第十六話 光と闇
「俺、運動会そのものに出ないから」
「えっ?なんで?」
「なんでって言われても…」
『出ちゃいけないでしょ?』と言いたかったけど、空はそれが言えなかった。
もし、そう言って『うん。駄目』と翔に言われたらショックだ。
だけど、しつこく問いかけてくる翔に負けてしまった空は、全部吐き出した。
「そっか・・・」
さすがの翔も下を向いてしまった。空はそんな翔を見て、やっぱり言わない方がよかったな。と後悔した。
「空はさ、どうなの?」
「え?」
急に聞かれて困った。俺はどう?そんなこと考えもしなかった。翔はいつも空の考えていた答えと全く違うことを聞いてくる。
「俺は・・・」
「空は、運動会出たくないの?」
「・・・・」
「周りがなんと言おうと、まずは自分がどうしたいのかだろ?」
まただ。翔はいつも俺が考えたことがなかったことを問いかけてくる。
いつもまっすぐに俺を見つめて、無言で問いかけてくる。
でも不思議と、俺はその問いの答えを簡単に見つけられる。
「俺は、俺は運動会に出たい。」
「そっか。じゃ何に出る?」
空が勇気を出して言った言葉に対して、翔は当たり前のようにスルーだ。
この二人は息が合っているのか、合っていないのか・・・
でも、いいコンビなことは確かだ。
「辰哉と正弘は何に出んの〜?」
「俺どれでもいい。」
「辰哉はリレーでしょ?このクラスで一番足が速いんだから」
「えっ!辰哉って、そんなに足速かったのかよ」
「さあな」
「さあなって・・・。んじゃ、雄大は?何に出んの?」
「僕は玉入れかな。」
「おっ!俺も玉入れしたいと思ってたんだよね。空は?」
「はい。席に付けー。2時間目始めるぞー」
ちょうど乙樹先生が入ってきて、この後の話は後になった。
「2時間目は運動会の種目決めをします。4年生は全員参加のダンスと、学年別リレーと、徒競争と、玉入れだ。さぁ少し時間をやるから、何に出たいか考えてー」
「先生。足が速い人は、リレーにした方がいいと思います!」
「うーん。そうだなぁ。みんなそれでいいか?」
クラス全員が賛成した
「じゃあ、比良元辰哉と佐藤昇と桐沢翔と空だな。」
「え?」
「「「空!?」」」
「俺?」
「ああ。辰哉は7秒28、昇は8秒11、翔は8秒14、空は7秒32だからな。」
「空が7秒台…知らんかった」
「空って足速かったんだね!7秒台なんて辰哉だけだと思ってたよ」
「まぁまぁ、リレーはいいとして、他の競技だな!さぁあとは早いもん順だ!みんな好きなの選べ!」
「そんな適当でいいのかよ…」
「というわけで、リレー組は早速今日から練習するぞ!」
「なんでリレー組だけなんだよ…めんどくせー」
「そうだぜ!こっちには辰哉いんだし、空立っているし練習なんてしなくても大丈夫だろ!」
「甘いな辰哉も翔も。」
「なんでだよ」
「リレーってのわな、足の速さも大事だが、それ以上に大事なのがあるんだ!」
「バトンパスだろ?」
「うっ…俺が今から言おうと…まぁいい。その通りだ昇。さすが陸上部だな」
「なぁ先生。そのバトンパスってやつ、チャッチャとやっちゃおうぜ!俺ら雄大待たせてんだ」
「今日は辰哉んちでゲームする約束してんだよ。なッ!空」
空は深くうなずいた。
乙樹先生は肩を落として落ち込んだ。
「お前らなぁ、勝ちたいと思わないのか?」
「そりゃ、勝ちたいけどさぁ〜、2か月も前からはやる気でないべ」
リレー組4人はうんうん。とうなずいた。
「まぁ、それもそうだな…よし!じゃあ今日はいい!遊んで来い!」
「イェーイ!さすが先生!」
「雄大ー。練習終わったぞー。早くいこーぜ―」
「うん」
グラウンドに来るときはあんなにだらだら来てたのに、帰るとなるとすごく早い。
そんな事を思いながら乙樹はわざわざ持ってきたバトンを持って職員室へと向かっていた。
そういえば最近空が明るくなった。翔に空のことを相談された次の日から。
このままでいてほしい。このまま、
ずっと空が明るければいいのに、
でも、
それは叶うことのない願いなんだ。
朝がある限り、夜は必ず来る。
光がある限り、闇がある。
光があるから闇は見える。闇があるから、光がまぶしく見えるんだ。
でも、あと少しでもいいから、空が輝ける時間を、長く、長く。
ただ、そう願うことしかできない。
だって空の未来には、闇しかないのだから…