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はるかな物語外伝 「幸せな時」  作者: 東久保 亜鈴
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第2話 コロッケカレー

春繁を会社に送り出した後、舞は初めて春繁と大学の食堂で食事をしたことを思い出していた。


「うーん、今日は、卵焼きとカレーとコロッケにしよう。」


舞は、午前中に、掃除や悠美の寝る布団を干し、早めに買い物に行き、いつ悠美が来てもいいように出かける用事を済ませておく。


お昼ごはんを済ませ、片付けを終わらし、一息ついていると、悠美がやってきた。


「舞ちゃん、ただいまー。」


悠美は、110㎝と小柄で背中まで延びた黒髪を三つ編みにして、白いブラウスに紺色のスカート、ランドセルを背負って、手には着替えの入った手提げ袋を持っていた。


「お帰り―、じゃないでしょ。

 こんにちは、おじゃまします、でしょ。

 悠美ったら。」


舞が呆れたように言うと、悠美は笑って答えた。


「いいでしょ。

 ここは、私の第2のお家なんだから。」


悠美は、ぱっちりした目が印象的な可愛らしい顔で、笑うと目が無くなると思えるほど、人懐こく、誰からも好かれる顔をしていた。


「まあ。

 で、そのランドセルは?」


いつもランドセルは家に置いて着替えと遊び道具の入った手提げ袋で来る悠美だったが、今日は、手提げ袋とランドセルを背負っていた。


「そうなの、舞ちゃん、聞いてよ。」


悠美は、口を尖らせながら舞に聞いて欲しそうな顔をする。


「なに?

 どうしたの?」


舞は、目の前の小さな従妹が大好きで、楽しそうに悠美の話を聞く。


「学校の先生が、最近クラスの書き取りの点数が悪いって、それで、山ほど漢字の書き取りの宿題を出したのよ。」


「それで、ランドセル?」


「うん。あとで机を貸してね。」


「いいわよ。」


悠美は小さい頃から舞のことを姉の様に慕っていた。


舞も、そんな悠美のことを妹の様に可愛がっていた。


「悠美、お腹は?」


「うん、家でお昼ごはんは食べてきたんだ。」


「プリン、買っておいたのだけど、食べる?」


「うん!」


悠美はうれしそうな顔をして頷いた。


「じゃあ、手を洗ってきなさい。」


「はーい。」


舞と悠美はテーブルを囲んでプリンを食べる。


「わあ、このプリン、美味しい。」


悠美が目を輝かせて言った。


「そうでしょ、駅近くのデパートに美味しいケーキ屋さんがあってね。

 そこで、少し高かったけど、奮発したのよ。」


「こんなおいしいプリン、初めて。」


悠美の幸せそうな顔を見て、舞も思わず微笑んでいた。


「今日は、繁おじちゃん、何時ごろ帰ってくるの?」


悠美はプリンを食べる手を止めて、舞に尋ねた。


「そうね、何もなければ夕方かしら。」


「じゃあ、それまでに、宿題を終わらせなくっちゃ。」


「そうよ。

 その後、今晩は、悠美の好きな卵焼きとカレー、それと、コロッケにしようと思って。

 だから、コロッケを丸めるの手伝ってね。」


「え?コロッケ?

 私、コロッケも大好き。

 しかも、舞ちゃんのお手製のコロッケなの?

 うれしいな。

 たくさん、手伝うね。」


「ふふふ、悠美は、嫌いなものないのかしらね。」


「えー、嫌いなのあるよー。

 ピーマンでしょ、セロリでしょ、あとね…。」


「はいはい、じゃあ、早く宿題片づけちゃいなさいね。」


「はーい。」


悠美は、残りのプリンを美味しそうに平らげ、片づけを手伝ってから、机の上に書き取りの道具を並べて、宿題を始めた。


「この娘は、本当に手が掛からないいい子ね。

 一体、誰に似たのかしら。」


舞は台所から一生懸命宿題をしている悠美を眺め、感心した様に呟いた。



「ねえ、舞ちゃん。」


「ん?

 なに?」


「舞ちゃんて、体がそんなに細いのに、胸とか大きいね。」


「え?

