第三十四話 別れ
ザァ――――――
―――ごめんッ…
「―――ッごめッ―――ごめんッごめん!」
――――空ッ
『別れ』
「―――…らッ――――そらッ!空!」
折角心地よく寝ていたのになんなんだ。と思いながらも、焦った声に目を開けることにする。
「乙樹せんせぇ?眠い・・・」
目を開けてみたはいいが何にしろ眠い。
時計に目を移せばなんとまだ3時じゃないか!
瞼が重い。
これはすぐにでも寝れそうだと思いながらも懸命に起きる。
「すまん空。逃げてくれ。」
「うん。・・・・え?今何ッ
「逃げるんだ!」
「いや、だから何で?」
いきなり先生が怒鳴るから、隣で寝ていた翔も起きた。
「何なに?」
「逃げるんだ!今のうちに!」
「は?逃げる?何々どゆこと空?」
先ほどから「逃げろ」の一点張りの先生に何かを読み取った空はすぐに着換える準備をし始めた。
「わかんないけど、とにかく逃げよう。そーした方がいいんでしょ?先生」
「ああ。」
苦しげにうなずく先生に翔も着換え始める。
―――大丈夫だ。絶対に空は守る。これからすぐに逃げれば・・・
空が鋭い子供で良かったと改めて感じた乙樹だったが、考え事をしているうちに着替え終わった空と翔が来た。
「いいか。翔はすぐに家に帰るんだ。空とはここでお別れだ。」
「ッ!?なんで?俺も行く!なんかわかんねえけど空・・・。あぶねえんだろ??」
「翔。帰って。」
「空!?」
「大丈夫。俺には先生がついてる。」
「でもッ「翔!」・・・分かった。でもその前に先生!なんで空は逃げなきゃなんねえの?」
翔の言葉に空も疑問の目を向ける。
いずれはわかる事。ふたりに言っておこうと、決断しふたりに目線を合わせる。
「これから空は命を狙われる。」
「「!!!」」
「俺は空を助けたい。だから逃げてほしいんだ。」
「・・・それは、俺が日和家のものだから?」
「ッ!!!!」
「俺、知ってるよ。俺は日和家の生き残りでみんなに嫌われてたことも酒井が俺、いや。俺たち日和家を恨んでることも。」
「なんで・・・!?」
「酒井から聞いた。」
そんなッ!?こんな残酷なことをあいつはッ!!!
いや、落ち着け。俺が焦ってどうする!今一番不安なのは空だろう!
「・・・そうか。翔もこのことは・・・?」
「知ってるよ。空に聞いたから。」
「ならわかるよな?」
乙樹先生が言いたいことは、酒井が俺を殺そうとしていることだろうな・・・。
でも、先生が俺を逃がしたら・・・
「先生。わかるよ。だから、逃げる。」
「そうか。なら「一人で逃げる。」
え・・・?」
「空?」
「俺一人で逃げる。先生はついてこなくいい。」
「そんなッ空!一人じゃダメだ!ぜってぇ!」
「翔。早く家に戻れ。」
「ッ!!!お前・・・お前一人でなんとかできる問題じゃねえだろ!?」
「その通りだ。俺がついて行けば絶対大丈夫だ。心配すんな!な?」
「乙樹先生。このことがばれたら先生どうなる?先生には家族がいる。翔にだって。それに、俺とっておきの逃げ道知ってるんだ!昔この町抜け出そうとしてた時見つけたんだ。絶対に見つからない。だからさ!大丈夫!」
『来るな』そう言っているとしか聞こえない空の言葉にふたりとも押し黙った。
それを確認した空は玄関へ向かう。
一度だけ振り返り家の中を眺める。
なんとなく、もう二度と戻ってこない気がした。
一人で暮らしていたこの部屋は改めてみると大きかった。
10年間。それは長かった。
最初は何も者がなかった部屋にいつしか翔たちと遊ぶゲーム機、おかし、パーティの道具、漫画
いろんなものがあふれた。
大嫌いだったこの部屋が、監禁所のようだったこの部屋がぬくもりにあふれた場所になった。
「ばいばい。」
ばいばい。翔。乙樹先生。辰哉も隆弘もクラスのみんなもこの部屋も。
玄関のドアが「カチャ」という音を立てて閉じた。
空は黒い分厚雲で覆われていた。
「先生。空とまた会えるよな?」
「・・・・・。」
何も言えなかった。子供一人で国を相手に逃げ切れるとは・・・正直思えない。
それなのに俺は、
空を守るなんていったくせに、
これじゃ、守れない云々ではない。
見捨てたも同然じゃないか・・・。
「翔。家まで送る。」
「先生・・・。空死なないよな?」
「翔今日の事は忘れるんだ。絶対に誰にも言っちゃいけない。お母さんにもだ。」
「先生!!!」
「たぶんもうすぐでここに酒井の手下がくる。早く出るぞ。」
「話聞けよ!!!逃げんじゃねえ!!!」
「いうことを聞けッ!」
「ッ!?」
「早くここから逃げなければ俺もお前も犯罪者だぞ!?」
「だったら何だよ!!」
「強がるな!・・・怖いんだろ?」
「ッんなこと!」
「俺は怖い。」
「!!!」
「だから、逃げよう?」
正直、怖かった。空が死ぬのはいやだ。絶対にいやだ。でも・・・
でも、今日の事がばれて俺が死ぬかもしれない。
辰哉みたいになるかもしれない・・・
父ちゃんも母ちゃんも罰を受けるかもしれない。
ごめん・・・
「ごめんッ・・・空ぁ!」
『ニュースです。今朝酒井様から新たな命が出されました。その内容は
「日和家の生き残り、日和空を抹殺せよ」です。
また、この命を果たした方には恩恵として、これから先その方とご家族、未来永劫に自由を保障するするそうです。」
自由になりたければ、捕えよ。
哀れなあの子供を・・・