第十五話 運動会
「はい。みんな。今日から早速運動会の練習が始まる。体操服を忘れた奴はいないか〜!あと、
お茶ちゃんとたくさん持ってきたか〜!忘れたものは、水道水を飲め!まずいぞ!」
「え〜。俺忘れちゃったよ、お茶〜」とか言いながら盛り上がるクラス
運動会…
俺にとっては最悪の行事だ…
俺たちの学校は、春に運動会がある。
まだクラスになじめないうちにこんな、クラスが団結して競うなんて最悪だ。
しかも俺にとっては、さらに最悪だ。
また、いつものように、運動会の練習だけサボろう
空はそんなことを考えながら、ボーっとざわつく教室を眺めていた
空は、なぜ運動会という行事にここまでざわつくのか全く分からなかった。
空が運動会に参加したのは、小学校一年生の時、初めて外の世界に出てきたころだ。
しかし、それが最初で最後の運動会だった。
なぜなら
言うまでもないと思うが、人々の視線が空に刺さり、空が参加した種目だけ、冷たい空気に変わった。それから、学校全員の生徒から、
「お前のせいで、運動会が台無しだ」
などという言葉を、すれ違いざまにいやというほど言われたのだ。
それからの空は、荒んだ眼をし、心を閉ざし、感情を押し殺したのだった
「なぁ空。お前何の種目でる?俺さ、玉入れしたいんだよね。一緒にやンね?」
いつの間にか隣に来ていた翔に急に声をかけられ、びっくりした空は、大げさにビクッと体を動かした。
「うわっ、びっくりしたぁ〜。ってか、どうしたんだ?空」
「いった〜…;」
「ひじ…打ったのか?」
空は、必死に痛みをこらえながらうなずいた
空が起こしたあの大きな音に、教室は静まり返り、みんなは必死に痛みをこらえている空に注目している。
「おい・・・空」
「ピーンて…」
「えっ?」
「ひじがピーンってなった…」
「ピーン・・・・?」
ほんの一瞬沈黙になると、次の瞬間翔が爆笑し始めた
「ガァッハッハッハ!なるほど!ピーンな!あのピーンってなるやつな!クゥッフッフ…」
翔は我慢してるのか、爆笑してるのか、わからない気持ち悪い笑い方をしていた。翔に続けとばかりに一人、また一人とこらえきれなくなって笑いだした
「空。おもしれ〜」
ずっと痛みに耐えていた空は、痛くなくなった腕をぶんぶんふりながら笑った
「おら〜、何爆笑してんだ?早くせきつけー」
一時間目が始まる時間になり、乙樹先生が入ってきた。それでも、翔は、必死に声を押し殺しながら笑っていた。それに気付いた翔の周りの人が笑い始め、また、教室が爆笑の渦に飲み込まれていってしまった。
空は、少し照れながら、みんなと目を合わせながら笑った
「なんなんだよ!先生にも教えてくれよぉ。なぁ」
乙樹先生は、みんなに混ざりたくて、必死にわけを聞きだそうとしている。
が、あまりにも笑いすぎて、みんなうまくしゃべることができず、中には、「トイレ!」と言って駆け出していく奴もいた。それにもまた爆笑して、今日の一時間目は何もせず、笑うだけで終わってしまった。乙樹先生は
「くっそー。次の時間には教えてもらうからな!」
と言って、悔しそうな顔をしながら教室を出て行った
休み時間になり、早速翔がやってきた。
「翔笑いすぎだって。」
「だって〜」
なッと言いながら、そばにいた辰哉と正弘に同意を求めた。
辰哉はどうやらまだ笑っているらしい。
すると、いきなり笑うのをやめて、思い出したかのように振り返った
「そういえばさ、さっきは笑いすぎて忘れてたけど、空は、何の種目にでんだ?」
そういえば、一時間目が始まる前にいってたなぁと思いながら空は答えた
「何の種目にも出ないよ。てか俺、運動会そのものに出ないから」