 なに、いきなり。」


舞は、悠美の口から出た突飛な話に面食らっていた。


「私の胸なんかぺったんこ。

 私も、舞ちゃんみたいにスタイル良くなるかなぁ。」


舞は、どちらかというと細身の体形でワンピースやスカートではなく、ラフなチェックのブラウスとぴっちりしたGパンが好きだった。


「まっ。

 おませさんね。

 小学1年生でボインボインだとおかしいでしょ。」


「だって、本当に舞ちゃんて、スタイルがよくてカッコいいんだもん。

 脚は細くて長いでしょ。

 ウェストなんてくびれているし、この前テレビで見たモデルさんみたい。」


舞は、思わず吹き出していた。


「こらこら、そんなにお世辞言って、何がほしいのかな?」


「そんなんじゃないもん。」


悠美は少し拗ねて見せた。


「悠美。」


舞は悠美を手招きし、自分の膝に後ろ向きで座らせ、後ろから優しく抱きしめた。


ほぁっとした舞の香りと背中に触れている舞の胸の柔らかさで悠美は気持ちよさそうな顔をした。


「何言ってるのよ。

 悠美も大きくなったら、きっと私より美人になるわよ。」


「そうかな。」


「そうよ。

 あと、私が持っていなくてうらやましいのを悠美は持っているし。」


「え?

 なに?」


悠美は振り向いて聞いた。


「それはね、この真っ直ぐな黒髪。

 長くてしなやかで、触り心地が良くて。

 私なんて、くせっ毛だからこんなに伸ばせないわ。」


悠美の髪は、肩の下あたりまで伸びていた。


「ほんと、枝毛もなく、きれいね。」


舞に、髪を撫でられ、悠美はうれしそうな顔をした。


「私、舞ちゃんに髪を撫でられるの、大好き。

 でも、舞ちゃんも、その髪型、かっこいいじゃない。」


舞は、少し長めのウルフカットだった。


「そう?

 でもね、繁さん、長い髪の女の人が好きなのよ。

 それも、悠美みたいな長い真っ直ぐな髪が。」


「え?

 そうなの?」


「私もほんとうはショートにしたいんだけど、これ以上短くすると、繁さん、泣いちゃうから。」


「ふーん、私、舞ちゃんみたいな髪型にしてみたいなって思っていたのに。」


「あーら、たいへんだ。

 そんなことしたら、繁ちゃん、号泣ものよ。」


「ごうきゅう?

 ごうきゅうってなに?」


「え?

 号泣って、目から涙が、こう『ぴゅー』って吹き出すほど大泣きするっていうことよ。」


舞は、そういうと両目に手を当てて大げさに、左右に伸ばして見せた。


「そんなに、涙が出るの?」


「そうよー。

 『ぴゅー』ってね。」


「ど『ぴゅー』って?」


そう言って、二人は笑い転げていた。


「でも、繁おじちゃん背が高いよね。」


「そう。

 170㎝の後半だからね。

 悠美は身長いくつ?」


「この前の身体検査じゃ、110㎝。」


「じゃあ、60㎝以上離れているもんね。」


「この物差し、2つ分かぁ。」


そう言って悠美はランドセルに差していた30cmの物差しを指さした。


「舞ちゃんは?」


「私?

 私は、160㎝くらいかな。」


「うわ、でっかい。」


「こら、でっかいとは何よ。

 ゴジラじゃないんだからね。」


そう言って舞は悠美を後ろから羽交い絞めし、その手をクロスさせ悠美の脇をくすぐる。


「きゃあ、ごめんなさい。」


悠美は、くすぐったがりながら、舞の腕の中で悶えていた。


「で、でも、繁おじちゃんも結構細いよね。」


悠美は息を切らしながら、懸命に話題を変えた。


「そうね。

 でも、学生の時から、すごく食べるのよ。

 それなのに、どうして太らないんだろう。」


「それは、舞ちゃんも一緒じゃない。

 二人とも、よく食べてよくお酒を飲んで……。」


「よく笑ってね。」


そう言って、舞はまた悠美をくすぐりまくった。


「きゃはははは!

