第十七話 「ゆーちゅーばー」の研究
「アランの職業「ゆーちゅーばー」なら、三日で五十万ゴールド稼げるよ。私が保証する」
「無理に決まっているだろ」
セレシアは俺の職業を使って、この危機を乗り越えるつもりらしい。
だが忘れてないか? 「ゆーちゅーばー」で得られるのは小銭だけだということを。
かめらで風景をとってもせいぜい十ゴールド。歴代最高でもセレシア自身をとった五百ゴールドだ。五十万ゴールドには、はるかに遠い。
期限は三日。圧倒的に時間も不足している。
「はたしてそうだろうかね? もはや私は君の職業について、君以上にくわしいぞ」
セリシアが顔を寄せてくる。うぜぇ。
こっちは毎日毎日、肉体労働で忙しかったんだよ。
「ふん、そんなことは知っている。「ゆーちゅーばー」は、俺自身が近くにいないと発動しないからな」
毎夜、たき火の前でかめらをいじっているセレシアをみてきた。
よくもまあ、飽きないものだと逆に感心させられる。
そのおかげで「ゆーちゅーばー」の欠点をさらに一つ発見してしまった。
「ゆーちゅーばー」は同じ動画を送っていると、だんだんと値段が落ちてくるのだ。
つまりセレシアの動画が五百ゴールドになっても、送り続けると二百五十ゴールドに金額が落ちる。
あいかわらず、欠点ばかりの役に立たない職業である。
大金など得られそうにない。
「君のことは何でも知りたいのさ」
「馬鹿を言うな」
もしかしたら、「ゆーちゅーばー」を評価しているのは、この世界でセレシアだけかもしれない。
それに俺は感謝するべきなのだろうか。
「え!? この村を救う策があるのか!?」
村長であるカストロが食いついてくる。
まあ、カストロとしてはこの話に食いつかざるを得ないだろう。村の存亡の危機に無策なのだから。
「ありますとも。アランがこの村を救ってくれます!」
セレシア自信満々で胸をそらす。
そもそも自信満々じゃなかった時がない。
「アランの「ゆーちゅーばー」は、無限の可能性があると私はにらんでいるのです」
「ねぇよ」
そんな可能性があるならば、とっくに役に立っていたはずだ。
元パーティーの「勇者」なんて、授かった瞬間から戦闘能力が上がっていたぞ。
「フフッ。アランはもっと自分に自信を持ちなよ」
お前はもっと慎重に生きろよ。
せっかく美しい容姿をしているのに。もったいない。
「私はね。アランのかめらで色々なものをとってきたんだ。その結果、ある結論に達した」
「そ、それはなんだ!? 早く教えてくれ!」
ガストンが大声で叫ぶ。
いい年をして、滅茶苦茶ノリノリじゃないか。
村長の威厳もあったもんじゃない。
「これは私の「ゆーちゅーばー」研究の成果なのだ。よく聞きなよ。確かに「ゆーちゅーばー」に普通の風景を送っては小銭しか得られない。だが、普通じゃないものを送れば大金が得られるはず」
「根拠はあんのか?」
「ん? それを今から試すんじゃないか」
おいおい。なんだそりゃ。
根拠なしかよ。
「しいていえば、勘だね。誰よりもかめらを使った人間だよ、私は」
勘かよ。
しかし、しかし……だ。
対案もなく、反対してもしょうがない。
実践あるのみ、それが冒険者の生き方だ。
他に策もないんだ。試してみるのも悪くはない。
「アラン。かめらを渡してくれないか?」
「それがいいが、何をとるつもりなんだ?」
かめらを渡しながら、セレシアに聞く。
ただの風景ならばこれまで通り小銭しか得られない。
となると、何をとれば五十万ゴールドが稼げるのか。
周囲を見渡しても、それほど珍しいものはない。作りかけの村の風景でしかない。
セレシアが不敵に笑う。
なんだろう。嫌な予感がする。
「それはねぇ……。エロだ!!」
「はぁぁぁぁ!? エロだと!?」
セレシアがかめらをひったくる。
「そうさ。私の経験と勘では、男より女、みためが美しいほど金額は高くなる。つまり「ゆーちゅーばー」で送る先の何者かは、かわいい女の子が好きな可能性が高い。エロなら大金を得られるはずだね」
「やめろ!! 馬鹿!」
セレシアの手を掴もうとするが、紙一重でかわされる。
「フフッ。全ては君のためさ。君の夢をかなえさせてあげたいのだよ」
セレシアがかめらを服の中に入れようとする。
本当にこの女やる気か。馬鹿だとは思っていたがここまで馬鹿とは。
そんなことで大金を得ても、俺が喜ぶと思っているのか。
その瞬間。
何もない空中から、大きな鉄の鍋が降ってきた。
「あ」
俺とカストロから意味のない言葉がもれた。
ゴー―――ン
鉄の鍋はセレシアの頭に命中する。
狙いすましたように完璧な軌道であった。
「うぐっ!?」
ばったりとセレシアが倒れる。
つぶれたカエルのようになってしまった。
「おい! 大丈夫か!?」
セレシアを揺さぶるが倒れたまま起き上がらない。完全に意識を失ってしまったようだ。
うーん。
自業自得という気もしないではい。
かめらの黒い表面に文字が浮かび上がる。
<エロは禁止です。子供にもみせられるような動画をお願いします>
だってさ、セレシアよ。
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