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週末  作者: 永井有実
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真唯子 1


 九月最終の金曜日。


 いつもより少しだけ早くあがった仕事。飲みの誘いはもちろん断って、帰宅の途についた。


 最寄り駅近くのスーパーで冷えた白ワインと、鳥の胸肉を買う。

 それから、おろしポン酢。


「お買い物袋はお持ちですか?」


「はい」


 エコバッグを持参している。


 八月いっぱいで食品レジの無料配布を終了しましたと張り紙がある。「九月から有料になります」ではなく、「無料配布を終了した」らしい。以前はレジ袋を貰わない代わりに買い物に使えるポイントもつけてくれていたのに。一人暮らしのお給料日前は、実際このポイントが活躍する。

 受け取ったレシートを確認すると、二千ポイント程。


「ありがとうございました」のお辞儀に、「お世話様です」とお辞儀を返す。


 社会人になって、愛想が増したなと思う。出来るだけイヤな気持ちにならずに毎日を過ごしたいと思う。

 理不尽な扱いを受けるのは、仕事上だけで十分。


 スーパーからはあと十分ちょっと歩かないといけない。

 会社まではドアtoドアで五十五分。社会人二年目の一人暮らしにしてはいい環境だと思う。アパート自体はかなり年季が入っているけれど――。


 そんなボロアパートの玄関。

 鍵を差し込むときに、違和感があった。

 そっとドアをあける。

 1DKの間取り。普段は閉めないガラス戸が閉まっていて、その奥の部屋には明かりが見えた。足下には、見慣れたスニーカーがある。


太朗(たろ)ちゃん?」


 声をかけると、奥のガラス戸が動く。

 建て付けが悪いから、私は滅多に閉めないガラス戸が、意外にスムーズに動いて開いた。

 身をかがめて、鴨居をくぐり、姿を見せる。

「おかえり。戸、直しといた」

「ありがとう。――どうしたの?」

「ん?」

 あ。この返事。もう聞かないことにする。


 太朗ちゃん――北村佑太朗(きたむらゆうたろう)は、元カレ。大学時代の後半、お付き合いをしていた。同い年の一学年下(一浪)ダブりをかさねて、今は何年生?

「何年になったの?」

「三年」

「先は長いねー」

 彼は医大生だから、順当にいっても学生期間は六年間。

 最高で十二年間在籍できるみたいだけど。

 そんなわけで、私の卒業からちょっとずつ疎遠になった。なったはずなんだけれど、たまにこうして部屋にいたりする。

「いつ来たの?」

 ストッキングを脱ぎながら、声をかける。

「昼過ぎ。ゲーム出しちゃった」

 普段は使っていないゲーム機がテレビに繋がれていた。ゲームを終了させて、テレビ画面に切り替える。

「続けてもいいよ。おなかは?」

「ん、大丈夫」

 見るとポテトチップスの空き袋がゴミ箱にあった。

「学校は?」

「ん?」

 またこの返事。

答えたくないときの返事を知っているから、もうこれ以上はきかない。まぁ、聞かないと思ったことを忘れてまた聞いてしまったりするんだけれど。おなかの心配と学校のこと――母親じゃないっていうの。


 冷蔵庫にワインをひとまずしまう。

 太朗ちゃんの好きなコーラがすでに入っていた。コーラで思い出して、玄関先、割り物の炭酸のストックを確認する。箱買いが安いので、箱でストックしている。箱ストックの難点は、残数がはっきりしないところで――、残り四缶だった。


「買いに行く?」

 素足の足をみて首を振る。

「ボクが行ってくるよ」


 察したように言って、でも微妙な表情をした。

「お願いしていい?」

 お財布ごと手渡す。

 もちろん、エコバッグも。

「ポイントカード、ちゃんと出してね。お給料日前はポイントで食いつないでるから」

「おやつは?」

「三百円以内」

 玄関に座り込んで靴ひもを結び直す。

「お酒のむ?なら同じワインをもう一本お願い」

「酒豪」

「どっちが!」

 壁にかけてある私の鍵はスルーして、隣りにかけてある自転車の鍵を手にした。

「借りるね?」

「いってらっしゃい」

 見送った私は、いまのうちにお風呂を済ませてしまおうと思った。



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