佑太朗 1
枕元の携帯で時間を確認する。
午前十時半。
安アパートのこの部屋は東向きで、朝日で目覚めることが多い。
いぶかしんで外の気配を感じると、どうやら雨?もしくは曇りの模様。隣で真唯子は穏やかな寝息を立てている。
少し瞼は腫れている模様。
寝顔を見つめると、気配を感じたのか寝返りをうって僕に背を向ける。背中から抱いて、お尻のあたり、密着させる。
「やんないよ」
軽く振り払われた。
――ちぇ。
「起きた? 天気悪いみたいよ」
ベッドから起き出して、薄暗い部屋の電気をつけた。カーテンをずらして外を覗くと小雨が降っている。今日は一日引きこもりで決定かも。
真唯子を振り返ると、すっぽりと布団に包まれていた。
電気をつけて眩しかったから?
「真唯子?」
「――もぅちょっと」
かろうじて声が返った。部屋の電気を消す。
「どこ行くの?」
トイレに向かおうとしたら、声がかかった。
「トイレ」
「ん~」
聞こえた返事はそのまま寝息にかわりそう。トイレを済ませたら、真唯子の横で二度寝することに決めた。
二度寝から目覚めたら、二時をまわっていた。
僕より先に真唯子が起き出していて、着替えを終わらせている。けれど、瞼は腫れたままだったらしく眼鏡をかけ、長い髪を無造作に一つに束ねて、化粧もしていない。
「雨、やんだみたいよ」
「でかける?」
「ん、図書館、行きたい」
「図書館?」
「この間、見つけたの。新しいのかな? 比較的、きれいだったよ」
真唯子は背負える鞄を用意している。
自転車、ニケツで出かけるつもりらしい。鞄にいつものエコバッグを詰め込んでいる。
僕も鞄から服を取り出して、着替える。昨日洗濯してもらったのは、まだ乾いていなかった。
「――?」
洗濯物を気にしたから、真唯子は何かを言いたそうだ。たぶん、いつまでいるの?とかそういったこと。
でも聞かない。
彼女には今は新しい恋人がいて、でもちょっと事情が複雑らしいことしか知らない。僕がこうして泊まりにくることは黙認か内緒なのかも知らない。
真唯子の傍は、僕の避難所なんだ。
「おなか、まだ大丈夫? 本借りたら、ゆっくりお茶こみで何か食べよう」
真唯子の提案に頷く。彼女の聞き方はいつでも優しいと思う。玄関で自転車の鍵を手にする。
「道、教えてね」
「ん。区役所の辺」
「遠くない?」
かるく一駅分はあるんじゃないか。
「だめ?」
「じゃないけど。どうぞ」
「ありがと」
後ろに座るようにすすめて、まだ少し雨の匂いがする中、僕は自転車を漕ぎ出した。