第十五話 脱落者の発生
ガストンと共に行った森の奥の捜索が終わり、村へ帰ってきた。
すでに夕日が周囲を赤く染めあげている。
森の奥にはラージラビットの巣がいくつかあり、いずれは駆除しなければならないだろう。
熟練の猟師であるガストンならば巣があっても大丈夫であろう。だが村の一般人には極めて危険だ。
駆除が終わるまでは、森の奥は立ち入り禁止にするべきである。
「では、またな」
ガストンが森へと帰っていく。
熟練の猟師らしい広い背中。ガストンは村ではなく、森の中で暮らしている。数日ごとに大量の獲物を村に置いていく。
普段何を食べているのか。いや、想像したくはない。
セレリアと同様にモンスターを食べようとする人間が、まだこの世界にいたとは。
しかもよりにもよって、千人くらいしか存在しない辺境の村に。どんな確率だよ。
もう諦めた。
この村には変人しかいない。
せめて、俺だけはまともでいよう。
辺境の村に来てから10日ほどがたち、村は当初の原っぱだけではなくなっていた。
地面に無造作に生えていた草はきれいに刈り取られ、建物もいくつか立っている。
とはいえ、普通の村の姿にはまだまだ遠い。
知識だけがあっても、決定的に労働力が不足しているのである。
とりあえず今日の仕事は終わった。
俺たちの家が建つ予定の場所へ帰ろう。他の住民と同じように草が積まれているだけだが、一応は俺たちの家だ。帰る場所は他にはない。
歩き出す。
いたるところに荷物が野ざらしになっている。
必要なものはいくらでもあるのに、もっとも多い荷物は書物である。なんとも学者らしい選択だ。
家に到着してしたが、セレシアは見当たらない。
ふむ、どこへ行ったのか。川に水浴びにでも出たのだろうか。
ずっとセレシアと一緒に暮らしているが、あいつはあいつなりによくやっている。
ここでの生活は王都のものとは天と地の差がある。ベッドもなく草の上で寝るなど、セレシアのゆな一般人には苦痛なはずだ。
それなのに文句ひとつ言わない。それどころかいつも楽しそうにしている。
俺と一緒にいるだけ幸せだなんて言葉を信じているわけではないが……。
森の捜索で、おいしい果物を取れる場所をいくつか発見した。
今度セレシアに持ってきてやろう。
その時、セレシアがこっちに近づいてくるのがみえた。
輝くような金髪。女性にしては高い身長。遠くからでもとても目立つ。
俺を見つけるとぱっと笑顔になる。
「やあ。遅かったね」
今日もなんだか楽しそうだ。少しだけほっとしている自分がいる。
うーん。
ガストンのことを告げるべきか。
告げたら、大喜びでモンスター食を研究するだろう。
そのモンスターを狩るのは俺の役目だ。
面倒くさすぎる。
他にいくらでもやることがあるのに、変人どもの遊びに付き合う時間はない。
しかしセレシアも馬鹿じゃない。
いずれはガストンのことを知るに違いない。
そうなると……。
「ねぇアラン、知っているかい? 今、村が大変なことになっているらしいよ。村が潰れちゃうかもしれないんだってさ」
なんだと!
村が潰れる!?
村の中心に村人たちが集まっている。その場の全員が激しく議論し合っている。
村長であるカストロが必死になだめようとするも、火に油を注いでいるようにみえる。
この村の住人は変人だが優しい人間がほとんどだ。
それなのにこれほど怒っているとは。本当に大変なことがあったに違いない。
「セリシア。何が起こっているのだ?」
「ん? 村から脱走者が出ちゃって、お金を持ち逃げされたみたいだよ」
「は!?」
それが本当なら、この村の存続さえ危うくなる危機。
まだ生活基盤さえ出来ていない。いざという時のために金は絶対に必要。病人やけが人がでた時に対処しなくてはならない時が必ずくる。
また、精神的にも余裕がなくなるのも大打撃。このまま村全体が崩壊してもおかしくはない。
しかし、その一方で来るべきものが来たとも思う。
やはり王都の学者には、辺境での暮らしは苦しすぎたのか。
約千人もいるのだ。脱落者が出てもおかしくはない。
「おお! ギネス君!!」
カストロが走り寄ってくる。
ショックを受けているのだろう。顔色が真っ青だ。
「50人ほどが全財産とともに村を出てしまったのだ。僕の責任だ。すまない」
「そうですか」
今回ばかりは俺の力ではどうしようもない。
俺は冒険者にすぎない。冒険者には大金を稼ぐ能力も、これほどの人数をまとめる力もない。
「何が不満で、村から脱走したのですか? 食べのもの? それともベッドがないことですか?」
原因がわかれば、脱走した人間も戻ってきてくるかもしれない。
それが無理でも、さらなる脱走者を防げる。
「いや、村の名前を決めようとしてね。その議論で喧嘩になって皆が出ていってしまったのだ」
……。
なんでだよ。
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