「ゆーちゅーばー」という職業が与えられなければ、踊りなどやっていなかっただろう。
ここにいる誰一人とも知り合ってもいない。
ここにいるのは間違いなく本意ではない。
ちゃんとした職業をもらって、ちゃんとした冒険者として働きたかった。
辺境で村の開拓などするなど夢にも思わなかった。
それでも。そう。
これが。
巡り合わせ……という奴か。
「この一回で五十万ゴールド稼ぐぞーーー!!」
仁王立ちしたヴィクトリアちゃんが拳を突き上げる。
本当は何回でもチャレンジできる。それに五万ほど今まで稼いだゴールドがある。
それでもここは気合だ。一発で決める気合が必要なのだ。
「おおーーー!!」
俺は叫ぶ。
後ろの住人たちも叫ぶ。
根拠のない自信が体にあふれてくる。
これで勝てる。今俺たちは一つになった。
「うわぁ。なんかすごいね。ちょっと気持ち悪い」
かめらを持ったセレシアだけは冷めていた。
ここは気持ち悪かろうが勢いが一番大切だ。一人だけ踊らないからといって、冷静なのは損だぞ。
いつもならば、物事に動じないセレシアをうらやましく思うに違いない。
しかし今だけは違う。この踊りに参加できないセレシアがかわいそうだ。
それほどに俺たちは熱くなっているのだった。
「ああ、もう! なんだいその顔は! 私だけが仲間外れみたいじゃないか!」
セリシアに笑いかけてやる。
今回ばかりは頭の良さが裏目に出たな。
「早くスタートしてくれませんか」
ヴィクトリアちゃんが我慢しきれずにセレシアをせかす。
強い。まるで小さな火の玉のようだ。
その闘志が隣にいる俺にも伝わってくる。
「ス、スタート!!」
ヴィクトリアちゃんの威圧に押されたのか、セレシアがかめらを顔の前にかまえる。
わずかに手が震えている。意外だ。セレシアでも緊張することがあるのか。
この村の運命を決める踊りがはじまった。
ヴィクトリアちゃんが右手を振る。
俺たちも右手を振る。
ここまでくると、タイミングなどと考えてはいられない。
無心で踊るだけだ。
ヴィクトリアちゃんが左手をかかげ、くるりと回る。
俺たちも左手かかげ、くるりと回る。
ヴィクトリアちゃんがジャンプする。
俺たちもジャンプする。
この村には本当に意味で芸を知る人間はいない。
全ては素人の芸である。ただ並んで踊っているだけ。
劇場のように、俺がヴィクトリアちゃんにからんだりはできない。隣で踊るだけである。
かめらの向こうのセレシアが微妙な表情をしているのがみえる。
口をへの字に曲げて、俺たちの踊りに半笑いになっている。
子供が作った変な踊り。だがな、俺はこの踊りに魂をかけている。
はた目からは、ふざけているようにしかみえないだろう。
それでも俺たちは必死である。自分たちが持っている精一杯の力でがむしゃらに踊っているのだ。
この極限状態で俺は思い知った。
踊りって。
結構、面白いじゃないか。
これはこれで悪くないな。
5分間。わずか5分。
俺たちは無我夢中で踊り狂った。
気がつけば踊りは終わっていた。
俺はぼんやりと空をながめていた。
何も考えられない、放心状態である。
村の住民たちも動けないようであった。
全力を出し尽くしたのだ。そうなるのも無理はない。
ヴィクトリアちゃんの瞳から涙があふれる。
この女の子こそ、間違いなく村の救世主であった。
パチパチパチ。
無音の空間にたった一つだけ拍手の音が響く。
かめらを操作していたセレシアだけは感情に流されてはいない。
かめらは地面へと置かれている。
「素晴らしい」
珍しく真面目な表情でセレシアは俺たちをほめた。
「くだらないことでも、これだけ必死にやれば感動を生むのだね」
セレシアが感動したかは関係ない。
とにかく俺たちはやり遂げた。それだけで十分だ。
いや、あともう一つだけ。
地面に置かれたかめらが震えだす。
次の瞬間、かめらから金貨があふれ出す。あっという間に金貨は小さな山となる。
いくらあるか正確にはわからない。
しかし五十万ゴールドはあるだろう。
これで領主に対する税金を払える。
村は救われたのだ。
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