第十六話 絶体絶命の危機
「最初はですねぇ。この地方の女神の名前にしようとしていたんだ。この地方の人たちに受け入れてもらえるかなと思ってね。ところが王様の名前にするべきと主張する一派が現れてきて」
「は、はぁ」
うーん。
カストロの言っている意味が、まったくわからん。
この村の名前なんてどうでもいいだろ。喧嘩して村を出ていくほどのことか?
「それからはもう、色んな案を持ち寄る住人で収拾がつかない有様になってしまった。最終的には喧嘩別れしてしまうことになって」
「フフッ。なんとも学者らしいじゃないか」
村の危機だというのに、セリシアはほほえんでいる。
危機感のない女である。
確かに今日、明日には金は必要ない。そもそも現在は商人が一人もこの村に来ないのだ。使い道がない。
だが、この村で調達できないものは数多い。金がなければそれらを買えなくなる。その金が一部の住人に持ち逃げされてしまったのだ。危機といわずに、他になんといおうか。
俺でも理解できるのだ。セレシアにわからぬはずがない。
「ハハッ。確かにそうですね。歴史に名を残すようなことがらには、学者はすごく頑固なんですよねぇ」
なぜがカストロも困ったように笑う。
おい、お前はこの村の村長だろ。笑っている場合じゃ。
いくらなんでものん気すぎじゃないか?
議論している住民から聞こえてくる内容は、脱走のことじゃない。
今もなお村の名前について激しく議論している。それでいいのか学者たち。
あ、もしかして。
「カストロさん。脱走に対する策があるんですか?」
それならばこの態度も納得できる。
脱走者を説得するあてがあるとか、金策の方法を思いついているとか。
ところが、そのとたんカストロが目にみえてがっくりと落ち込んだ。
地面に両手をつく。一瞬にして、生気が失われてしまった。
あっ…。
ないのかよ。
「何も思いつかない。お手上げだ」
うーん。
お手上げか。解決が難しいのはわかる。
森の中だ、脱走者をみつけるのも難しい。仮にみつけても、村に戻るように説得できるかどうかわからない。金を持ち逃げしているのだ、ほとんど不可能だろう。暴力を使えば、スローライフには戻れなくなる。
金策も難しい。一番近い村でも二週間もかかるのだ。金を稼ぐ仕事はあるわけない。
あれ? 積んでないか?
俺の頭では、ここからよい策など思いつかない。
学者の集団でも思いつかないのに、俺が思いつくはずがない。
「あと三日で五十万ゴールドが必要なのに……」
「は!? どういうことですか!?」
思わずカストロにつめよる。
五十万ゴールドといえば大金である。王都の一食が約五百ゴールド程度。普通の家族ならば五十万ゴールドで三年は余裕で暮らせる。
それが三日後に必要? 聞いていないぞ。
というか、この村に五十万ゴールドなんて大金があったのか。せいぜい5万ゴールドくらいかと思っていた。
「実はこの森を開拓するにも、この辺りの領主に払う税金が必要だった。そのための金はあらかじめ用意していたのだが、昨日根こそぎなくなってしまった……」
なんてこった。
辺境かつ無人とはいえ、森の中を開拓させるのは無料とはいかなかったのだ。
この辺りの支配する領主は税金を要求していた。
五十万ゴールドという金額が高いのか、低いのかはわからない。政治などさっぱりだ。
「三日後に領主様の使者がくる。それまでに五十万ゴールドを用意しないと村は終わりだ」
金がなければ、いずれ村は崩壊すると考えていた。
ところが、崩壊の期限はもっと早かった。
村が崩壊すれば、成り上がりの夢も終わり。
まさしく絶体絶命の危機である。
「フフッ。大丈夫さ」
セレシアが不敵にほほえむ。
この場でなおも余裕があるのはセレシアだけだ。
「何が大丈夫なんだ。策でもあるのか?」
「ある。一発逆転のやつがね」
むむっ。
この状況で策があるだと!?
セレシアの「偏食家」では、この状況は打開できそうにない。
もちろん基本スキルや持っている技術でも。どうするつもりだ?
「君さ」
セレシアが俺を指さした。
「君の職業「ゆーちゅーばー」で五十万ゴールド稼げばいい」
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