第二話 冒険者学園の問題児 セレシア
次の日。
俺はすでに卒業した冒険者学園を訪れていた。
王都の冒険者学園である。
この国では最大の規模を誇っている学園だ。活気がすごい。今も数百人の冒険者の卵が基本スキルを学んでいる。
見上げるほどに大きな建物がそびえたっている。
建物に向かって歩き出す。
訪問の目的は新しいパーティーを紹介してもらうことにある。
低ランク冒険者のうちは、冒険者ギルドによって強制的にパーティーが決められる。
冒険者の中には新人をだますような悪質な人間もいる。ある程度冒険者という仕事に慣れるまでは、新人同士でパーティーを組むことが義務づけられているのだ。
普通なら、この段階でパーティーのメンバーを追放するなど許されることではない。
それだけヒューイの野郎が特別なのだった。千年に一度といわれる職業「勇者」。冒険者ギルドからも特別扱いされている。
くそっ!
ヒューイめ。思い出すだけで腹が立ってくる。
絶対に許さんぞ。
「あっ! アラン先輩!」
建物の手前で、顔見知りの後輩が声をかけてきた。
たしか何度か基本スキルをおぼえるのを手伝ったことがある。
基本スキルは誰でもおぼえることができるが、それでも向き不向きは確かにある。
この後輩のようにスキルをおぼえるのに時間がかかる人間もいる。
どうも昔からそういった人間を捨てておけない。ついつい手助けしてしまう。
良くいえば、面倒見がいい。
悪くいえば、余計なことばかりしている。
我ながら損な性格をしているとは思う。
「あれ? どうして冒険者学園にいるのですか。卒業したはずでは?」
「ああ、それはな……」
答え終わる前に、後輩は連れ立っていた仲間に引っ張られていく。
そのまま離れたところでごにょごにょと説教を食らっている。
しばらく時間がたち、困った表情をした後輩が戻ってきた。
「は、はは。すいません。僕たち、これから基本スキルの授業があるので失礼します。えっと、アラン先輩もがんばってくださいね」
そそくさと仲間と一緒に去っていく。
触れてはいけないものに触れてしまったといったような動きである。
はあ。
どうやら俺の職業が「ゆーちゅーばー」というのが皆に知られているらしい。それに加えて昨日の夜に勇者パーティーを追放されたことも。
職業を与えられる前は、親切な先輩として人気であった。それが今やこのありさまである。
周囲の生徒たちも誰も目を合わそうとしない。
将来性のない職業を与えられた冒険者など、関わるだけ損だということか。
まあいい。
ヒューイごと全員見返せばいいだけの話だ。
この学園で俺に目をかけてくれた先生がいる。
学園で最も信頼している人間。きっと先生ならそっけない態度は取らないに違いない。
ギルドの指示を受ける前に、先生にこれからの身の振り方を相談しよう。
部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
部屋の中から落ち着いた声がする。
卒業からそれほど時間がたっていないのに、なつかしく感じる。
この声にどれだけ助けられたことか。
部屋の中に入ると、先生がいつもの温和な表情で出迎えてくれた。
良かった。俺のことをやっかいものだとは思ってはいないようだ。
「アラン君か。そろそろ来る頃だと思っていたよ。まあ、座りたまえ」
先生が温かい飲み物を出してくれる。
一口すすると、甘い風味が広がっていく。
「君が今どういう状態なのか、だいたいは把握しているつもりだ。昨日パーティーを追放されたことを含めてね」
先生が両手を組む。
悲しげな表情。この学園の中で誰よりも俺の将来に期待してくれていた。
授けられた職業の種類は運でしかないとはいえ、期待を裏切ってしまった。胸が痛む。
「本当はね。教師として冒険者を諦めた方がいいとアドバイスするべきなのだろう。これから冒険者として生きるなら、茨の道を歩むことになる」
俺も馬鹿ではない。
へんてこな職業を持った冒険者は強くなれない。高ランクスキルが使えないからだ。
将来性のない冒険者はギルドから冷遇される。
「それでも俺はヒューイたちを見返したいです。このまま引き下がっては、ただの負け犬になってしまいます」
「君ならば、そう言うだろうな。君は勇気のある人間だから」
先生が苦笑する。
冒険者学園に入学して以来の付き合いである。
先生もあきらめが悪いことをよく知っている。
「だが今年は特に状況が悪い」
「辺境に追放される以外にもさらに悪いことが?」
冒険者がはじめに仕事をはじめる場所も冒険者ギルドが決める。
このまま冒険者を続けるならば、辺境の地からのスタートとなるだろう。
それはすでに覚悟している。
「ああ、この国で君のような使い道のない職業を授かった人間が四人いる。おそらく君はその四人と強制的にパーティーを組まされるわけだが……」
「なんだ。一人でスタートするよりは、ずっと良い状況ではないですか」
最悪、一人で冒険者をスタートすることも予想していた。
冒険者学園からパーティーを紹介してもらえない可能性。
それと比べれば変な職業だろうが、四人でパーティーを組めるというのはありがたいことだ。
「この学園には君の他にもう一人だけ使い道のない職業を授かった生徒がいる。その…な。…その人間が…とても問題があってだな……」
ガチャリ
扉が開き、女が一人部屋に入ってきた。
輝くような金髪。整った顔立ち。
どこか気品の漂う雰囲気。
……うっ。
実際にみたのは始めてだが、俺はこの女を知っている。
冒険者学園で一番の変人。最高の美人だが、絶対にかかわってはいけないと言われている生徒。
セレシアという名の女では!?
「ふむ。君がアランだね」
セレシアは俺をみると、優雅な動作で首をかしげる。
そして、言った。
「一つ聞きたいのだが……。私は君を愛しているのかい?」
…………。
いや、そんなの知らん。
初対面だぞ。
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