第十八話 サッカーと友情
俺と翔、辰哉、雄大は今日もまた公園で遊んでいた。
「よーっし!行くぜ雄大!」
「来い!翔」
「必殺!スーパー☆ゴールデン☆スペシャルキーーーーック!!」
「絶対とーーーーーーーーーる!!!」
「「どりャーーーーーーーーーーー!」」
ふたりの叫び声とともに公園に風が吹き、砂ぼこりが起こった。
ふたりのやりあいを見ていた空と翔はつばを飲む。
「きっ・・・・決まったのか・・・」
「雄大が取ったのか・・・・」
徐々に砂ぼこりが消え、あたりが見渡せるようになる。
「とったどーーーーーー!」
砂ぼこりが消えたと同時に、雄大の歓声が聞こえた。
「くっそー!絶対決めれると思ったのに!!!」
「僕に勝つには100年早いよ。」
雄大が得意げに腕を組んで言った。翔は手をひざにおいてくっそーと嘆いている。
「まぁまぁ翔。相手がワリーよ。雄大は一応サッカー部なんだからよ」
「そうだったんだ。知らなかった」
「んあ?空知らなかったのか!こいつ、すげーンだゼ!選抜に選ばれるくらいだかんな」
「雄大すごいんだな。初めて憧れたよ!」
「ははっ!言ってくれるじゃん空」
最近空もやっと人と接することに慣れてきたらしい。
冗談交じりに笑いあうことができるようになってきた。
4人ともその場に座り、荒れていた息を整えながらしゃべっていた。
するとそこに4人組がやってきた。
一緒にリレーに選ばれた昇と友原汰一、草野陸人、名切陽介だ。
その中の一人、名切陽介がしゃべってきた。
「よぉ翔。いっつもここで遊んでたのか?」
「ああ。いいだろここ!」
「ああ。お前ら4人とも、学校終わったらさっさと帰るだろ?でもお前らが遊んでるとこ見たことなかったからよ。気になってたんだ」
「ああー。ここ結構遠いからな。」
「何やってたんだ?」
「サッカー。お前らもやんねーか?なぁ!いいよなぁみんな?」
「おう。多い方が楽しいからな!」
「僕もいいよ!誰にもゴールはさせないけどね!」
「空は?」
「もちろん!」
空たちは、新たに4人の仲間を加えてサッカーを始めた。
ちょっと前まで、空の事を悪く言っていた奴らも、今となってはハイタッチして一緒に喜びあう
『友達』になっていた。
「なぁ空。」
疲れて8人で円になって座っていると、隣の翔から声をかけられた。
「なに?翔」
「お前さ、名前なんて言うんだ?」
「「「「えっ?」」」」
「あ~。ワリ―ワリ―。聞き方が悪かった。苗字だよ。苗字!」
「あっ!それ、僕も思ってたんだ。」
俺も俺もとみんな翔の話題に乗ってきた。
「わからないんだ。」
「なんで?そう言えば、父ちゃんや母ちゃんは?兄弟とかいねぇの?」
「いないよ。」
「じゃあ、ずっと一人…」
「そう。ずっと一人。それが当たり前だって思ってた。」
「でもッ、でもさ!空を生んだ奴はいるはずだよな!」
「でも、今いない…」
「それって」
それ以上は誰も言わなかった。いや。言わなくても分かっていた。
急に静かになり、風が冷たく感じた。
汗が冷えたからだろうか。
寒いのは嫌いだ。
寒さは心も冷たくしてしまうから。
コタツに入っても、暖かい布団に入っても。
心にはいつも冷たい風が吹いてくる。
しかもそいつは、今日みたいに
いきなり吹いてくる。
気付いたら、もう吹いているんだ。
「寒みーな。」
いきなり翔の手が俺の手の上に乗っかってきた。
「うわッ!空の手つめたッ!汗冷えたか?このままじゃ風邪ひくべ。今日は帰るか!」
「そうしよう。また明日遊べばいいしね。」
「おう。じゃ、俺らはこっちだから!じゃーなー」
「おう!じゃーなー。んじゃ空。お前も早く帰れよ!じゃ明日な」
「じゃあな」
そう言ってから、しばらく翔を見送った。
「翔の手、暖かかったなぁ。」
そう思った。