第十九話 ヴィクトリアちゃん(五歳)
次の日。
領主に五十万ゴールドを払わなくてはならない日まで、あと二日。
今日も村の中心に皆が集まっていた。
村長であるカストロが叫ぶ。
普段の服ではなく、舞踏会にでるような高価な服を着ている。
気合十分である。空回りな気もするが。
「えー、皆さん。村人オーディションの会場へようこそ!!」
「うおおおおおおお!!」
村の住民がそれに答えて歓声を上げる。熱気がすごい。
妙にノリノリである。全ての人間がノリノリである。
俺の職業「ゆーちゅーばー」は送る風景によって、稼げる金額が異なる。
昨日の夜住民たちをいろいろと議論した。その結果、個人の芸によって金を稼ぐことになったのだが。
村の危機なのだから必死になるのは理解できる。
もちろん俺も協力したいと思っている。
しかしそれにしたって、テンション高すぎませんかね?
カストロが立っている場所は、一段高く土が盛られている。
そこで住民の芸が披露されることになっているらしい。
俺とセレシアはステージの隅っこに並んで座っている。
「今日はアラン君とセレシア君に審査員をつとめていただきます!」
「わあああああああああ!!」
審査員とは、いったい。
自分の職業ではあるが、俺は「ゆーちゅーばー」には全然くわしくないぞ。
これまでの時間、肉体労働で手一杯だったのだ。
「いやぁ、楽しみだねぇ。どんな芸がみられることか」
セリシアは手にかめらを持っている。
今日はかめらを持って住人をとる役に任命されているのだ。
「意外だな。お前も芸をする側に行くと思っていたのだが」
「私も落ちぶれているとはいえ貴族の端くれなのだから、一通りの芸はできるよ。でも昨日恥をさらしちゃったからなぁ。今回は皆に手柄をゆずるさ」
昨日セレシアは「ゆーちゅーばー」にエロを持ち込もうとして自爆した。
地面に倒れた姿は潰れたカエルのようであった。
「でもまあ、アランが望むのなら芸をすることもいとわないよ。私が本気を出せば、五十万ゴールドなんてすぐさ」
また適当なことを言っているな。
それが出来るならば、とっくに村の危機は解消されていただろうに。
セレシアが身を寄せてくる。
それを手で防ぐ。うぜぇ。
「アランだって、芸の一つや二つできるだろ?」
「できると思うか?」
子供のころから冒険者になるために努力してきた。
芸をやろうなどとは思ったことすらない。
それなのに辺境の村で、芸の審査員をやっている。人生何が起きるかわからないものだ。
「さあ、一人目の挑戦者の入場です!」
いつの間にか審査が始まっていたようだ。
とはいっても、俺がやることなど一つもないのだが。
審査とは名ばかりで、ただみているだけである。
中年の男性がステージに上がってくる。
「私は王都で建築の研究をしておりました! 最新の建築方法を皆さんにレクチャーしましょう!!」
拍手が巻き起こる。
この村には学者が多い。学者には受ける芸なのだろう。
……。
冒険者にとっては、非常に退屈な時間であった。
結果。
五ゴールド。
中年の男性はしょんぼりとステージを降りていく。
その背中には悲哀がただよっていた。
「さ、さあ! 次の挑戦者の登場です!!」
若干引きつった表情でカストロが叫ぶ。
それから次々と村人が挑戦したが、全員十ゴールド以下であった。
学者たちは自分の研究の成果を発表したがり、それが「ゆーちゅーばー」では受けないのだ。
正直、学者ではない俺も退屈に感じてしまっていた。
セレシアもズレていたが、この村の住人もズレている。
正解はどこにあるのか。うーむ。わからん。
熟練の猟師のガストンもステージに上がってきた。
本当に村人全員が参加している。あまり人前に出ないガストンも参加するとは意外だった。
おお。この男ならば期待できるかもしれん。
猟師は芸としても使えるような技術を持っている。変なものを食いださないかだけ心配ではあるが。
ガストンは弓を取り出し、小さな的に向かって矢を放った。
百発百中。
素晴らしい。
職業とスキルがあるとはいえ、俺よりもはるかに上手い。
いつかコツを教えて欲しいくらいだ。
それなのに。
結果。五十ゴールド。
「なぜだ!?」
思わず椅子から立ち上がる。ガストンの弓は芸としても一流だったはずだ。
あんな小さな的に当てられる人間は、めったにいない。
現に観客からも、今までで一番の拍手が起きていた。
「彼の場合は見た目かな?」
セレシアが訳知り顔でうなずく。
「み、見た目だと!?」
確かにガストンは初老の男性で見た目はよくはない。
森の中で暮らしているから、おしゃれとも無縁だ。むさ苦しいと表現できる容姿をしている。
しかし、それにしても。
「ひどくないか? あんなにがんばっていたのに」
「私に言われても困るな。ただの「ゆーちゅーばー」の推測だし、君の職業だし」
ガストンがしょんぼりとステージから退場していく。
かける言葉が見つからない。世の中、無情である。
「さ、最後の一人となってしまいました……。み、皆さん、ご期待ください」
最初はあれほど元気だったカストロも、もはやボロボロになってしまっている。
数百組が芸をしたが、誰も百ゴールドにさえ到達できなかったのだ。
所詮は素人、でしかなかったのか。
俺からみても面白くない芸が多かったのは否めない。
てくてくと小さな女の子がステージに現れた。
「ヴィクトリア!?」
カストロが悲鳴に似た声を上げる。
あの女の子はカストロの娘のヴィクトリアちゃんだ。
まだ五歳だったはず。なぜステージに!?
「お父様。わたしも村の危機に立ち向かいます」
五歳なのに実に堂々とした立ち姿であった。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




