第二十一話 ダンスの特訓!
ヴィクトリアちゃんが踊っている。
幼女の踊りによって、「ゆーちゅーばー」でかつてない程の金額が稼げた。
これなら明日までに五十万ゴールドを稼げるかもしれない。ついに村の存続に向けて希望が出てきたのかもしれない。
しかし、世の中そんなに甘いものではなかった。
新たな壁が立ちふさがった。
そう、ヴィクトリアちゃんの体力の壁である。
五歳である。一時間も踊ればへろへろになってしまう。気合と覚悟はあれど、体は正直だ。
「やはり幼女に村の運命をたくすなど、間違っていた」
いくら他に方法がなかろうとも、大人たちが幼女に頼るなどあってはならなかったのだ。
今からでも新たな芸を磨くべき。幼女の踊りより稼げる芸はあるはず。
といっても、冒険者である俺はろくな芸はできそうにない。
悔しい。
もっと力、いや芸があれば。
ヴィクトリアちゃんは踊り終わると、ぺたりと地面に座り込んでしまった。
疲れるにつれ、踊りにキレがなくなっている。そうすると「ゆーちゅーばー」で稼げる金額も下がってくる。
父親であるカストロが介護しているものの、明らかに限界に近い。
それでもヴィクトリアちゃんの闘志は消えてはいない。
「……まだ…やれるわ……」
とんでもない根性である。
冒険者でもこれほどの根性を持つ人間はほとんどいない。将来どんな人間になるか恐ろしい。
セレシアにも見習わせたいものだ。
そのセレシアだが、今日も俺のとなりにいる。
なにやら腕を組んで、考え込んでいる。
「五十万ゴールドには、もう一工夫が必要だね」
「お前! まだやらせる気か!?」
これ以上ヴィクトリアちゃんに踊らせるなど、あってはならない。
強行するなら力づくでも止めなくてはならないだろう。
「いやいや、私もそこまで鬼じゃないさ。彼女が踊れるのは明日と今日であと十回ぐらいだろう。それをどう生かすか。もちろん無策で十回では、五十万ゴールドにはほど遠いしね」
「策でも思いついたのか?」
俺はこういう頭脳を使う仕事は弱い。
これがモンスターに関することなら、いくらでもアイデアで湧いてくるのだが。
この状況は特殊すぎる。辺境の村で芸について考えている。あり得ん。
「そうだねぇ。私が踊ってみようか?」
「む。お前踊れるのか?」
「全然踊れないよ。でもまあ、やってみてもいいだろう。ヴィクトリアちゃんの踊りも素人だし」
「僕がやります!!」
ヴィクトリアちゃんを介抱していたカストロが顔を上げた。
目には決意の色が宿っている。これは父親としての責任に燃えている。
「家ではヴィクトリアに付き合わされて、一緒に踊っていた! 振り付けは完璧に覚えている!!」
お、おう…。
カストロは子供に優しい父親なのだな。
村長としてはいまいちだが、父親としては満点だ。
「いいじゃないか。私たちもカストロのような家庭を築きたいね」
「そもそも結婚しないから安心しろ」
「フフッ。アランは照れ屋だぁ」
セレシアのくだらない冗談に付き合っている暇はない。
「早くかめらをかまえろ」
「はいはい」
こうして、カストロの踊りが始まった。
さすが家で一緒に踊っているだけある。ヴィクトリアちゃんの振り付けを完璧にまねている。
しかし。悲しかな。
踊っているのは幼女ではなくて、父親なのである。
おっさんとまではいわずとも、お兄さんなのである。
全然かわいくない。
みていて、なんだか悲しくなる光景ですらあった。
チャリン。
かめらから五ゴールドが落ちた。
「な、なぜだ……」
カストロががっくりと腰を落とす。
珍妙な踊りに価値があったのではなく、幼女が踊ったことに価値があったということか。
「ゆーちゅーばー」は変態か? エロはダメだが、変態を求めているのか?
俺の職業ではあるが、俺自身は決して変態ではないぞ!?
「お父様! 諦めないでください!!」
ヴィクトリアちゃんが立ち上がり、父親の肩に手を置いていた。
「一緒に踊りましょう! そうすれば力も二倍になります!!」
「ヴィクトリア」
熱血である。
親子の絆であった。
ヴィクトリアちゃんとカストロは一緒に踊り始めた。
息ピッタリである。さすが親子。
一人の時とは、また別な面白さがあった。
うん。これも悪くない。
セレシアの持っているかめらが震える。
金貨がじゃらじゃらと落ちてくる。すごい。
ヴィクトリアちゃん一人の時よりも多い。六千ゴールドくらいはある。
もちろん最高記録である。
もしかして複数人で踊った方が、金額が高くなるのか?
それとも……。
セレシアが手に持ったかめらを下ろす。
「なるほど、なるほど。一人より二人ってことだね。」
「お前も混ざってみるか?」
セレシアならば見た目もいい。
三人で踊ったら、もっと稼げる可能性は高い。
「いやいや、それどころではないよ」
大きく手を広げ、待機している村の住人を見渡す。
ニンマリと笑っている。
「どうだろう? こうなったら、村全体で踊ってみては?」
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