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第二十話 ダンス!ダンス!ダンス!

 ヴィクトリアちゃんは堂々と仁王立ちしている。

 もちろん5歳だから、この場の誰よりも背が低い。

 それなのに女王のように全てを見下ろしている。なんというか、ただ者ではない雰囲気が漂っている。


「ヴィ、ヴィクトリア! お前はステージに呼んでいないぞ。母さんと一緒にステージの外でみていなさい!」


 カストロは叱るが、ヴィクトリアちゃんは黙ってはいなかった。

 ビシッと父であるカストロに指を突きつける。

 

「お父様は甘い!!」


「うっ!?」


 

 つ、強い……。

 どちらかといえば気弱なカストロとは正反対な性格だ。

 母親似なのかもしれない。


「お父様が甘いから、村が危機になっているのです!! スローライフを目指すのはいいですが、村長の頭までスローではいけません!」


「うぐっ!?」


 五歳に娘にしかられる父親。気の毒ではある。

 でもちょっと気持ちが良かった。言っていることは間違っていないからだ。

 

 カストロも村の住民も、金を持ち逃げした連中をまるで責めない。

 それは優しさであり長所でもあるが、弱さでもある。

 辺境で一から村を作るというのは、弱さを抱えたままで達成できるほど簡単なことではない。



「村のためなら実の娘さえ利用する! それくらいの覚悟が必要なのです!!」


「うぐぐっ……」


 完全に父親を押している。

 ヴィクトリアちゃん、やはりただ者ではない。



「まあまあ、一度やらせてみてはどうだろうか? かめらの前で芸をするだけなら、危険もないわけだし」


 セレシアが仲裁を買って出てきた。

 確かに親子喧嘩を続けてもしょうがない。

 今回ばかりはセレシアの方が正論である。



 ヴィクトリアちゃんもそう思ったのだろうか。

 横目でセレシアをにらみつけている。ちょっと悔しそうである。


「頭がおかしいくせに、正しいことを言いますね」


 セレシアが固まる。

 見た目は五歳の子供イメージそのままである。かわいらしいという表現がぴったりくる。

 くりくりとした目と父親の茶色の髪が特徴的だ。


 それなのにとんでもない子供である。父親とは覚悟の量が違う。



「プッ」


 思わず吹き出してしまった。

 セリシアがやり込められるのは珍しい。

 それにあの顔。笑える。



「あなたもあなたです!! もっと村に対して責任を持ってください!! せっかく良い職業を持ったのに、もったいないとは思わないんですか!?」


「は、はい!」


 返す刀で俺も斬られてしまった。

 人が幼女に怒られるのをみるのは笑える。

 だがいざ自分が怒られると、なんというか特別こたえる。


 さっきセレシアが怒られるのをみて笑ったこと、あとで謝ろう。





「ヴィクトリア、踊ります!」


 ついにヴィクトリアちゃんの芸が披露される。


 踊りは貴族社会では子供に教えられることはない。

 カストロが属していたであろう中流家庭ではたまに聞く。

 ヴィクトリアちゃんも師匠から踊りの習っていたのだと思ったのだが。


 カストロの焦った表情をみると、どうも違うらしい。

 学者の家庭では踊りは習わせたりはしないか。

 そうなると……。




 踊りが始まっていた。



 ヴィクトリアちゃんが手足を動かす。



 うーん。



 なんとも珍妙な踊り。




 そもそも音楽がないのがきつい。

 たぶん完全に我流なのだろう。ただ手足をバタつかせているだけにみえる。

 そもそも踊り……と呼べるのか。


 会場もしーんと静まり返ってしまった。



 それでもヴィクトリアちゃんは踊り続ける。

 どこまでも一生懸命である。




「おい、やめさせた方がいいんじゃないのか?」


 隣に座るセレシアにささやく。

 これ以上は、ヴィクトリアちゃんがかわいそうだ。


「やめさせるなんてもったいないよ。最後までやらせよう」


 もったいない?

 俺からみると、痛ましいだけだ。

 しかし多少は芸を知っているセレシアからみると、見所があるのか?


 それともさっきやり込められた復讐がしたいだけか。



 

 ヴィクトリアちゃんの踊りが終わったようだ。

 まばらな拍手が起きた。俺も拍手する。

 これで終わりだ。今までの傾向からいって、五十ゴールドくらいか。



 そう思っていたのだが。



 セレシアの持っているかめらが震えだす。

 かめらの下から金貨がじゃらじゃらと落ちてきた。


「な!?」


 おそらく五千ゴールドはあるだろう。もちろん今までの最高記録である。

 これならば、あと二日で五十万ゴールドも夢ではないかもしれん。

 ヴィクトリアちゃんの踊りが「ゆーちゅーばー」受けたのか。


 

 あの珍妙な踊りが?



「うーむ。なるほど。「ゆーちゅーばー」には幼女が受けるんだね」


 セレシアが満足そうにうなずく。



 よ、幼女だと!?

 それでいいのか「ゆーちゅーばー」。

 エロはダメで、幼女はいいのか。おかしいだろ。



 

 ヴィクトリアちゃんは両手を天に突き出した。

 勝利のポーズである。



 俺の混乱など、一切関係なく。


 今、村の救世主が誕生した。


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どうかよろしくお願いします。

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