第十一話 学者多すぎ問題
辺境に到着して二日目。
村長のカストロは今後の予定をあらかじめ決めていた。
まずは屋根のある建物を作る。本格的な家ではなく、簡易的なものらしいが。
確かに現状では雨が降ったら大惨事になる。
荷物は野ざらしだし、雨に打たれれば人々の健康にも悪影響があるに違いない。
最初に雨をしのげる建物を作るという判断は間違っていない。
それを俺が手伝うのも文句はない。
この村の住人は約千人。そのうち男は半分。木を切り倒すような重労働に耐えられる男はさらにその半分。二百五十人しかいないのだ。
冒険者はモンスターと戦うのが仕事である。他の仕事を嫌がる冒険者も多い。とはいえ、それも普通の生活があってこそ。
ギルドさえ存在しない現状、冒険者のプライドにこだわっても仕方がない。
昨夜は徹夜だったが、それも問題ない。
冒険者学園ではもっと厳しい訓練を経験している。一日ぐらいの徹夜では、動けなくなったりはしない。結局モンスターの襲来もなかったし。
問題は。
「王都式の建物を建てるべきだ!」
「いや、この地方の方式を採用するべきだ!!」
「両方混ぜるべきだ!」
まだ木も斬っていないのに皆がもめている。誰も一歩も引こうとしない。朝から作業がまったく進んでいない。
村長のカストロは王都で学者をしていた。
集めた仲間も学者がほとんど。全員がとんでもなく理屈っぽいし、変なところにこだわりまくっている。議論ばかりで行動がはじまらない。
「建築家」、「生物学者」、「武器開発者」。神から授けられた職業も学者系が多い。
どれも立派な職業ではある。だが、今必要なのは実際に手を動かす人間だ。
知識ばかりあってもなぁ。
やれやれ。
どうしたものか。
さすがに一人で森の木を切り倒すのは大変だ。家を作るには大量の木が必要。
冒険者では柵を作るのが精一杯。木を切り倒すようなスキルも持ってないし、それ以上は専門家の領域だ。
もう日が高い。
仮の家の建築様式を決めるのに、どれだけ時間をかけているか。
学者というのは、なんとも困った人種だ。
こんな時、セレシアがいれば。
セレシアはまだ寝ている。もっと正確に言えば、筋肉痛で起き上がれなれない。
冒険者どころか、一般人としても貧弱にすぎる。
カストロは完璧な理論があると誇っていたけど、今のところは問題しかない。
困ったな。
「そうだ! アラン君に決めてもらおう!」
は?
「いいだろう! だが選ばれるのは王都式だがな!」
おいおい。
俺が建物の建築方式を決められるわけないだろう。
「無理ですよ。俺はただの冒険者ですから」
そもそも建築様式ってのが、何なのかわからん。
美しさについての教養も皆無。
この場にいる誰よりも年下だし、決められるわけない。
「いいや! ゴブリンを倒したときの君は素晴らしかった! 君が決めたことならば、皆が従うだろう」
たかがゴブリンを倒したくらいで、買いかぶりすぎだろ。
むしろ弱いモンスター程度ならば、いずれは自分達で対処してほしい。
冒険者は俺たちしかしない。圧倒的に人手が不足しているのだ。
いや、人手が不足しているのはこの村の何もかも……か。
もう、なんだか面倒になってきた。
仮の家の建築様式なんてどれでもいい。
さっさと作業をはじめたい。
計画や知恵も大切だが、結局は体を動かさないと村は発展しない。
「そうですね。とにかく今は屋根が必要なので、建築様式は後回しでどうでしょう?」
「なるほど! それは盲点だった!!」
「学者では思いつかない思考法だな」
なんでだ。ごく普通の意見だろ。
カストロもゴブリン鍋を食べようとしたし、学者というのは変人ばかりなのか。
というか、この村は変人ばかりなのではないか。
「そうだ! ここはアラン君に作業の指揮をとってもらったらどうだろう?」
「うむ。悪くないアイデアだ」
勝手に納得している。
普段ならば断わっている。が、今回ばかりは受けるしかない。
この人たちに任せていたら、完成には数年もの時間がかかるかも。
「わかりました。付いてきてください」
俺たちは森の方へ歩き出す。
しかし、何というか。
この人たちはスローライフをするために、この辺境にまで来たらしいけど。
学者ほどスローライフに向いていない人種もいないのではないか?
これから先が思いやられるな。
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