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第二十六話 一人目の犠牲者
10月13日
午前10時
比良元 辰郎 38歳
憲法第56条に違反したことにより
処刑された
直後、女性の悲鳴が響き渡り、あたりは騒然とした。
翔は目を見開き、その瞳には恐怖と悲哀がうつっていた。
雄大はくちをがくがくと震わせ、崩れ落ちるように泣いた。
空は、ただただ呆然と立ち尽くした。
ふとその目に辰哉がうつった。
そのうつった姿に目を離すことができなかった。
いつものしかめっ面のしまりがない顔とは全く違い、怒りに満ちあふれた形相で、
きっと本人も気づいていないだろう。次から次へと涙がこぼれていた。
痛い。
苦しい。
つらい。
息ができない。
隣では母ちゃんが泣いてる。
肩を震わせて、体を小さく丸めて。
いつもじゃあり得ないくらい小さく。小さくなって。
どうしよう。
苦しい。
母ちゃん。父ちゃん。
母ちゃん。
父ちゃん。
とうちゃん・・・。
10月13日
午前10時
比良元 辰郎 38歳
酒井章夫によって始まった最悪の時代の
最初の犠牲者となった。