第六話 『うれし涙』
やっと山頂についた
そこから見える光景は絶景だった
ここは、ちょっとした遊具が置いてあり、とても広いグラウンドがある。
ここで、やっと昼食だ
「はーい。ここで昼ご飯を食べるぞ〜。」
そう言うとみんな、友達のところへ行って、シートを敷き始めた。親もそれについて行って、親同士でのおしゃべりが始まった。
俺はソラを探した。
でも、どこを探してもいない。
公園の看板の下。トイレの裏。グラウンドの端。
探してみるがやっぱり、ソラはいない。すると、さびているブランコの「ギ―」という音が聞こえてきた。
行ってみると、そこにはソラがいた。
学校でもいつもブランコに乗っている。
それも、一つしかないブランコに…
二つ並んでいるブランコもあるのに、ソラはいつも一つしかないブランコに座っている。
こぐわけでもなく、ただじっと座って・・・
「よッ、ソラ。」
「イツキ先生……」
ソラはまたうつむいていた。ソラの髪は銀色のなかに黒色が混ざっていて、太陽の光をうけるとキラキラ輝いた。
「ブランコ好きなのか?」
「まぁ」
「弁当は?」
「ない。」
「持ってこなかったのか?あれだけ持って来いって言ったじゃないか?」
「買ってくる時間がなかったんだよ・・・」
するとソラのお腹から”グー”という音が聞こえてきた。
「ほれ。」
俺がおにぎりを差し出すと、ソラは水をやった時のように驚いていた。
「くれんのか!?」
「ああ。コンビニのだけどな?ほら、食え!」
すると、ソラは少し戸惑いながらもおにぎりを複雑な袋から出して
一口食べた。
そしてまた一口。一口と…
半分くらい食べるとソラは口を開いた。
「なぁ。イツキ先生?先生はどうして俺にいろんなものをくれるんだよ?ほっとけばいいに…」
俺は返事に困った。
お前がかわいそうで、見てられなかった
なんて言えない。だって、俺ら大人がソラにこんな苦しみ与えていたのだから・・・
「なんでだろうな・・・?」
あいまいな返事をしてしまった。
「今までの先生達は、俺に目も合わせてくれなかった。給食だって、みんながつぎ終わってから
俺が最後に残ったものをとるんだ。時々残ってなくて、食べない日もあった。だからさ・・・
イツキ先生がおにぎりくれて、やさしくしてくれてすごくうれしいんだと思う。なのに・・・ なのにさ・・・」
ソラの目からは涙があふれていた。
「どうして涙が出るんだろう・・・?悲しくなんかないのに・・・どうして・・・」
俺はそんなソラを抱きしめた。
ソラは声を必死にこらえながらわずかに震えて泣いていた。
だが、次第に嗚咽が漏れだして大きくふるえながら泣いた。
「ソラ・・・その涙はな、悲しいから出てるんじゃないんだぞ?それは、『うれし涙』って
言うんだ。」
「うれし・・・涙ッ?」
「ああ。そうだ。うれしくてたまらないときに出る涙なんだ」
「ははッ。そっか。俺って今うれしいんだ。」
そう言うとソラは満面の笑みで笑った。
笑った顔はどこかあどけなくて、やっぱり子供だった。