第十四話 うさぎ狩り
モンスターとは人間に害を与える生物である。
一言で害とまとめられていても、実際は色々な種類がある。
例えば直接人間に危害を与えようとするモンスター。以前戦ったゴブリンなどだ。
他には人間の作った畑を荒らすのが好きなモンスターもいる。
その代表例が、目の前にいるラージラビットだ。
畑を荒らすのが好きなのではあるが、ゴブリンほどには臆病ではない。
人間に発見されたら、襲ってくる。
ラージラビットが突進してくる。
ひたいの角に急所を刺されたら、死ぬ可能性さえある。
そういう意味ではゴブリンよりも、さらに危険なモンスターだ。
とはいえいくら速度が早くとも、直線的な動きである。
冒険者ならば、かわすのは難しくない。
ラージラビットもモンスターとしては弱い部類に入る。
突進をかわす。かわしざまに剣を抜き放つ。
骨が切断される感触と共に、ラージラビットの頭が飛ぶ。
頭を切断されては、普通のモンスターは死ぬしかない。
「ふぅ」
なんとかなった。
この村にきて以来、戦いらしい戦いをしていなかった。
それでも思い通りに体が動いた。
数が多ければともかく、たった一匹のラージラビットに遅れをとるわけにはいかない。
ラージラビットは人間を傷つけるというよりも、畑を荒らすのが脅威のモンスターである。ゆえに街や村での討伐依頼は一番多い。このモンスターを倒せれば、底辺の冒険者として食っていける。
ラージラビットが一匹でもいるということは、他にもたくさん近くにひそんでいる。
これからも討伐し続けねばならないだろう。長い付き合いになりそうだ。
「見事だな」
猟師のガストンがラージラビットの死体をみながらつぶやいた。
「あなたも、これくらいはできるだろ?」
先ほどみせた弓の腕前は素晴らしいものだった。
弱いモンスターならばそれで十分に対処できるだろう。俺の戦いを観察したのだ。とてもよい趣味とは言えない。
俺を試す。そのために森の奥に誘った。
そう思ったのだが。
ガストンが唇をへの字に曲げた。
「どうして儂がモンスターと戦わなければならんのだ。儂は猟師。モンスターを倒すのはあんたらの仕事だ」
うーん。
一応、冒険者として尊重してくれているのかな?
「だが、モンスターの味には興味がある」
「えっ!?」
ガストンはラージラビットの死体をじっとみている。
みた目は大きなうさぎである。食べられるように感じるが、やはりモンスターはモンスター。
食べられない。
「モンスターを食べようする人間は過去にもいた。が、長く食べ続けるとほとんどが命を落とすことになった。毒なのか、それとも魔王の力なのか」
ま、まさか。
ガストンがわざわざ辺境にきた理由は。
「どうだろうか? モンスターの食べ方を教えてくれんかね?」
「お断りします」
この村にはまともな人間はいないのか。
変人しかいないじゃないか。
「なぜだ? 儂は世界中を回り、ありとあらゆる美食を味わってきた。まだモンスターだけは食べたことがないのだ。まだ見ぬ美食を求めて辺境まで来たが、君たちに会えたのは運命だ」
くっ。
セレシアを連れて来ればよかった。
セレシアなら変人同士、気が合うかもしれん。
「君たちが協力してくれれば、モンスター食は完成する。この村の売りになるかもしれんぞ?」
「絶対になりません」
誰も村を訪れなくなる。
それどころか邪教をまつっているとされて討伐されるぞ。
ああ。
全てを捨てて辺境にくるような人間は癖が強すぎる。
「頼む。この通りだ」
自分よりはるかに年上の人間に頭を下げられる。
こ、断りにくい。が、断らねばならぬ。
それにしてもなぜセレシアではなく、俺に?
セレシアの保護者だとでも思われているのだろうか。
心外にすぎる。
仮にこの話をセレシアに持っていったら、さらに調子づかせることになるだろう。
それだけは避けたい。今ですら手を焼いているのに。
モンスター食の研究?
悪夢以外の何物でもない。
「残念ですが、ご期待答えることはできません」
「そうか」
ガストンは目にみえてしょんぼりしてしまった。
しかし数々の変人に接してきた俺にはわかる。
ガストンは諦めない。ここで諦めるくらいなら、辺境まで来ない。
なんだか。
どっと疲れた。
この村にきてから肉体的な疲れよりも、精神的に疲れることが多い。
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