 か、勘弁しちくれー。」


悠美の笑い声と、舞の笑い声が部屋中にこだましていた。



夕方、未だ明るい時間に春繁は家に帰ってきた。


「ただいま。」


そう言って家の中に入ると「おかえりー」と、舞と元気な悠美が出迎える。


「お、悠美、来たね。

 いらっしゃい。」


「おじゃましてまーす。」


悠美はそういうと、ちょこんと頭を下げた。


「あら?

 さっき家に来た時は、『ただいまー』って飛び込んできたのは誰だったかしら?」


舞は、笑いながら言った。


「もう、舞ちゃんたら。

 いいでしょ。」


悠美は、ちょっと怒ったふりをした。


「繁おじちゃん、あのね、いま、舞ちゃんのお手伝いで、コロッケを丸めてるの。」


「え?

 今日はコロッケか?」


「そうよ、卵焼きとカレーとコロッケよ。

 コロッケカレー。」


舞が悪戯っぽく言った。


ネクタイを外しながら春繁もすぐにピンと来たように笑った。


「コロッケカレーか、懐かしいな。」


「そうでしょ、それに今日は、悠美が手伝ってくれているのだから、余計に美味しいわよ。」


「そうか、じゃあ、尚更、楽しみだな。」


「えへへへ。」


悠美は、はにかんで笑った。


「じゃあ、僕は、お風呂に入って汗を流すね。

 さっぱりしてから、美味しいご飯にありつこうっと。」


「ええ。

 お風呂、沸いているからね。」


「サンキュー、奥様。」


「どういたしまして。」


春繁と舞の楽しそうなやり取りを、悠美も楽しそうに聞いていた。


春繁はそう言うと、さっさとお風呂に入ると、急に悠美がもじもじとし始めた。


舞は、そんな悠美を見て、笑いながら言った。


「悠美、お手伝いはもういいわ。

あと、コロッケを揚げるだけだから。

 悠美も、繁ちゃんとお風呂に入ったら。」


「本当!?」


その一言に悠美は顔を輝かせた。


舞は、笑いながら頷いた。


「じゃあ、また、お風呂から出たらお手伝いするからね。」


そう言って、悠美はそそくさとお風呂場に行き、裸になりお風呂場のドアを開けた。


「繁おじちゃん、一緒に入ろー」


「おお」


春繁も、笑いながら答えた。


「もう、小学1年生になっても、おじちゃんとお風呂かしら。」


舞は笑いながら脱ぎ散らかした悠美の服を片付け、悠美のために、バスタオルとパジャマを出しておいた。


「ねえ、繁おじちゃん、聞いてよ。」


「ん?

 なに?」


春繁は、悠美の長い黒髪を洗いながら聞いた。


「うちのクラスの男子って、おばかばっかりなの。」


「え?

 なんで?」


「だって、漢字の書き取りが出来なくて、嫌ってほど宿題を出されたのよ」


「ええー?

 小学校の1年から書き取りの宿題が出てるんだ。

 あ、悠美、シャワー掛けるから。」


「うん。」


春繁は慣れた手つきで悠美の髪を洗い、シャワーでシャンプーを洗い流した。


悠美は、春繁の大きな手でシャンプーされるのが好きだった。


次に春繁は悠美の髪にリンスを付けていた。


「そうなの。

 だから、さっきまでずっと、書き取りの宿題やってたのよ。」


「あははは、たいへんだな。

 でも、小学校は楽しい?」


「うん、お友達がいっぱい出来たから、面白いの。」


「そっか、それは良かったね。

 さあ、今度は、リンスを流すからね。」


「うん。」


リンスを流した後、悠美は湯船につかり、その間に、春繁は自分の髪から身体を洗っていた。


「繁おじちゃんも、小学校の時、宿題、たくさん出た?」


「うーん。覚えていないな。

 それより、しょっちゅう、立たされていたのは覚えているけど。」


「え?

