洞窟 【月夜譚No.16】
この穴の向こうには、どんな世界が広がっているのだろうか。数メートル先までは陽光に照らされているが、それより奥となると闇が塗り込めて、何があるのか全く窺い知れない。生き物の気配もなければ音も聞こえず、得体の知れない不気味さばかりが漂っている。
村のはずれのこの場所に、ある日突然この洞窟が現れたのだという。これだけ大きな洞窟を短時間で掘るには、人間には手が余る。だからといって自然にできたとも言い難い。
洞窟を見上げている男の背後から風が吹き込んで、その長いコートの裾を翻す。まるで穴の中へと誘い込んでいるようにも感じられる。
男は頭を掻いて嘆息を零した。正直に言えば、この中には足を踏み入れたくはない。こんな不気味な穴の中に、誰が入りたがると言うのだろう。現に村民達はここにはあまり寄り付かないという。
しかしこれも仕事だ。仕方がない。男は再び息を吐き出すと、重たい足を踏み出した。