第二十二話 冒険者、幼女に踊りを習うことになる
村の全員で一緒に踊るという、セレシアの提案。
反対するものは誰もいなかった。
ヴィクトリアちゃん一人に村を救ってもらうのは、さすがに皆も悔しい思いをしていたのだろう。
もちろん俺も賛成した。
かめらでとる風景の片隅にでもいればいい。そうすれば踊りの技術など必要ない。
あるいは、かめらで風景をとる役でもかまわない。
いずれにしろ村の一員としての義務は果たせる。
ところが。
最大の試練が俺に降りかかろうとしていた。
ヴィクトリアちゃんが俺の右腕を引っ張る。
そして言う。
「あなたは私の隣で踊ってもらいます」
「……え?」
いやいや、父親であるカストロがいるだろう。さっきの「ゆーちゅーばー」の新記録も二人で踊ったのだ。「ゆーちゅーばー」は俺の職業であるが、踊りなんて一度も習ったことはない。
「わからないの?」
さっぱりわかりません。
とは、五歳の女の子相手には言えなかった。
そこで側にいるカストロの方をみた。
ヴィクトリアちゃんの隣で踊る権利を俺に譲っていいのか?
そこは父親として譲れないはず。
「ふむ。僕は村長だ。村の存続のためには、ちっぽけなプライドなんて捨てるよ」
なんで突然立派な村長になるんだよ。
むしろ村のことより、家庭のことは譲るべきではないと思うぞ。
さっきまであれほど誇らしい表情をしていたじゃないか。
「これまで君は村に多大な貢献をしてくれた。花道は譲る」
待て待て待て。
なぜヴィクトリアちゃんの隣で踊ることが、ご褒美みたいになっているのだ?
突然の展開に頭がついて行けない。
どうして俺が踊らなくてならないんだ?
「フフッ。アランにはわからないようだね」
セレシア。
お前にはわかるのかよ。
「わかるよ。ズバリ見た目だね!」
「み、見た目だと!?」
右腕を掴んでいるヴィクトリアちゃんがうなずく。
え? 全員わかっている? わからなかったのは俺だけ?
いつの間にそんな認識ができたのか。
「お父様も他の人も筋肉が足りないのです。筋肉があってこそ、踊りはより見た目がよくなる。目指すは一発で五十万ゴールドです!」
見た目って筋肉のことか。
カストロも村の住人も学者である。筋肉はない、やせっぽちである。
村で暮らしているうちに、少しずつたくましくはなっているが。
「それに加えて、顔もなかなかですし」
あのな。
「ヴィクトリアちゃん、他に適した人間がいるだろう。例えば猟師のガストンさんとか。あの人は背も高いし筋肉もあるぞ」
「……本気で言っていますか?」
くそっ。
しゃべっている途中でわかったよ。あの人の見た目では、「ゆーちゅーばー」は答えてくれないだろう。特に伸び放題の長いひげが良くない気がする。
踊りを頼んだら、案外あっさりと引き受けてくれそうではあるが。
「と、とにかく俺は嫌だぞ! 明日までに一から踊りなんておぼえられない!」
俺は冒険者であって、芸人ではない。
大勢の人前で踊るなんてごめんだ。それがたとえ素人の芸だろうと。
「アラン。村の危機なのだよ。個人のわがままはやめたまえ」
セレシア、お前がそれを言うのか。
むしろお前は村の危機を楽しんでいるじゃないか。
現に今も、にやついてやがる。
俺は冒険者として村の開拓をがんばってきたのだ。
半分は寝込んでいたセレシアに注意される筋合いはない。
「と、とにかく俺は踊らんぞ!」
「はぁ。しかたがないね」
セリシアは俺の方へ近づく。
お互いの息がかかるところまでくる。人差し指で俺の胸をつつく。
「いいのかい?」
「な、なにがだよ!?」
近寄られて、一歩下がってしまう。
かわいい女の子にここまで接近される経験はほとんどない。
どうしても気持ち的に押されてしまう。
「この程度の試練を乗り越えられずに、元パーティーに復讐できるのかい?」
「うぐっ!?」
この女、一番痛いところを突いてきた。
そう言われては……。
断れん!!
踊りだろうがなんだろうが!
挑発なのはわかっている。
それでも……引けない。
ここで引いたら元パーティーに負けたも同然だ。
「やってやる!!」
俺はほえた。拳を天に突き上げた。
元パーティーに復讐するまで負けるわけにはいかない。
やけくそである。悪いか。
性格が単純すぎる? 知るか。
人間には絶対に譲れないものがあるのだ!!
セレシアとヴィクトリアちゃんとカストロが拍手をしている。
にこやかな笑顔。
お前ら、おぼえていろよ。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