 なんで?」


悠美は、春繁が良く立たされたということに興味を持ち、湯船から身を乗り出して聞いた。


「うーん、僕が小学校の時、忍者のテレビが流行って、皆で忍者ごっこしていたんだよ。

 それも授業中に。

 『この葉隠れの術!』なんていって、机の下に隠れたり。」


春繁は、身ぶり手振りジャスチヤ―を交えて悠美に説明した。


悠美はそのたびに、ワクワクして春繁の話を聞いていた。


「それで、先生に見つかって、『立花君、廊下で立って修業しなさい』ってね。」


「あははは、繁おじちゃん、だめだめだったんだ。」


悠美は、ケラケラ笑って言った。



「まあ、なんて楽しそうなのかしらね。」


舞は、風呂場から聞こえてくる悠美の笑い声を聞いて、つい顔をほころばせた。


「出たよー!!」


春繁と悠美の声が重なって、お風呂から上がったことを知らせる声が聞こえた。


「バスタオルとか、パジャマ、出しておいたからね。」


「はーい。」


仲良く二人の声が重なって、舞は、こらえきれず、ゲラゲラ笑ってしまった。


「なんか、舞ちゃん、笑っているよ?」


「いいの、舞ちゃんは、笑のツボに入っただけだから。」


「笑いのツボ?」


「あとで教えてあげるね。

さあ、風邪をひかないように、よく身体を拭くんだよ。」


「えー、面倒くさい。」


悠美は、期待を持ったような声を上げた。


「しかたないなぁ、ほら。」


春繁は悠美のバスタオルを取り、髪をごしごしと吹き始めた。


「あわわわわ…。」


悠美はお可笑しそうに声を出した。


「髪の毛を拭いてもらっている時に声を出すと、面白い声になるの知ってた?」


「えー、それは知らなかったな。」


春繁は悠美の髪の拭くとバスタオルを肩にかけた。


「あとは、自分でちゃんとね。」


「はーい。」


悠美は満足したような声を上げた。


二人が、パジャマを着たころ、舞が頃合を見計らってか、声を掛けてきた。


「さあさあ、二人とも、こっちに来て冷たいものでも飲みなさい。」


「はーい。」


春繁と悠美は、また、一緒に返事をした。


「もう。」


舞は呆れたように笑う。


春繁と舞のアパートは和室の六畳と八畳の一間ずつと台所、あと、このタイプには当時珍しい、トイレと浴室付だった。


窓に面した和室が寝室、真ん中の和室がリビング兼舞の仕事場であった。


リビングとして使用している部屋にはテレビやオーディオがあり、そこでテレビを見たりくつろぐことが出来た。


「あ、今何時?」


悠美がいきなり時間を気にして言った。


「今?

 5時半だよ。」


春繁が何事かと答えた。


「繁おじちゃん、テレビ見ていい?

 いつもの『魔法のマツ子さん』をやっているの。」


「いいよ。

 テレビつけて、好きな番組を見なさい。」


「そうね、ご飯も後30分位だからちょうどいいかも。

 『魔法のマツ子さん』て、30分ものだもんね。」


横から、舞が口を挟んできた。


「え?

 舞も、その番組知っているの?」


「ええ、結構、面白いわよ。

 魔法の呪文を言って、大柄で熊みたいな主人公の『マツ子さん』がいろいろな職業の人に変身して、難しい事件を解決するのよ。」


「舞ちゃんも見てるんだ。

面白いもんねー。」


悠美の声に舞も相づちを打つ様に答えた。


「ねー。」


「じゃあ、つけるね。」


「どうぞ」


テーブルには舞が麦茶を入れたコップを用意していた。


悠美と春繁は、コップの麦茶を飲んでテレビを見ていた。


春繁が、座椅子に寄りかかり、テレビの方を向いていると、悠美がテレビを正面に見ながら後ろ向きで春繁に近づいて来る。


「!」


そして、ちょこんと春繁の脚の上に座り、上半身を春繁の身体に寄りかかるようにし、まるで、春繁を座椅子替わりにするように座った。


春繁は、まんざらでもないような顔をして、そのまま、悠美を座らせ、一緒にテレビを見はじめる。


季節は7月に入り、日中は汗ばむ陽気になってきたが、その当時の夏は30度を超えることが滅多になく、また、夕方になると涼風が吹き、窓を開けていれば、まだ、扇風機も必要ないほどの心地よさだった。


「まあ。」


舞は、春繁を座椅子替わりにしてテレビを見ている悠美を見て、微笑んで声を漏らした。


春繁はそれに気づき、舞の方を見て、片目でウィンクをする。


番組が終わるころ、ちょうどコロッケも揚り、夕飯の準備が出来きたところだった。


「あー、面白かった。」


悠美は、そういうとテレビから目を離し、テーブルの方に目をやった。


「うわー、御馳走がいっぱい!

