第一話 「ゆーちゅばー」アラン パーティーを追放される
「アラン。やっぱりお前とはパーティーを組めねぇよ。このパーティーを追放させてもらうわ」
パーティーのリーダー、ヒューイはそう言い放った。
それまでのなごやかな雰囲気が一変する。
冒険者学園を卒業し、明日から本格的な活動をはじめる。その前祝いの席でのこと。
思わず俺は問い返していた。
「な、なぜだ!?」
信じられない。メンバーとのきずなは、永遠に続くものだと思っていた。
幼いころ、共に魔王を倒そうと誓った。
冒険者学園に入り、スキルを勉強した。卒業をむかえ、ついに夢への第一歩が始まる。
そのはずだったのに。
パーティーを追放?
「なぜって……。わかるだろ? お前の職業が「ゆーちゅーばー」だからだよ」
「……ぐっ…」
ヒューイがメンバーたちを次々と指さしていく。
「「聖女」に、「剣聖」に、「賢者」。俺は千年に一度の職業ともいわれる「勇者」。どれも伝説の職業だ。お前も魔王を倒すのにふさわしいとは思うだろ。それに比べて、「ゆーちゅーばー」? ふざけんなよ」
仲間たちは気まずそうに目をそらす。
ヒューイのようにニヤついてはいないが、固い表情で無言のまま。
俺のパーティー追放を暗に認めているのだ。
「だが、だが! 職業は神から与えられるもの! 俺が選んだわけじゃない!!」
「んなことはわかってるさ。せめて「戦士」とか「僧侶」とかだったら、まだ使えたんだがなぁ。よりにもよって「ゆーちゅーばー」なんて意味不明の職業とは。こっちは本気で魔王を討伐するつもりなんだよ。足手まといはいらん」
ヒューイは手に持ったビールをぐびりと飲んだ。
冒険者になる前祝いということで、テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。
今となっては、それも喜劇の舞台装置でしかない。
「まだ「ゆーちゅーばー」がダメな職業と決まったわけじゃないだ! 前代未聞の職業なんだ。強いスキルをおぼえる可能性だって残っている」
この世界では基本スキルは、誰でもおぼえることができる。それよりも高度なスキルは職業によって、おぼえることができる種類は決められている。
「勇者」には勇者専用スキルが。「戦士」には戦士専用スキルが。
「ゆーちゅーばー」にはゆーちゅーばー専用スキルがある……はずである。
「そんな可能性あるわけないだろ。ま、へっぽこ職業でも冒険者の底辺ぐらいはできるかもな。悪く思うなよ。これも才能の差ってやつだ」
ヒューイは椅子から立ち上がると、酒場の出口へと歩きはじめた。
メンバーたちもそれに続く。俺の方についてくれる仲間は一人も存在しない。
「今日の支払いは俺が持ってやるよ。もう会うこともないだろう。ささやかな贈り物さ。ありがたく取っておきな」
高笑いをあげながら、ヒューイたちが酒場から出て行く。
ぱたんっと出口の扉が閉められた。
俺だけが、たった一人で残された。
悪い冗談だと思いたかった。
しかし、いくら待ってもヒューイたちは帰ってこない。
なんてことだ。
本当にパーティーを追放されたのか?
こうなると悟らざるを得ない。
奴らは本気で俺をパーティーから追放しやがった。
激しい怒りと悔しさが胸を染めていく。
「くそっ!!!!!!」
右の拳でテーブルを叩く。
ガシャンという音と共に、豪華な食事が派手に揺れる。酒がグラスからこぼれ、テーブルに広がっていく。
職業が「ゆーちゅーばー」だったのは俺の責任じゃない。
ヒューイが勇者なのを含めて、全てが運だ。
ぺっぽこ職業でも幼馴染のパーティーならば、受け入れてくれると信じていた。
それなのに、こうもあっさりと捨てられることになるとは。
冒険者になるための学園の日々が脳裏に浮かぶ。
何のために俺は努力してきたのだろう。
…………。
こうなったら。
「冒険者として成り上がって、奴らを見返してやる!!」
この屈辱を晴らすにはそれしかない。
先に魔王を倒してやる。そうすれば奴らは泣いて悔しがるだろう。
ぺっぽこ職業だろうがなんだろうが関係ない。
絶対に奴らは許さん。後で謝っても遅いからな。
心の中で憎しみが燃え盛る。
復讐がここからはじまるのだ。
目の前の皿にのせられている大きな肉にかぶりつく。
すごく美味い。めったに食べられない高い肉。
この前祝いのために奮発したからなぁ。
今夜の酒場が貸し切りで他に客がいないのは助かる。
こんな惨めな姿は誰にも見せたくはない。
手あたり次第、料理を平らげていく。
復讐をすると決めた以上、まずは体力をたくわえなければ。
「アラン。元気だせよ」
酒場のマスターが俺に声をかける。
この酒場はパーティー馴染みの店なので、マスターとも顔見知りなのである。
俺がパーティーから追放されたことに同情してくれているのだ。
だが。
「同情はいらない。それよりも……」
「それよりも?」
「この店で一番高い酒を出してくれ! 朝まで飲むぞ!!」
それを聞いたマスターがニヤリと笑う。
どうせ全部ヒューイのつけになるのだ。今夜は飲みまくってやる。
せいぜい送られてくる請求書の金額に驚くがいい。
すでに復讐が始まっているのだ。
絶対に冒険者として成り上がってやる。
目の前に運ばれてきた高い酒に俺は誓った。
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