表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/70

第十三話 辺境の猟師

 この村は元学者とその家族がほとんどを占めている。

 それでも全員が全員、ひ弱なわけではない。

数は少ないものの、自然の中で仕事をしてきた人間もいることはいる。

  

 今日はその中の一人、猟師のガストンと森にきていた。

 正確な年齢は聞いていないが、初老の無口な男である。おしゃべりな人間が多い村では、あらゆる意味で異質だ。


 ここ数日で狩った獲物の量からして、猟師としての腕は素晴らしいものがある。


 


「すまんな。わざわざ来てもらって」


 先を進むガストンが背中越しに声をかけてきた。

 低く、かすれている。渋いという表現がよく似合う。



「いえ、森の奥を探索するのに冒険者は必要でしょう」


 村の近くには強いモンスターがいないことを確認している。

 しかし森の奥は違う。確認は終わっていない。不用意に踏み込むと取り返しのつかない事態になる可能性がある。



 ガストンは時々、森に仕掛けられた罠をチェックしている。

 獣用の罠。誤って人間がかからないような工夫もある。

 こういった技術は冒険者には存在しないものだ。猟師にしかない技術であろう。あるいは猟師のスキルを使っているのかもしれない。

 

 ガストンの職業は「猟師」である。神から与えられた職業にそのまま就いている。だからこそ、腕が人並みはずれているのだ。

 「ゆーちゅーばー」という変な職業を与えられた俺からすれば、とてもうらやましい。

 


「どうでしょう? 罠のかけ方を村の住民に教えてくれませんか? 狩りは無理でも罠をしかけるのは、素人でもできるかもしれません」


「ふん。いいだろう」


 最低限の言葉でガストンは承諾した。

 やはり無口な男である。まるで自然と一体化しているような安心感がある。


 なぜか村の住人はなんでもかんでも俺を頼りにしてくるが、いくらなんでも期待しすぎである。

 本来は俺ではなくガストンのような人間に教えをこうべきなのだ。食糧調達のプロなのだから。

 俺だけではモンスターから村を守りながら、約千人に知識を教えるなど荷が重すぎる。



 ふと、聞いてみたくなった。

 どうしてガストンは辺境に来たのだろうかと。


 これほどの腕ならばどこへ行っても歓迎されるだろう。

 スローライフがしたいわけでもなさそうだ。猟師にはギルドもなく、強制的に移住されられたわけでもない。

 ガストンには家族もいないらしい。たった一人で辺境にきている。



「ガストンさん。あなたはなぜ辺境へ?」


「……。どうしても言わなければならならんのか?」


「いえ、言いたくないのなら構いませんが」


 なにか特別な事情があるのだろう。俺には踏み込む権利などない。

 いかんな。いつの間にかセレシアの無神経が移ってしまったのか。



「あんたは若いのに、よくやっているよ」


 そう言って、ガストンはさっさと先に進んでいく。

 歩いているはずなのに音がしない。これもまた見事な技術であった。





 森の中をさらに進んでいく。だんだんと蒸し暑くなってくる。

 この辺りの木は王都のものよりも背が高い。俺でさえ名前も知らない植物もある。

 人の手が入っていないため、道もなく非常に歩きにくい。

 


 突然、ガストンの足が止まった。

 ある方向をじっと見つめている。


 俺も周囲を見渡すが、木々にさえぎられて視界が悪い。

 異常は感じられない。



「ガストンさん。なにか……」


「しっ」


 ガストンが唇に指を当て、静かにしろとのしぐさを送ってきた。

 背負っていた弓を取り出し、間髪入れずに矢を放つ。


 矢が放たれた方向から、獣の鳴き声が聞こえた。

 二人で歩み寄ると、一匹のうさぎが矢に貫かれていた。

 見事であった。弓の腕前では「狩人」にかなう職業は、数えるほどしかない。



 ガストンが小さく笑う。


「気配を感じる能力は冒険者よりも「狩人」の方が上らしいな」



 少しだけムッとする。

 確かに獣の気配を感じられなかったのは事実。

 ガストンが熟練の狩人であることも認める。

 それでも。



「俺は冒険者なりたてなのです。Sランク冒険者ならば、気配を感じられたでしょう」


 実際に会ったことはないが、Sランク以上の冒険者は人間を超えていると噂されている。

 俺も経験を重ねていずれはSランク冒険者になるつもりだ。

 この村にいる内に、気配を感じる能力も磨かねば。本当は住民にきのこの食べ方を教えている場合ではない。



「少し大人なげなかったかな。「狩人」スキルを使ったのは、反則であった」


 使い古された弓をみせる。


「この弓が百発百中なのもスキルがあってこそ。それがなければただの老いぼれにすぎぬ」


 ガストンは俺をなぐさめようとしてくれている。

 腹が立つ気持ちが一転して、情けない気分に変わる。

 Sランク冒険者がいくら強くとも、俺自身が強いわけではないのである。



 その時。

 森の奥に視線が吸い寄せられた。

 確たる気配を感じたわけではない。



 勘。

 モンスターがいるような気が。



「ん? どうした?」


 熟練の狩人であるガストンも感じ取れなかったらしい。

 



 森の奥の気配が大きくなる。ガサガサと音がしてくる。

 ここまでくれば誰でも気配に気づける。




 一匹の獣が姿をあらわす。

 いや獣ではない、モンスターだ。


 姿は先ほどのうさぎと似ているが、三倍くらいの大きさ。

 ひたいの真ん中に大きな角が生えている。


 ラージラビットと呼ばれるモンスターだ。

 


 ガストンが納得したようにうなずく。



「なるほど。獣は狩人、モンスターは冒険者というわけだな。では、お手並み拝見といこうか」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