 もう、お腹、ペコペコよー。」


悠美は、テーブルの上に並んでいるコロッケや卵焼き、カレーライスを見て、興奮気味にはしゃいだ。


「さあ、たくさん食べてね。

 あっ、その前に、悠美、ちょっと来て」


舞が悠美を手招いた。


「うん。」


悠美は、返事をして舞の傍らに座った。


「髪を結んであげるから、ちょっと、後ろ向いてね。

 折角、お風呂できれいになったでしょ。

 ご飯で汚さないように、結んであげるからね。」


悠美の長い髪を、舞は後ろで束ね、リボンでとめた。


「はい、いいわよ。」


そういうと、悠美は鏡のところに飛んでいき、自分の後姿、リボンを気にしているのかじっと見ていた。


「さすが、小1といえども女の子だな。」


春繁は、鏡を見ているいろいろなポーズをする悠美を見て、感想を漏らした。


「女の子は、そういうもんよ。」


舞も笑いながら答えた。


「わー、このリボン、可愛いい。」


悠美が気に入ったように、声を上げた。


「それ、悠美にプレゼント。

 この前お店の前を通ったら、その可愛いリボンがあったの。

 悠美に、似合うかなと思って。」


「わーい、舞ちゃん、ありがとう。

 とっても気に行ったわ。」


「さあ、じゃあ、ご飯が覚めないうちに食べましょう。」


「はーい。」


悠美はテーブルに自分の食器などが置かれている前に座った。


そこは、舞と春繁に挟まれたところで、二人の顔が良く見える、悠美の指定席だった。


「じゃあ。

 いただきまーす。」


「いただきます。」


悠美と春繁が声を揃えて『いただきます』を言うと、また、舞はおかしくなって笑った。


「はい、召し上がれ。

 うふふふ」


「僕は、まずは、コロッケを頂きます。」


「私は、舞ちゃん特製の卵焼きー。」


春繁と悠美は各々自分の好きなおかずをお皿に取り、かぶりついた。


「美味しー。

 やっぱり、舞ちゃんの卵焼きは、世界で一番おいしい。」


「うん、このコロッケも、滅茶苦茶うまい!」


「えへん。

 腕がいいからね。」


舞は、自慢げに腕を曲げ、力こぶを作って見せた。


「それに、そのコロッケ、悠美が丸めてくれたのよ。」


「えー!

 だから、美味しいんだ。」


春繁が感心して言うと、悠美も口に卵焼きを頬張りながら、力こぶを作って見せた。


それから、皆、思い思いのおかずを取って食べたり、悠美の小学校の話しなどを聞きながらにぎやかな夕飯を過ごした。


舞も春繁も悠美の話を聞いたり、喋らせたりするのが上手で、悠美はご飯を食べながら、楽しそうに話を舞と春繁に聞かせていた。


舞と春繁は、そんな楽しそうな悠美を見るのが大好きで、一生懸命、悠美と話を合わせていた。


「ご馳走さまでした。」


にぎやかな夕食が終わり、悠美と春繁が、『ご馳走さま』をした。


「まあ、よく食べたわね。」


舞がそう驚くほど、テーブルの上のお皿は空になっていた。


「だって、本当に美味しかったんだもん。

 でも、お腹、ぽんぽん。」


「ふふふ、じゃあ、少し食休みしていなさい。

 食後に桃を向いてあげるから。」


「桃!?」


悠美が目を見開いて、驚いた顔をした。


「私、桃、大好き!

 うれしいなー。」


悠美は、鼻歌交じりに身体を左右に振って、喜んでいた。


その食後の桃も食べ終わり、舞は後片付け、春繁は布団の用意を始めた。


「舞ちゃん、片付け、手伝うね。」


「あら、ありがとう。」


悠美は、一生懸命、テーブルの食器を下げ、舞のところに運んでいた。


舞も、嬉しそうに、悠美から食器を受け取っていた。


「何か、本当の親子みたいだな。

 僕らに、子供が出来たら、やっぱり、こうなるのかな…。」


仲良く片づけをしている舞と悠美を見て春繁はつくづくと思った。


布団がひけたのを舞が目ざとく見つける。


「悠美、ありがとうね。

 あとは、私がやるから、悠美は、お布団の方を手伝ってあげてね。」


「うん。」


そう言って悠美が振り向くと、もう春繁が布団をひき終わったところだった。


布団は川の字で、真ん中に少し小さめの悠美の布団がひいてあった。


「わーい。

 私のお布団だぁ。」


悠美は、目を輝かせ、どしんと布団に飛び込んだ。


「おいおい、近所迷惑だから、あんまり大きな音は立てないようにね。」


春繁は、笑いながら、やんわりと注意した。


「はーい。」


悠美は、舌を出して、謝った。


そして、三人の布団の上をはじからはじまで、転がって遊び始めた。


「こら。」


春繁は、そう言いながら、悠美を捕まえて、くすぐった。


「いや、あはははは。

 くすぐったい。」


きゃあきゃあと悠美は大はしゃぎをした。


「こらぁ。

 繁さんも悠美を騒がせないでよ。」


あまりの悠美のはしゃぎっぷりに、舞も苦笑いしながら春繁に注意した。


「ああ、ごめん、ごめん。

 さあ、悠美、歯磨きしよう。」


「はーい。」


そう言って悠美と春繁は二人で仲良く洗面所に行き、並んで歯磨きをする。


「まったく、まるで、本当の親子みたい。」


そんな二人を見て、舞は微笑んだ。


「私たちに子供が出来たら、毎日、こういう光景かしら。」


舞も、春繁と同じことを思っていた。


寝る支度が出来、春繁と悠美は布団の上に転がった。


「ねえ、繁おじちゃん。

 明日は、何して遊ぶ?」


「ん?

 何でもいいよ。

 悠美は何がいい?」


「うーん、お手玉でしょ、おままごとでしょ、あとねえ…。」


悠美は眉間にしわを寄せて真剣に考えていた。


「そうそう、明日は、光一君がくるんでしょ。」


「あっ、そうだ。

 お兄ちゃんが来るんだった。

 じゃあ、野球とか。

 私、バッターね。」


「はいよ。

 明日も天気がよさそうだから、何でもできるよ。

 楽しみにして、そろそろ、お休み。」


「はーい。」


「じゃあ、ここ、閉めるわね。

 悠美、おやすみ。」


二人の会話を聞いていた舞が、話しかけた。


「おやすみなさい。

 舞ちゃん。

 今日、夕飯、すごく美味しかったわ。」


「ふふふ、良かった。

 また、あしたね。」


そういって寝室とリビング代わりの和室を仕切る障子を閉めた。


暗くなったが、カーテン越しに月明かりが部屋に入ってきて、しばらくして目が慣れると部屋は、ほんのりと明るかった。


“もぞもぞ”と悠美は春繁の方に寄っていき、自分の足を春繁にくっつけた。


「繁おじちゃんって、あったかいね。」


「そうか?」


「うん、温かくて気持ちいい。」


そういって悠美は、春繁の布団の中にもぐりこんできた。


「温かい。」


嬉しそうに悠美は満足げに言った。


春繁は、そんな悠美の髪を微笑みながら撫でると、しばらくして、悠美の寝息が聞こえてきた。



春繁は、そっと、悠美が寝たのかを確かめ、抱きかかえて、悠美の布団に寝かせた。


「悠美、寝たの?」


そーっと、障子を開いて舞が春繁に声をかけた。


「ああ、ぐっすりだね。」


「悠美は、寝つきが良いし、一度寝ると朝までぐっすりだから、手が掛からないわね。」


「ああ、舞も片付け終わったんだろ?

 お風呂に入って、一杯飲むか?」


「さんせーい。

 じゃあ、さっさと入ってくるわね。」


舞は、楽しそうに言って風呂場に入って行った。


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